第5話 出会い
「あぁぁあーーー! くそっ、どこまで追ってきやがるぅ!!!!」
俺は棍棒片手に額に脂汗を垂らし悲鳴をあげ逃げ惑う。只今全力でゴブリン達から逃走中ナウ。
「ゴギャギギャ!」「グギャッァギャ!」「ゴギャギ!」「グギャッ!」
逃げる俺を楽しそうに、また仲間がやられ怒り心頭といった様子で追いかけてくる。
生い茂る草木を避け。逃げる、逃げる、どこまでも逃げる。当然のこと体力にも限界はある。ゴブリンとの距離は約二メートル。
「くそっ。どこかに逃げ道かそれか誰か助け――」
そう考えてしまうが、首を振る。
「いや、それはないか。他の誰かならわかるが、
自分が一番わかっているのに窮地からつい口に出してしまう。そんな自分自身に自虐的に笑う。
「……」
俺は走るのをやめると立ち止まる。
『グギャ!?』
突然の不可解な行動にゴブリン達はバランスを崩し急停止する。その様子を見て俺は鼻で笑う。
「はっ、いいぜ。ゴブリンの一匹や五匹変わりやしねぇ。全員まとめて仲良くあの世におくってやらぁ!!」
正面を見据えて威勢よく啖呵を吐き些か頼りない棍棒片手に無謀に立ち向かう。その手は足は微かに震えている。
ゴブリンも相手が走るのをやめてこちらに挑んでくることを察知し各々の武器を構え対抗する。
【ホーリーアロー】
お互いに緊迫する空気。両者がぶつかろうとしていた最中どこからか謳うような綺麗な声音が聞こえてくる。俺は声が聞こえたことで動きを止めてしまう。
「は? 歌? 何が――」
声がした方向に顔を向けようとした時、全てが終わった。
俺が立っていた真横の茂みから現れる複数の光の矢がゴブリン目掛けて降り注ぐ。
『グギャッァァ!!?!!?』
そして遅れてやってくるゴブリン達の絶叫。
「!!――ッ」
目の前で光の矢がゴブリンに突き刺さり血の華が咲く。
『……』
「……」
五匹もいたゴブリンが一瞬で蹂躙されている光景を眺め、呆然としてしまう。
本当に何が起きてる。それにアレは魔法か? でも誰が――
「こっちです〜」
「ぬあっ!?」
何が起きているのか考えていると背後からいきなり声をかけられる。そのまま強引に左腕を掴まれ、引っ張られた。
俺の腕を掴む人物の顔を一目見ようと試みるが突然走り出したことで地面、そしてひらひらと風に揺れる純白のシスターが着るようなローブしか見えない。恐怖から手を振り解こうと思ったが怪力で振り解けなかった。
相手にされるがままどこかに連れて行かれてしまう。
◇◇◇
謎の人物に腕を引かれたまま数分は走った。もう足も体力も限界だった。
「――ふぅ。ここまできたら安心です〜」
「うげっ!!」
女性のやけに間延びした声が聞こえた時、突然急ブレーキされ、左腕を離された俺は勢いをつけて前方に吹き飛ぶ。その時見た。向かっている先に大きな木があることを。
あ、死んだ。
自分の死期を悟った。俺は抵抗せず(元々抵抗できない)目を瞑り最後を迎える。
どかっ!
森の中に木々が揺れる音と
・
・
・
「……」
おかしい。俺は確実に顔から巨木にぶつかった。そのことで気絶をしていた、のだと思う。なのに一向に痛みが襲ってこない。わかるのは俺が横たわっていること。それに何か柔らかい感触が頭から――
「……」
その感触の正体を確かめるべくおっかなビックリ薄目で様子を見る。
なんだ、これ?
初めに目に映ったものは純白の塊のようなものが二つ見えた。それが気になり振れるために腕を伸ばそう…と思ったが触ったら終わると本能的に感じたので手をそっと下ろす。二重の意味で助かったのにこんな訳の分からない状況で死にたくなどない。
「あ、目を覚ましたんですね〜良かったです〜!」
さっきも聞いたおっとりとしていて間延びした女性の声が…その純白の塊から聞こえてくる。そして何かに気づく。頭の柔らかさ。目の前に見える塊。そして女性の声――
「うわっぁぁぁぁぁっ!!?」
その場、女性の膝枕から飛び起きると後ろ向きで逃げる。女性はそんな俺の様子を見てニコニコと微笑む。
「もぉ〜叫ばなくて良いじゃないですか〜女の子の膝枕ですよ〜?――でも元気そうで良かったです〜」
「……」
女性、美少女は膝枕の体勢を崩し立ち上がる。何も言えないまま俺はその美少女の顔を茫然とただ見ることしかできなかった。
彼女は純白の布に金の刺繍がところどころ散りばめられたお偉いさんが着るようなシスター服を着ていた。
彼女の容姿を一言で表すなら絶世の美女。ウェーブしている長い桃色の髪にその髪を覆う…黒色のウィンプルと呼ばれる頭巾。シルクのような肌。透き通る青い瞳。右目の下にある泣きぼくろ。衣服を盛り上げる豊満な胸元…と、どれを除いても美少女には変わりないが怖かった。
助けられたことには感謝しかないがとてつもなく怖かった。ゴブリンを一網打尽するその力。自分よりも強い握力、体力。そして自分のことを邪険にしない心。
それのナニが怖いかって?
「ふふっ」
「!」
こちらを見る視線が怖かった。今も何故か頬を真っ赤に染め俺の手を凝視している。次に獲物でも捕らえた時の鷹のような鋭い目付きで見てくる…ような気がする。気がするだけなので勘違いの線もある。ただおかしいかな…優しい目なのにそう感じてしまう。
それでも恩人に対してそんな考えは失礼だし何も言葉を返さないのもどうかと思う。なので俺はその場で立ち上がり、できるだけ自然を装い挨拶を行う。
「お、俺…私の名前はボールス・エルバンスと申します。しがない冒険者です。この度は助けて頂き、ありがとうございます」
頭を下げ、誠心誠意を持って挨拶をし、お礼を告げた。相手の格好からどう見ても高貴な存在だと悟ったため口調も外行き…というか自分が知る限りの礼儀正しい所作、言葉遣いを使った。
だから逃げちゃダメ?
勿論、問屋は下ろさず。俺の挨拶を聞き、ぱあっ!と笑顔になる美少女。
「まぁ! ボールス様とおっしゃるのですね〜
自分が着ているシスター服を片手で少したくし上げ、どこぞのお嬢様のようにお辞儀をする。最後に顔を上げ、花が咲いたようなとてもいい笑顔で挨拶を返す「コルデー」と名乗る美少女。今も「まだまだ新米ですが」と照れている姿が初々しい。
そんな初々しい姿を見ていた俺には色々と気になる情報が出てきた。
普通初対面の時って苗字、この場合は「ボールス」ではなくて「エルバンス」で呼ぶのではないのか? それも見習い聖女って次期聖女じゃないか…。
記憶にある情報をかき集めてたどり着く。
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