第6話 初めて、意味深



「ふふっ」


 何が楽しいのか彼女はニコニコと笑みを作りこちらを見てくる…その彼女こそ次期聖女ことコルデー。


「……」


 どうすればいいか分からない嫌われ者


 どうする?…いや、どうもしないのだが。この状況、逃げる訳にもいかないし…正直、ゴブリンと戦っていた方がまだ楽だった。

 そんなこと口が裂けても言えないが…そ、そうだ! 話。話だ。話をして…速やかにお帰りになってもらおう。


 決まった(自分の頭の中で)俺は愛想の良い笑みを作り片手を頭に置き下手に出て話しかける。


「いやー、本当に先程は助けて頂きありがとうございます。ただ初級者専用のラグの森など聖女様が一人で来る場所ではありませんが、聖女様はどうしてこんな森に?」


 まずはジャブ。無難にこの場所に何故いるのか聞き話を広げる。ふっ。これが社歴7年のトーク力よ。


 完璧だなと思い相手の顔をチラリと伺う。


「むーー!」

「……」


 何故か頬をリスのように膨らましその可愛らしいお目目を細めてこちらを睨んでくる。自分の予想と反した態度に言葉を失う。


 お、俺の完璧なトークが通じないだと…ど、どうしろと? もしやその「むーー!」は何かの合図なのでは?


 自分の築いてきたもの(7年分のゴミ)が「ガラガラ」と崩れ去る音を感じながら額に冷や汗を薄く垂らし相手の出方を待つ。


「コルデー」

「え?」


 俺は聞き返してしまう。


わたくしのことは"コルデー"と呼んで欲しいのです〜「聖女様」や「ブロッサム」では寂しいのです。せっかくこうしてとなれたのですからもっと親密を込めて…"コルデー"と」

「そ、それは」


 こちらにキラキラとした期待を込めた熱視線を向けて問いてくる。その視線に口籠もり、物理的に浄化させられそうになりながらもなんとか耐える。


 さっきから拗ねていた?のって俺が「聖女様」と呼んだからかよ。どこに地雷があるかわからねぇよ。それに名前で呼べって、また難しい提案を…が聖女様の名前を気安く呼んでいるところを街の住民が見たら何をされるか。ワンチャン誑かしたと思われ、街というか国を通して殺しに来そう。


「(ブルブル)」


 その先を考えて、震え上がる。


 そして「お友達」よ。いつ俺と君は友人になったのか。この短い短時間じゃあ流石のコミニケーションお化けでも無理だわ。

 ただここでコルデー彼女の機嫌を損なったら…さっきの魔法で炙り殺されるかも…それに多分いるであろう従者達に八つ裂きの刑…どれもオワコンやん。


「……」


 腹を決めるしかないなと感じた。そして少し息を吸う…ここまでの思考時間、約コンマ二秒。


「――わかりました。コルデーさん。私も名前で呼ばせて頂きます」

「嬉しいです〜!」


 彼女は子供のように大袈裟に嬉しがる。その様子を見て自分の行動が間違いじゃないことに安堵。初めの自分の質問が完全にスルーされているようにも感じるが…。


「ただ、言葉遣いは許してください。貴女は聖女様になられるお方なのですから、そんな貴女にタメ口でなど話したら…神様に罰せられてしまいます」


 ただしっかりと釘は刺しておく。「神様」と単語を出せばなんとかいけると思った。


「はい。それは強制しませんよ〜名前で呼んで頂けただけでもとても嬉しいです〜」

「そう言って頂けてこちらも安心しました。あ、あと出来たら他の人がいる場所は他のお方達と同じ話し方でいいでしょうか? 何か勘繰られるのも嫌ですし、コルデーさんに迷惑をかけるのは、私としても…くっ!」


 心苦しいがどうか許して欲しいという風に顔を顰め辛そうな表情を作る…勿論演技だが。そんな安い芝居を見た彼女は頷く。


「そうですね。わかりました〜ならわたくし達2人きりの時だけ名前で呼び合いましょう〜2人だけってなんだかロマンチックですね〜」

「ははは、そうですね。コルデーさんと友人になれたこと光栄に思います」


 よし、ミッションコンプリート。どうせ今後会う機会は無いし2人きりになる場面など来ないだろう。本当は「自分は嫌われ者だから近づかない方がいい」と伝えようか迷ったがいずれ知るだろうし自分から危険に足を踏み入れる必要も無いだろう。あとはここを脱するだけだ。


