第39話

「何やってんだ、やまピ―?」

「はっ⁉ 伊吹いぶきかよ。誰がやまピ―だよ」

気だるそうに病院の外壁にもたれた背中を起こす。

昇平しょうへいさ……昇平しょうへい、誰ですか⁉ この九十年代の不良さんは⁉」

「誰が九十年代の不良さんだよ、たく…なんでお前ら姉弟きょうだいで腕組んでんの?」

オレはサバリに山本君の説明をした。

いや、体育に授業で知ってるはずだけど、どうも元になるサブリナは興味がないものに対して記憶に残さないようだ。

説明したところでピ―ンと来てないようだ。

山ピ―には「かわいい姉さんを持つと自然に腕を組む」とウソを教えた。

どうやら山ピ―にも姉さんがいるらしく「考えらんねえ」と身震いした。


『何やってんだ?』と聞いておきながら、山ピ―がココにいる理由はわかっていた。それは彼の取り巻きから聞いた「逆恨みライダ―は従兄」という情報。

恐らくケガさせた生徒のお見舞いに来たのだろうが、入るに入れないといったところだ。

「な、なにしやがる!」

「いいから!」

オレは山本君の腕を強引に掴み病院に。

前もって六実むつみから病室を聞いていたが、一応女子の病室をたずねるのでナ―スステ―ションに声を掛け、お見舞いに来たと告げた。

一応、彼女――梶さんっていう娘だけど、中三の時クラスが同じで女子サッカ―をしていたからとばりの後輩にあたる。

その関係上、梶さんはオレに対してフレンドリ―だったと思う。

サバリにその事を伝えたが、彼女との記憶にたどり着いてないようだ。

体の方の記憶は探せるようだが、どうもコツがあるらしくサバリはそれをまだつかめてないみたいだ。


『コンコン』

ノックすると中から返事が来た。

ナ―スステ―ションで声を掛けたので、先にオレたちの来訪を伝えてくれてたようだ。ベットの周りにカ―テンがあるとはいえ、着替え中とかじゃ困る。


「梶さん、どう? ケガは」

「わざわざありがとう、伊吹いぶきくん。うん、痛いよ~~(泣)」

「梶ちゃん、どうも!」

ぴょこんとオレの後ろに隠れてたサバリが顔を出す。

オレの知るとばりは『梶ちゃん』なんて呼ばない『梶』と呼び捨て。

なので、当の梶さんはビビる。


「あっ! 先輩⁉ ちぃ―す、です‼ い、伊吹いぶきくん‼ 先輩いるなら言ってよ、もう! せ、先輩リンゴむきましょうか!」

左足をがっちりギブスされた梶さんだが、慌てて近くのテ―ブルにあるリンゴに手を伸ばそうとするが、普通に無理だろ?

しかし、この事だけでとばりとの関係がわかる。

「うん! ありがと‼」

サバリさん、そこ断ろうか?

相手入院するほどのけが人だからな?

食いしん坊は体が変わっても同じか?

完全に太る未来しか見えん。

オレたちは少しの間、事故のこと、入院のことなんかを話して一段落したので、本題に入ることにした。


「梶さん、お見舞い代わりにある人物を連れてきた」

「お見舞い代わり……? 誰だろ」

「紹介します!『1―A組』の自称リア充‼ 山ピ―です!」

病室の外で待機していた山本君は不機嫌な顔で現れる。

そしてオレの胸元をそこそこの力で小突き「誰が自称リア充だよ」そんな感じでスゴむ。

梶さんは梶さんでオレの袖を引っ張り――

(だ、誰⁉ この不良さん……)

完全な震え声で目元に軽く涙を浮かべた。

仕方ない、ここはふたりの橋渡しをしないといけないか……

「梶さん、コイツ山ピ―」

「山ピ―、この娘が梶さん。ちなみにピュア系女子だから泣かせんなよ? というワケで、後は若いふたりに任せて――姉さん、帰ろうか」


『え? えぇ~~~~~~~~~~~~っ⁉』

梶さんの絶叫を背中に聞きながらオレたちは病院を後にした。

それから数週間特にこれと言った事件は起きず、このまま行くのだろうなどと甘い考えを持ち始めていた。


生徒会室。信任投票のみで依子よりこさんは生徒会長に選出された。

生徒会室の受け渡しを前生徒会長から終え、本格的に組閣に手を付けていた。

『入れ替わり』に協力するという条件で、サバリは副生徒会長になることになっていた。

そして、オレたち『A式』の面々も各生徒会の『副委員』を頼まれていた。

それぞれ割とガチな運動部に所属してるので、比較的楽な委員に回してもらう約束だった。

そして先ほど『地域交流委員』なる委員会の副委員長にとトバリナが二年の女子剣道部部長に連れられて行ったとこだ。

今日は「ノ―部活デイ」で、オレたちはそのトバリナの帰りを誰もいない食堂で待ち、ショッピングモ―ルに行く予定だったのだが――いきなり掛け声と共に後頭部に痛みを感じた。


『面~~っ‼(笑)』

イイ感じの竹刀の音。

頭をさすりながら振り返ると、そこには女子剣道部長――確か、椎名さんが不敵な笑顔を浮かべオレを見た。

断っておくが、彼女とは面識はほぼない。名前だってさっき自己紹介されたからだ。

なので、こんな痛いイタズラをされる関係ではない。

「なっ⁉ 伊吹いぶきさん‼ なんてことするんですか! 竹刀をおもちゃにしないで~~弟さん、ごめんなさい!」

ぺこりと頭を下げるのはサブリナ、つまりトバリナのはず。

しかし明らかに変だ。

オレのハテナマークの答えを導き出したのは、ふたりを追いかけて食堂に駆け込んだ依子よりこさんだ。


「ショウくん‼ 大変~~‼ また『入れ替わった‼』」

「えっ、また入れ替わった⁉ 姉さん、どうやって」

「んん…くしゃみしたら、気付いたら椎名さんに! それよか昇平しょうへい、この体すごいよ! 力みなぎるっていうか、なんか武力で高校無双出来そうなんですけど‼」

「やめて、無双しないで~~‼」

テンションバカアゲの「中の人」たぶん(?)とばりと対照的にサブリナの「中の人」になった女子剣道部長椎名さんは絶叫する。


昇平しょうへい……」

「入れ替わったって……」

「どういうこと……?」

「椎名さん、お姉さんなんですか……?」


『A式』の面々は片言でオレに問いかける。

ヤバい、一気にバレた! オレは仕方なく椎名さんになったとばりの手をつかみ、食堂を逃げ出した。

「なになに、あんたこういう大和撫子系が好きなの? 意外とおっぱいおっきいわよ?」

伊吹いぶきさん‼ 個人情報‼」

サブリナの声で椎名さんは叫ぶが、その程度でとばりに届くはずもなく――

「さすが我が弟、噂通りのヤリ〇ンね!」

「ヤ、ヤリ〇ン⁉ あわわわっ、弟さん、わたし、お手柔らかに~‼」

「どうする、昇平しょうへい? 出たわよ?」

「姉さん、馬鹿言ってんじゃねえよ、ほら走る‼」

事情がつかみきれない『A式』の面々はオレたちを追いかける。

そしてこの先とばりは『入れ替わり』の追いかけっこを続けることになる。

椎名さんの手を引いて校門を駆け出すオレの姿は、多くの男子生徒に目撃され学校裏サイトではオレの悪名に箔がつくことに。


そんなワケでオレたち姉弟きょうだいは今日も正常運転だった。







 

 

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事故死しかけた義理の姉を助けたら中の人がクラスのメイトだった件。 アサガキタ @sazanami023

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