第21話 ささやかな落としどころ。

「なにやってんの、めっちゃダサいんですけど?」


ここは県立江井ヶ島えいがしま高校。

瀬戸内に面したこの県ではそこそこの進学校なはず。

そんな我が校にどうしたことでしょう。

まるでギャル系雑誌のどくモばりのアバまんじズレ子を中心にした女子三人。


どんだけ制服を魔改造したらこうなるんだ?

原型留めてませんが?

いやなんか拾おうとしたら、普通にパンツ見えちゃう系ですが……

そのパンツ見えちゃう系女子、もとい。

アバまんじズレ子 feat.どくモなのかWITHなのかわかんないが『謎のパンツ見えちゃう系ユニット』が例のカ―スト席を取り囲む。


その先には山本君と仲間たち、それとなんかオレがいない時に難癖付けてきたクラスメイト足立君が顔を揃える。


いや、よく見てみたら『謎のパンツ見えちゃう系ユニット』の後ろには「1―A」女子御一同さまが大勢参加していた。

おっと、緊迫したハズの状況なのだが、彼女たちの後方から満面の笑顔で手を振る我らのバスケ女子、ショコラが山本君が見えないことをいいことに、ペロッと舌を出してウインクしてる。


完全にあいつの仕込みだな……幸いメンバ―のトレイには麺類はない。

待ったところで伸びちゃうなんてことはない。

お味噌汁が冷めるのは痛いが……


「あのさぁ、ダサくねぇ? 自分から言い出しといてまだ居座るとか!」

「――っていうか、どこがリア充なわけ? リア充に謝れっての!」

「ダサいって言うか、ハズいよね~~なんか田舎のヤンキ―丸出し! あっ、全国の田舎のヤンキ―さん、ごめりんこ!」

「あれれ~~凄んでも約束ひとつ守れないんですか~~ママに𠮟られちゃうよ?」


『謎のパンツ見えちゃう系ユニット』が山本君たちを煽り「1―A」女子御一同が失笑する。

見ようによったら、いじめに見えなくはない。


まぁ、身から出たサビといいますか、サッカ―のクラス対抗戦の時、負けそうになって女子たちを「肉の盾」作戦に駆り出したのが運の尽き。

一般女子でもこう人数が集まると無言の圧がすごい。

オレなら即落ちしてる。


それに加え普段から彼らを煙たく思ってた生徒や、何も知らずに居合わせた生徒の興味本位の視線が重い……

そんな中、アバまんじズレ子が、足をテ―ブルに乗せふんぞり返る山本君に挑発的に、蔑んだ顔で顔を寄せた。


あっ、マズイ……


オレは咄嗟に自分のA定食のトレイをたちばなに渡し「1―A」女子の間をすり抜けた。

オレが最も得意とする動きだ、サッカ―だけど。

オレは素早くアバまんじズレ子の背後に近寄り、魔改造制服の襟を強引に後ろに引いた。


迂闊にもちょっといい匂いがした、アバまんじズレ子には悪いがさわやかなバニラのニオイだ。

オレが取った行動でまんまと挑発に乗った山本君の裏拳が空を切った。


アバまんじズレ子からしたら、ワザと殴られようとしたんだろうが、オレが邪魔した形になる。

しかし、一般女子からしたら目の前で女子に本気で手をあげたワケだ。

蜂の巣をつついたとはまさにこの事だ。

さっきまで無言の圧に徹していた女子たちは声をあげた。


「サイテ―」

「シんだらいいのに」

「マジキモイ」

「消えてほしい……」

などなど…お伝えできる内容はこれくらい。

これ以外は「ピ―ッ!」入れないとダメなレベルだ。


手をあげた山本君本人はともかく取り巻きは、ここまでの空気に耐えられない。

「山本君。行こうぜ」

取り巻きのひとりが山本君の肩に触れた。

それを鬱陶しそうに払い除けた。


収まるわけがない。

山本君はアバまんじズレ子を庇う形になったオレに顔寄せガンを飛ばした。

オレは揉める気もない。

どこ吹く風みたいな顔してた。

オレの後ろに隠れるアバまんじズレ子に一瞥し、品のない笑いを浮かべた山本君は吐き捨てるように言った。


「噂通りのヤリ○ンだな、でよけりゃくれてやるよ、まぁ!」

負け惜しみなのはわかった。

アバまんじズレ子に肩入れする理由もない。

でもこういうのは嫌いだ。


オレは理性を持ちながらも、一歩踏み出した。

安い挑発なのはわかるが、やっぱこういうのは嫌いだ。

「おっと、やっとやる気になったってワケか。面白い――」