 コルデーに向けて朗らかに笑う。が、裏では計画通りに動く自分の考えに浸っていた。


「でも本当に嬉しいんです〜わたくしに生まれて友人と呼べる人が少なかったのです。ボールス様はなのです〜」

「――ゴフッ」


 自分自身に浸っていると突然爆弾を投下され、吐血を吐いてしまう。


 お嬢さん? 爆弾発言やめましょうや。「聖女」に続き「公爵」て…あんさんバリバリお金持ちの令嬢やん。俺がもし悪いやつでしたら終わってますで?(実際悪い奴だし)


 ゴブリンとのバトル戦闘を見て自分でどうこうできる存在ではないことはわかっているが、それでも少し心配をしてしまいエセ関西弁を披露してしまう。

 それに心配するのもしょうがないことでもあった。まず「コルデー・ブロッサム」という少女が「見習い聖女」という時点で自分と生きる、というか住む次元が違う。



 【聖女】


 「聖女」という人物は皇国。またその他の国で「神」と等しい存在と呼ばれ、教会でもトップの「教皇」と並ぶほどの権力・名声を持つ。要は凄い人物だ。


 それもコルデーが聖女であることは何一つ疑っていない。ボールスの記憶では『自分を偽って聖女と呼ぶと神様から天罰が下る』という言い伝えがあり、今まで聖女偽り事件は起きていない。

 そもそも聖女というインパクトでも凄かったのに公爵家という単語が出てくる。それが本当の話なら「コルデー・ブロッサム」は「公爵家令嬢」というわけだ。



 【公爵】


 「公爵」は国のトップの「王」の下の階級、上から二番目の存在と言えば凄さもわかるだろう。


 もうお腹一杯なのに最後に現聖女&公爵令嬢の「」という地雷ワード素敵ワードを口にする始末。正直に言おう。勘弁してくれせぇ。こちとら現DQN。現在進行形でかませ犬なんですわ…そんな俺の内心など知りもしない彼女は楽しそうに語る。


「ふふ。ボールス様との出会いは必然的だったのかもしれないですね〜あの時ボールス様のお手を取り、あの場所で膝枕をした時…あぁ、このお方とになりたいと、そう思ったのです〜」


 「これも神のお導きです〜」と言いながら赤く熱った頰に片手を置き、俺の顔を熱を帯びた目で見てくる。その時にまたゾクっとする感覚に陥る。そこでコルデーからの視線が何なのか気づいてしまう。


『もしかして、コルデーは自分のことを好きになりかけているのかもしれない』


 それが俺の思い違いならいい。後で鼻で笑えば済む話。ただ本気だったら…ゴクリ。


 生唾を飲み脂汗を垂らしてしまう。ただどう返事を返せばいいかわからない。


「ボールス様は〜って信じますか〜?」

「えっと、運命、ですか。わ、私は――」


 コルデーに目を見つめられながら質問をされる。何か返事を返そうと奮闘している時救世主が現れる。



「ピギィ!」



   【野生のスライムが現れた】



 それは某RPGゲームでお馴染みのスライムだ。色は青色。某RPGゲームとの違いは…この世界のスライムは可愛くもなければバ○ルスライムみたいなゲル状。


 ただちょうど良いところで現れてくれた。


「――あ、見てくださいコルデーさん魔物が現れました!! ここは危険です! 私が倒すので貴女はお逃げください!!」


 魔物の登場に千載一遇のチャンスと思い嬉々として立ち上がり意気揚々と魔物に向けて棍棒を向ける。ちゃんと「逃げろ」とも伝えている。こうすれば自然に離れられる。


「もう! 邪魔しないでください――【断罪する聖なる剣ジャッジメントブレイド】!!」


 コルデーは立ち上がると魔法を行使する際の「詠唱」というものを破棄し、二メートル程の宙に浮く光の剣を瞬時に出す。そしてスライムの心臓と呼ばれる物に向けて無情にも放つ。 


「ピギィィィィッ!!」


 す、スライムーーーーー!!!


 願いも虚しく過剰攻撃の極太の光の剣がスライムの心臓でもある核に刺さった。スライムは呆気なく消滅する。


 救世主スライムの呆気ない終わりに俺は内心、愕然とし涙する。


「――」


 俺の姿は棍棒を構え、呆然とただ立ち尽くしていた。そんな俺に彼女は何も無かったかのように近寄ってくると俺の顔を覗き込む。


「さあ、も消えたのでお話の続きをしましょう〜ボールス様は私のこと、好きですか〜?」

「あ、はい」


 なんかさっきと質問が変わっていた感じがした。恐怖から考える思考もなく何か答えるしかなかった…もう条件反射だったと思う。

  

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