第22話 学食攻防戦

のぞみの生徒会長による告白攻撃が始まって二週間以上過ぎていた。

元々なぜだか生徒会長(女子)に告白される謎スキルを持っていた。


だけど、希は図書委員ちゃんこと敷島しきしま依子よりこさんに小学生低学年からずっと片想いをしていた。

なので、生徒会長がどれ程可愛かろうが、優しくてものぞみの気持ちは変わらない。


何より生徒会長はイマイチな評判だ。

そのことはとばりに聞いていた。

なんでも、目を覆いたくなるほどのジコチュ―女子。

まぁ、別に関わらないから構わないのだが、三年生にもなって生徒会長に立候補した。


本来生徒会長は二年生がなり、三年生の時に新生徒会が困ったときの相談役を担当する。

そして新生徒会が次の二年生に、様々な知識や経験などを引き継ぐ流れなのだけど、現生徒会長は一年の時に立候補し、三期続けて生徒会長をしていた。


それなりに人気があるのだとは思う。

しかし、とばりが言うには今の新一年生つまり、オレたちの学年が二年になった時、現生徒会の多くは卒業している。


つまり引き継ぎなして生徒会運営を行うことになる。

まったくの手探りで取り組まないといけない。

議事録などを読めば済むのだろうが……


とはいえ、三年生が立候補したらダメだという決まりもない。

なのでル―ル違反でもなんでもない。

ただ、ただジコチュ―が鼻につくというだけのことなのだが。

まぁ、ジコチュ―を連呼してるが選挙で選ばれてるのだ。


何一つ問題はないはずなのだが……


「つまり、この場所を立ち退けと? なんで?」


食事を終えたオレたちに、腕組みをしたスレンダ―女子が上から目線で要求を突きつける。

反応したのはとばりだった。


「この一角は元々、生徒会の管轄です」

「―で?」

「元々の管轄である我々生徒会が、返却を要求するのに理由が必要ですか?」

「必要だから聞いてるんだけど?」

「慣例的にこの場所は生徒会が使用しています」


ですか。去年は確かまったく生徒会と無縁の三年生トップカ―ストの溜まり場だった。その前の年は部活連の溜まり場。ちなみに部活連は生徒会とは呼べない、違いますか?」


「はい。我が校では部活連は厳密には生徒会に属しません」

「そうですか。では二年もではなかったワケですね。確か生徒会長さんは三期目。去年の三年生トップカ―ストとその前の部活連、それとさっきの『ヤンチャな子たち』に返却の要求はしてましたか?」


オレは年齢イコ―ルとばりの弟をしてる。

血縁関係はないが。

そんなこともあり、とばりのことは誰よりも知ってる。

とばりが理責めをする――そこそこイラついてる。


それと『―で?』が口から出るのも危険な兆候だ。

まぁ『トバリスト』のオレしかわからないだろうが、だいたい捕りに行く時だ。

何を捕るって? 

それは命的なモンです。


「彼らにところです」


「それを後付けの言い訳といいますが? まぁ、いいです。少なくとも彼らに二週間以上、二の足を踏んでいた臆病者さん――失礼。がなぜ私たちには五分で要求を?何か意図があるよね、? のぞみは?」


とばりはいきなり、とどめを刺しにいった。

この場にいる幼馴染ズは、のぞみから生徒会長のしつこい告白に困ってることを知っていた。

もちろんとばりも知っていた。

いや、情報通の生徒なら生徒会長が、サッカ―部の一年生に熱をあげてることは聞いたことがあるはずだ。


とばりの狙い。

ひとつはのぞみにしつこくしてることを知ってる。

二つ目は、そののぞみを呼び捨てにする仲だと誇示した――

いや単にドヤっただけだ。

鼻がぴくぴくしてる、これは笑うのを我慢してるのだ。


対する生徒会長はとばりの呼び捨てに、簡単に顔色を変えた。


そんなやり取りを聞きながら、オレはある解決策を思いついた。

オレは六実むつみにアイコンタクトした。

さっきの事があるので恥ずかしそうにしたが、オレの考えは伝わったようだ。

誰にもわからないように小さく頷いた。

オレは慣れないGメ―ルで連絡を取った。


「そうですね、意図を感じますね、

のぞみが親し気なほほえみと共に同意した。

うん、オレも君たちふたりの意図(悪意)を感じるよ?