山本君のセリフが終わる前に学食が静まり返るような声が響いた。


『――ショ―ヘイ!!』

オレだけじゃなく学食中が声の人物を見た。

とばりだ。

帳は口の動きだけで「めっ!」とオレを叱った。

オレは冷静だった。


だけど「姉に叱られた」という言い訳をくれたとばりのお陰でオレは簡単に手を引いた。

学校中に知れわたるシスコンなのだ。

姉至上主義の元、その場を退いた。


それは実は山本君にとってもいい落とし所だった「くそシスコン野郎」と悪態をついて学食を取り巻きと出て行った。

その後ろ姿を見送りながら、学食では歓声と拍手が自然と起こった。


「新しいあるじは歓迎されてるみたいだね?」

ショコラは軽く肩にチャ―ジしてきた。

痛くはない、じゃれる様なショルダ―チャ―ジ。

オレは人前だけど、ショコラの後頭部を撫ぜた。

ちょっとうれしそうな顔して、ショコラは仲間たちのところに行った。


「あのさ…なんか、ありがと」

忘れてた。

アバまんじズレ子を庇ったんだ。

オレは少し考えてた。


さっき魔改造制服の襟を掴んだときのパサついた髪の感触とバニラの香りの違和感。

ブリ―チで傷んだ茶髪より、バニラ寄りな気がした。

「余計なお世話だと思うけど、黒髪天使の輪マシマシの方が似合ってると思う、今日この頃」


「なにそれ? ウケる。でもあんがと、まぁ考えてみてもいいかもね」

アバまんじズレ子は手に巻いたシュシュを揺らし学食を出て行った。

取り残されたパンツ見えちゃう系「読モ☆三連星」はおもむろにオレを囲み、自撮りして「またにゃ〜〜」と去った。

もちろんオレは手を「にゃ~」な感じにしていた、誰も知らないところで。


「バカやってるから冷えちゃったじゃない、あんたたちも早く食べる!」


オレは「リア充カ―スト」席に収まり、食事に取り掛かった。

何故か仕切ってるのはとばりだった。

席は長椅子タイプなので、並んで三人座れた。

右にとばりで左にサブリナだった。


「あの、昇平しょうへいクンのお姉さん」

「長いわね、何とかなんない?」

「えっと…じゃあ『お姉さん』って呼んでもいいですか?」

「お姉さんか…」

向いに座るショコラはとばりに尋ねる。


とばりは元は体育会系女子。

ショコラみたいな「目上に対する態度」がちゃんとした女子は好きだった。

とばりは珍しくオレをチラ見して意見を求めた。

別にいいんじゃない?

オレのそんな反応に「いいよ」と答えた。


「ありがとうございます!」

胡麻をすってるワケじゃない。

体育会系のノリはこんな感じ。


「あの〜〜俺はなんて呼んだらいいスッか?」

考えてみればショコラとたちばなだけが初見だった。


「ん? 普通に伊吹いぶき先輩でいいよ?」

「いや俺も『お姉さん』とか『とばりさん』とか…」

「下の名前はないかなぁ…」

「えぇ〜〜でも水落みずおちは?」

「え? のぞみ? いや、わたしのぞみのオムツ替えたことあるし。付き合い古いの、ご近所だし、ねぇ。昇平しょうへい


「そうだな~しゃあなしだな」

「いや、昇平しょうへいお前からもたのんでよ~」


「あっ、たちばな。オレのことは『伊吹いぶき君』でいいよ?」

「え〜!? 姉弟揃ってそうなの⁉ しかも『君』付け⁉」

橘は大げさに嘆いて見せた。

いい感じのム―ドメ―カ―だ。

少しくらい雑なイジりでも凹まない。


たちばな〜私のこと『かえでさん』でいいから」

「じゃあ、俺も『水落みずおち君』でいいよ」

たちばな。我が名はショコラね」

「じゃあ私も『ホ―リ―ウッドさん』で!」


「えっ? ウソ…サブリナちゃんまで!? お前ら打ち合わせしたろ? よし、わかった、そっちがその気なら俺ちゃまのことは明音あかね呼びで!」


「「「「わかったたちばな〜」」」」

「お約束かよ!」

たちばなの自虐が炸裂したところで「お後がよろしいようで」になると思いきや、またもや謎の刺客が現れた。


いや、謎でもなんでもない。

そこにいたのは恋に溺れた生徒会長だった。


のぞみは珍しく苦い顔した。




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