第14話 若さゆえの過ち。

江井ヶ島えいがしまア式蹴球しゅうきゅう部ってなんぞや?』(ポスッ!)


当然の疑問だ。

オレはショコラの意図を汲み取り、閉鎖的なコミュニティ「リア充カ―スト集団」を設立することに前向きになった。


理由のひとつ目はショコラがいう「二度とない青春謳歌おうかしょうぜ!」に単純に惹かれたこと。

ふたつ目の理由は、山本君からもたらされる不安要素に対しての自衛手段だ。

三つ目は、ふたつ目の派生。

何かされる毎に後追いで対処していたら、モグラ叩きと変わらない。


『ワニワニパニック』みたいなのはゲ―センだけで十分だ。

山本君たちだって、ある程度の勢力を相手するとなると、準備や覚悟がいる。

オレたちが悪目立ちすることが、抑止力となるかも知れない。


一般生徒の支持を得られるような「リア充カ―スト集団」を目指す。運が良ければ何も問題が起きない学生ライフが送れる。

まぁ、そう甘くはいかないだろうが。

悪くない考えだと思う。


『いくらなんでも名前は勘弁! どうせなら【サッカ―同好会】みたくしたい。

男女混合のフットサルサ―クルみたいなの、どうよ?

フットサルで遊ぶみたいな?

まぁ、ぶっちゃけバスケでもビ―チバレ―でもいいんだけど(笑)』(ポスッ!)


『フットサルに興味がないと入れないと?(にやり)』(ポスッ!)

『ショコラのご希望かと?(にやり)』(ポスッ!)

ショコラのLINEから「なかよし集団」を作りたいが、誰でも気軽に仲間に加えたいワケではないことは理解できた。

それが別にフットサルでなくてもいのだが「スポ―ツ」を楽しむ仲間となると、少し敷居は上がるはずだ。

逆にスポ―ツだけを条件にするワケではない。

ようは気が合う相手なら構わないが、そうじゃないヤツを『ふるいに掛ける』言い訳みたいなもんだ。


『越後屋、そちも悪よのお(笑)』(ポスッ!)

『お殿様も~~(笑)あと、姉さんも加えるけど、なにか?』(ポスッ!)

『あっ(察し…)噂のシスコン男子の模様……了解! じゃあ、メンバ―に招待よろ~~私は私で準備しないとなの!(バ~イ・センキュ―!)』(ポスッ!)


ショコラとのLINEに気を取られ、とばりの事を疎かにしていた。

視線を下着売り場のとばりに移すと、なんてことでしょう、たった十分間目を離しただけなのにナンパされているじゃないですか!

相手は男ふたり。


なんでだろう?

とばりは男ふたりからのナンパがやたらに多い。

ふたりだと声を掛けやすいというのか?

どちらにしても駆けつけないワケにはいかない。


オレは内心穏やかではないが、こんな近所のショッピングモ―ル内でのもめ事は避けたい。

なのでワザとあくびをしながら、ゆっくりとした足取りでとばりに近づいた。

とばりとばりで、オレを見つけ小走りで駆け寄り、腕にしがみ付きながらオレの後ろに隠れた。

血縁関係がないとはいえ姉弟きょうだい


だけどまるで彼氏彼女だ。

それもそのはず、そういう風に決めているのだ。

以前、一度弟と名乗り、なかなかあきらめてくれないことがあった。

だけど「彼氏持ち」となるとほとんどが、謝りながら退散してくれた。


とばり。どうした?」

昇平しょうへい、どこ行ってたのよ。いてくれないから……」

「ゴメン、トイレ。っていうか下着売り場でナンパとかないだろ、普通。係員の人呼んだ? 迷惑行為だろ?」

「まだ、今から呼んでくる」

そんな三文芝居のふたりのやり取りに、運よくペコペコしてナンパ師ふたりは退散してくれた。


ふたりの後姿を目で追いながら、聞こえないことを確認してとばりはオレの腕から離れ、腕組をしてオレに睨みを利かせた。


。お姉さま、危うく強引に連れてかれて、凌辱りょうじゅくの限りを尽くされるとこだったじゃない! なに? 私よりイベント周回なの?」

ん…どうやらオレがスマホを見てて、ナンパに気付くことが遅れたのはバレてるらしい、しかし幸いにもスマホゲ―ムのイベント周回だと勘違いしてる。

しかし‼ オレはとばり素人ではない。


あえて言おう「とばりのプロ中のプロ」またの名を「トバリスト」。

もしここで素知らぬふりでやり過ごしたとして、それが後でバレたらどうなるか……

それはとばりによる一週間にも及ぶ、壮絶なシカトだ!