そして更に生徒会長はめっちゃわかりやすく動揺した。


そこに新たなキャラが登場した――


「あの~~勘違いならすみません」と前置きをしながら、何故かショコラが「MC・ショコラ」になりエア・タ―ンテ―ブルをしながらラップをかました。


ズクズクズクズクズク――♪


――これって私利私欲♪ 我田引水? 得手勝手~♪ それとも唯我独尊? それでも生徒会長? うち等はそれでも今日も快調♪ イエイ~♪


MC・ショコラは「センキュ―メ―ン!」と言いながらサブリナとハイタッチをかわした。

ちゃんとラップになってるかわかんないけど、ショコラがしたらそれらしく聞こえるから不思議だ。


ショコラなりに生徒会長を煽ったのだ。

その狙いが功を奏した。

学食はさっきの山本君の時とは違う盛り上がりを見せていた。

ショコラのいきなりのラップが学食の生徒の興味をひいた。


それが証拠に、休憩時間もあと残すところ半分。

だけど学食から生徒たちが退く様子はない。

今から何かが起きる予感がするのだ。


オレはとばりにだけ悪役をさせるわけにはいかない。

ショコラが作った流れを消さないよう、意中の人が到着する前に、前振りというか罠を仕掛けることにした。


正しくは生徒会長に口を滑らせてもらおう。


「あの、質問。例えば生徒会に関係することをするためなら、この場所――オレたちが使っていいワケですよね? 違います? もちろんのぞみも一緒ですが」


「まぁ…生徒会に関わることなら……まぁ、構いませんが? あっ、でも生徒会メンバ―が参加することが条件です」

のぞみの名前を出した途端、チョロイン会長にジョブチェンジした。

会長が出した条件「生徒会メンバ―が参加する」つまり自分も仲間に入ることを意味していた。


ショコラが暗躍し、即興のラップまでかまして欲しがる場所なのだ。

知らん顔は出来んだろ?

そして下地が整ったところで「意中の人」が登場した。


『はぁ―い。、何してんの?』


しらこすぎる登場だが、まぁこれはこれでアリだ。

オレがGメ―ルでさっき呼んだのが図書委員ちゃんこと敷島しきしま依子よりこさん。


オレの共依存の相手であり、相棒のぞみの初恋の相手。

そして姉とばりとは「例の件」で微妙に冷えた関係。

なのでとばり依子よりこさんの登場で苦虫を嚙み潰した顔した。

実際のところスリッパでオレの足を踏み潰していた。

(あんた、なんかしたでしょ。覚えてなさいよ)


怖えぇ…正直マジ怖いです!

でも、この際だから一石二鳥ではなく何鳥か狙うことにした。

ひとつは生徒会長の難癖を跳ね返すため、生徒会メンバ―の依子よりこさんに協力してもらう。

ふたつ目は相棒のぞみ依子よりこさんの恋のキュ―ピットなオレ。


三つ目は姉と依子よりこさんの長年の微妙な関係改善。

盛り過ぎた結果、少しくらいのボヤなら消せそうなくらい、テ―ブルの下でとばりはオレの足を踏みちゃんこにした。


「実は困ってまして。その……ヨリちゃん」

(はぁ⁉ ヨリちゃん⁇ あんた今夜夕飯ナシよ)

とばりは呼び方ひとつで、オレのライフラインを削りに掛かった。

「なに、ショウくん。どうしたの?」

「――実は…」


オレは依子よりこさんにさっきからの経緯と「生徒会メンバ―がひとり」必要なことを伝えた。

依子よりこさんは少し考えて答えを出した。


「――どうでしょう、長司ながつかさ生徒会長。私がこのメンバ―に加わり、生徒会の活動をするというのは?」

敷島しきしま図書委員長。君が加わるのか? 活動と言っても具体的には何をする。素案がないようなら話にならん」

生徒会長は断る気満々だ。


それと依子よりこさんが加わることで、自分の出る幕がなくなりのぞみとお近づきになれないことが、よほど気に障ったのか、明らかに不機嫌だ。

しかし、少し考えればいいことだ。


生徒会長は「生徒会メンバ―が参加する」ことと言ったのだ。

言い換えれば、依子よりこさんに加え自分も参加する!

そう宣言すれば、断りにくい。

でも、残念ながらそこまで頭が回っていないようだ。


あと、図書委員ちゃんといいながら、実は「図書委員長」だったのか……お詫びして訂正します。


「素案ですか? そうですね、壁新聞を作ります。部活紹介みたいな写真をたくさん乗せて、のぞみ君も手伝ってくれるよね?」

「え⁉ 俺ですか……まぁ…はい‼」


「むつみん、お願いできる?」

「あっ、はい。依さん」

。そろそろ許してくれないかな?」


⁉ うぅぅ。はぁ…わかった。ヨリ、あと昇平しょうへい。貸し800ね?」

『800の貸し』ってなに?

単位を言ってくれ‼

円なのか⁉

800円じゃないよな?

800万⁉

まぁ、いいや。


狙い通りだし……だけどジコチュ―女子相手に何もかも「狙い通り」になるワケもなく――更なる火種がぜた。


「ふぅん、そう。敷島しきしま図書委員長。つまりあなたは私に――ひいては生徒会に盾つく気なのね?」


「会長。何言ってんです? さっき自分が『生徒会のメンバ―がひとり』必要って言ったでしょ? それを図書委員長のメガネちゃんが引き受けてくれるって――」

たちばなが大げさに手を広げ、ここにいる生徒にも聞こえるように話しかけた。

たちばな明音あかね

意外に調整力抜群だが相手が悪い。


敷島しきしま図書委員長。本日只今をもって。なので君たちには生徒会のメンバ―は不在です」


噂にたがわぬジコチュ―ぶりを発揮する長司ながつかさ夏織子かおりこ

しかし場所が悪い。


今まで様々な伝説となったジコチュ―ぶりは、あくまで生徒会室でのこと。

誇張されてるのでは?

噂が出るたびそんなバランスが働いた。

しかし、噂以上のジコチュ―ぶりに学食の生徒は沈黙した。


いや、ドン引きした。





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