第14話

 帝国軍第五将――イリア・ルージック。

 それはつまり、帝国内で五番目に強いとされている人物という事だ。

 当然、帝国軍第九将のシェロウ・キディランド(昔のデッドエンド)とは面識もある。



(まずいな……今更隠れようにもがっつり視線が合っちまったし……。そもそもあいつ、あんまり喋らないから何を考えてるのかぜんぜんわかんねぇんだよな。いや、俺も昔あんな感じだったし人の事は言えんのだが――)


 共生国では自分の素性を隠しているデッドエンドにとって、イリアとのこの邂逅かいこうは不都合以外の何物でもなかった。

 

 そうしてデッドエンドが一人どうするべきか頭を悩ませている中、イリアという少女は少々ぎこちないながらも諸侯に向けて口を開いた。



「メテオレイゲンの目的……それは星を輝かせる事。規模は……不明。だけどそんなに多くない。情報の提供は私達から」



 淡々と言葉を紡ぐイリア。

 しかし――



「星を輝かせる事? いや、そもそも貴方は何なのですか? 女王陛下のお知り合いか何かで?」


「情報の提供をしたのがあんな小娘とは……。女王陛下の悪い癖が出たという事か?」


「あの方は純粋だからな。なんでもかんでも信じてしまう所がある。その純粋さに惹かれる者が多いのは美徳だが、今回のこれは……」



 イリアの素性を知らない諸侯は彼女をただの少女とみなし、耳を貸そうとはしなかった。

 諸侯も帝国軍第五将の言葉となればもう少し耳を貸しただろうが、生憎と彼らはその事を知らない。


 その事を知っているのはデッドエンドと――


「彼女は元帝国軍第五将のイリア・ルージックさんです」


 訝し気な視線をイリアへと送る諸侯に向け、女王はイリアの正体を告げた。

 たったそれだけ。

 しかし、変化は劇的だった。



「帝国軍第五将ですと!? それは本当ですか女王陛下!?」


「そんな者がなぜここに!? まさか帝国が動いたと言うのか」


「もしやメテオレイゲンとは帝国が新たに作り出した新部隊の名称なのでは……」



 再び一気に騒ぎ出す諸侯達。

 先ほどまでと違うのは、諸侯がイリアに対して恐怖すら感じているという事だろう。

 特に先ほどイリアに対して暴言を吐いた者達は彼女と大きく距離を取り、小さく震えていた。

 それほどまでに帝国軍第五将という肩書きは重い。


 目の前に仮想敵国である帝国の将が現れたという事で慌てふためく諸侯。

 そんな中、デッドエンドとキーラはと言えば。



「デッドエンド様。女王陛下様は今――」


「ああ。俺の聞き間違いじゃなければ“元”帝国軍って言ってたな」



 女王がイリアを紹介した時に発した言葉について考えていた。

 そう――女王はイリアの事を元帝国軍第五将と紹介したのだ。

 それはつまり、今の彼女は帝国軍第五将ではないという事になり――



「イリアさん。やはり彼らにはわたくしから話します。そもそも、彼らの中には星持ちについて知っている者すら少ないのです。なので、何か足りないところがあれば補足だけお願いしたいのですが宜しいでしょうか?」


「………………驚愕。ここのみんな……偉い人でしょう? なんで知らないの?」


「ど、どうしてと言われましても……」


「強敵になり得る星持ちの情報を知らない指揮官なんて無能。怠慢もいい所。帝国ならそんな将軍……数日で死ぬ」


「ここは共生国ですし……」


「――――――分かった。足りないところがあれば……補足する。それまでは黙ってる」


「助かります」


 そんなやり取りを終えて、メテオレイゲンについての解説がイリアから女王へと託される。

 実際、それが正しい判断だろうとデッドエンドも思う。


 なにせイリア・ルージックは頭こそ回るが、口下手であるがゆえに説明が下手だ。

 それならば口先がグルングルン回る女王にバトンタッチした方が賢いと言うもの。

 というより――



(もしかしてここまでの流れ、ぜーんぶ女王様の仕込みじゃねぇのか?)



 まずはメテオレイゲンという賊というものを諸侯に認識させ。

 それが国をも亡ぼす存在だという事をいきなり伝える。

 当然の如く信じないであろう諸侯に対し、どうやって抱えたのかは不明だがイリアという駒を投下。

 元帝国軍第五将が目の前に居ると言う事実を諸侯に認識させ、動揺した彼らの視線をメテオレイゲンという賊へと改めて向けさせる。




 イリアという駒を使わずにメテオレイゲンという賊について女王が話していた場合、情報元が怪しいのではないか、本当にそんな賊が居るのか。そんな疑念を持ちながら諸侯は耳を傾けていただろう。

 しかし、それでは話半分でしか受け取ってもらえない。


 なぜなら、共生国の女王であるエルデリカ・ローデングリーンは外見が少女にしか見えないという事もあって一部の諸侯から舐められている節がある。

 だからこそのイリア・ルージック。帝国軍第五将という駒。


 情報元がある程度信用ができる。少なくとも無視はできないものであると示し、真偽はさておきメテオレイゲンという賊の問題について真剣に考えさせる。


 この流れを作る為に女王はあえて口下手なイリアを一回前に出したのかもしれないとデッドエンドは考え――


「おー、こわ」


 真偽の程は分からないが、そんな女王の采配さいはいにデッドエンドはぶるりと体を震わせる。


 そうしてデッドエンドが体を震わせる中、女王は諸侯に向けてメテオレイゲンという賊について語り始めた。



「まずはメテオレイゲンという組織がどれだけの兵を率いているかについてですが……確認されているのは百にも満たないという話です。デッドエンドさんがリ・レストル村で確認した兵達も三十程度と少ないものだったそうです」


「しかし、メテオレイゲンの構成員の数人は常識外の力を有しています。それが先ほどイリアさんが口にしていた星持ちです」


 そうして女王が星持ちについて語る。

 星持ちとは果てなく強い想いを抱いた者の事であるという事。

 星持ちは一時的に自身に合った星の力をその身に宿すことが出来るという事。

 


 諸侯の反応は様々で、「そんな現象が……」だの「あの時の不可思議な現象は……」だの一定の理解は示していた。

 また、ライクルスを含めた一部の重鎮は特に驚きもしていなかった。メテオレイゲンについては知らなくとも、星持ちについては知っていたという事だろう。



「星持ちは単騎で戦況を変え得る存在です。帝国軍の中にも幾人か星持ちが居たとされています。こちらに居る元帝国軍第五将のイリア・ルージックさんも星持ち。ですよね?」


「ん……」


 こくりと頷くイリア。

 それを確認して女王は話を続ける。



「さて――そろそろ持って回った言い方は止めましょう。

 メテオレイゲン――彼らは確実に私たちアンタレルア共生国にとって……いえ、どの国にとっても脅威となる存在です」


 そうして一拍置いて女王は。



「なぜなら――彼らメテオレイゲンによって帝国は既に滅びているのですから」



 誰もが耳を疑うその一言を諸侯へと告げたのだった――


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