第4話 油断大敵


 ◇◇◇



 【ルクセリア】


 王国から少し離れた位置にある街。


 王国よりも人の数は少なく人の出入りもそこまで激しくはない。『冒険者組合ギルド』『ダンジョン』『教会』――『娼館』等も立ち並び、立地には特に問題なく過ごしやすく暮らせる街となっている…そんな住みやすい街に住みながら俺が憑依している体の主「ボールス・エルバンス」という男は街の住民から嫌われているわけだが…。



「――緊張してきた。佐藤歩自身となんて戦ったことがないから当たり前だけど…」


 街の西門から外に出て久々の外の空気を胸一杯に吸う。

 衣服の上に安っぽい皮鎧を着て草原に一人立つ、武器屋で買った棍棒片手に。



 【魔物】


 この世界ラクシアでも魔物と呼ばれる生物は存在している。



 【冒険者・冒険者組合ギルド


 ボールスのような冒険者は魔物を駆除し間引く為に存在し、冒険者組合ギルドはその冒険者達に依頼を斡旋する為に存在している。



 【魔物を討伐する三つの方法】


 ・一つ、野良の魔物を討伐・駆除する方法。通称『野良狩り』。冒険者組合ギルドの冒険者でありながら素材の売り買いだけを専門とするソロ。


 ・二つ、冒険者組合ギルドから「依頼」を受けてパーティで依頼を達成する方法。通称『クエスト』。

 ※「依頼」はパーティ推奨。ボールスはソロであり冒険者組合ギルドから信頼が皆無のため荷が重い。


 ・三つ、異世界の大名史ダンジョン。そのダンジョンに出入りして魔物を駆除、駆除する方法。通称『ラビリンス』。

 ※ダンジョンも『クエスト』同様パーティ推奨。ルクセリアの街にも中規模の物があるが「依頼」と同じでボールスの参加は到底無理。


 方法はこの三つがある。ソロの俺は消去法で『野良狩り』一択となった訳だ。

 ちなみにいま俺が持つ棍棒は武器屋で買った物だ。500ベルではひのきの棒か棍棒のどちらかしか買えなかった。


 ひのきの棒はリーチが長く棍棒はリーチが短い分打撃の火力が高い。

 どちらともゴブリンから入手できると知っている身としては少々萎えるが何も持たぬよりはマシ。そう思い棍棒を購入した。


 武器屋の店主(おじさん)はボールスの顔を見た途端少し嫌そうな顔は浮かべていたがなんとか交渉し棍棒を売ってもらえた。その時に「ありがとう」と口にしただけで変な目で見られてしまったが。


「…どんだけボールス嫌われてんだよ。ま、んなことは一旦忘れて――魔物との初戦闘行きますか」


 草原を進み、森の中――初心者専用だと名高い「ラグの森」に入っていく。



◇◇◇



 森の中を歩いて数分。


「――アレがゴブリンか」


 茂みの中に隠れ息を潜めながら約二メートル先にいる緑色の体を持つ小人の様子を伺っていた。



 【ゴブリン】


 小人の様な体型、緑色の体。濁った小さな目と黄ばんだ歯。不衛生で粗末な腰巻き。漫画でもゲームでも雑魚扱いされているファンタジー代表?の生物。


 知識として知っている分驚きはそこまでないが俺自身から見れば十分未知の存在だからな。地球でゴブリンなんて見たらUMAといっても過言ではない。てか棍棒で殴ったら勝てるか? 右手に持つ茶色くゴツゴツした木の棒、棍棒を確認する。

 ゴブリンは俺と似た薄汚れた棍棒を持って周りをキョロキョロ見ている。こちらに背中を向けている様子からおそらくこちらに気付いていない。


「(ゴクッ)」


 やってみるか。


 隠れていた茂みから立ち上がる。気配を消すという気持ちを持ちゆっくり近寄る。現状使える物は棍棒。そして仲間はなし。使えるスキルはほぼない。


「おりゃぁ!」

 

 己の武器である棍棒の取手を両手で掴み掛け声と共にゴブリンの脳天を殴りつける。


「グギャッ!?」


 棍棒で殴りつけられたゴブリン。無防備の脳天を直撃したが、ゴブリンはバランスを崩しただけでまだその足で立っている。


 チッ、殴る時に少し躊躇ちゅうちょしちまった。あぁ、喧嘩もまともにしたことがないことが仇に…んならもう一発。


「おらぁ!」

「ゴアッ!?」


 痛みと戸惑いで今も何が起きたのか理解していない様子のゴブリンの頭部を今度は本気で叩く。やっとゴブリンは体勢を崩し倒れ伏す。ただまだゴブリンを倒した訳ではない。


「このっ! おりゃ!! 死ね!!」


 間髪いれずにゴブリンの頭部を集中して殴り続ける…少し立つとボフッという音と共にゴブリンの体は消滅。その代わり赤色の小石のような物とゴブリンの血溜まりだけが地面に残る。


「はあ、はあ、やったか。があるなら…終わった〜」


 ゴブリンが消滅したこと。その場にある魔石を見た俺は額の汗を手の甲で拭い深いため息と共に座り込んでしまう。



 【魔石】


 ラクシアでは魔物を倒すと魔物は消滅し、魔石と呼ばれる赤色の小石が手に入る。敵が強いほど大きくそれも純度の高いものが落ちる。その魔石は『魔道具』などに使われる。

 魔物が落とす物の中には他にもレア枠として「素材」なんかも落ちたりするが、言葉の通り落ちる頻度は少なく手に入ったら売らずに自分の武器、防具の素材にするのが一般の常識だ。


 

「なんだよ。簡単に倒せるじゃん。疲れたけど、これならなんとか」


 戦利品の魔石を片手に呑気にそんなことを呟く。ただその時の俺は油断をしていた。ゴブリンは単独で動くのは稀。本来のボールスならそんなこと分かっているので直ぐにその場から離れる。

 ボールスの記憶と体を持っていても元は異世界のことなど何も知らないただの一般人だ。俺はこの時ゴブリン魔物に勝てたことで気が緩んでいた。

 

「グギャギャ」「グギャッァ」「ゴギャギ」「グギャッギャ」


「――へ?」


 直ぐ近くに仲間のゴブリン達がいたことに気付かなかった。

 近くにいる数頭のゴブリンを見て呆けてしまう。一匹を倒すのも一苦労なのにそれが数頭いるのだから当然。


「あ、えっと、もしかして――団体さんでした?」


 愛想笑いを浮かべながら揉み手で挨拶を試みる。暴力なんてそんな野蛮な…言葉が通じる我らにはまず「会話」という交渉を……。


『『グギャッァァァ!!!!』』


 元気に挨拶を返すゴブリン達(意味深)。


「ですよねー! 知ってたわ、コンチクショー!!」


 ゴブリン達が攻めてくる中直ぐに立ち上がりその場を急いで逃げる。

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