オレが一週間も姉とばりと話せないなんて、無理に決まってる! ここはウソを付かずに素直が一番だ。

仮に少し拗ねられたとしても、しつこいがとばりは鬼畜じゃない。

拗ねながらも、今夜には許してくれるハズ。

なので、全面降伏と共に誠意として自分のスマホを差し出した。


ショッピングモ―ルを後にし、ふたりで海岸近くのカフェに立ち寄った。

学生の分際でカフェで食事まではできない。

手持ちの問題より、カフェのサンドウィッチの量とオレの胃袋の空加減のバランスがまるで合わない。


そんなわけでオレは、カフェに来る前にとばりの尋問を受けながら、フ―ドコ―トでハンバ―ガ―を口に運んだ。

とばりは鬼畜ではない。

まるで自分に言い聞かせるかのように繰り返してきたが。

今だって、ちゃんととばりを見てなかった理由がLINEにあることを告げたら「見せて」と一読し「三分間奴隷で我慢したげる」とニコリともせずに告げた。


「三分間奴隷」我が家に古くから伝わる、罰である。いや、ウソ。

とばりが小四のオレに思いついた罰だ。

三分間だけ「言いなりになる」だったがほとんどの場合「三分間くすぐり続ける」そして逃げてはいけないというものだ。

場所はオレのベットかリビングのソファ。

とばりがスマホでタイマ―を準備し「よ――い、ドン!」でオレにまたがりくすぐりはじめる。

くすぐりに弱いオレのことを知り尽くしたお仕置きなのだ、始まりは。


しかし、オレは中二の夏気付いてしまった。


これって『騎乗位』ってヤツでは? と。

その日は夏休み。

水泳の補習で登校していたとばりは、ついでに数学の補習に参加することにしたらしい。

水泳の方は実技テストの日に休んでいたため、数学の方は自主参加の補習、つまりやる気がある生徒が参加する補習だった。


午前中のみ部活だったオレに対し、とばりは弁当持参。

腹ペコで帰ろうとするオレに、ウインナ―を分けてくれ「水泳の補習」で使ったスク―ル水着とバスタオルを持って帰るよう頼まれた。

オレはとばりが分けてくれたウインナ―が呼び水となり、腹ペコが加速。

ダッシュで帰宅し、母さんが用意してくれてたおかずとカップヌ―ドルで食欲を満たし、そのままベットで昼寝した。


熟睡していたオレはとばりのケリで起こされた。

自慢じゃないが寝起き、そこそこ悪いです。

十分もしたら通常運転するのを家族は知っていたので、その時間帯は基本放置なのだが、あろうことか「ケリ」で起こされて機嫌いいワケない。

そこに開口一番「あんたさ、私の水着汚いっての?」両手を腰に当て、仁王様よろしくなとばりは寝ていたオレを見下した。


「はぁ⁉」

「『はぁ⁉』じゃないわよ! 自分のユニやら臭っさそうなソックス、あと私のバスタオルは洗濯機にインして回してんのに、水着だけビニ―ル袋の中ですが? そんなに私の水着って汚い? 触りたくないほど!」


えらい剣幕だった。

いや、確かにこの頃にはとばりの乾いた下着を引き出しに入れたりしてましたが、水着は別じゃね?

みたいな気持ちがある。

触っていいかわからないし、何よりとばり曰くホコリまみれの「臭っさそうなソックス」と一緒に洗ったらアカンだろうになった。

しかし、聞く耳なんて持つはずないとばりはオレの言葉など聞かずに「三分間奴隷」を宣言、寝起きのオレにくすぐり攻撃に入る。


いつもなら「姉ちゃん、やめて!」なんておふざけで言うのだが、残念機嫌が悪い。

オレは力づくで逃れようとし、姉とばりは威信をかけて押さえ込もうとする。

しかし、この頃には既に男女の体力差が表れ、本気を出せば負けることはない。


「後から『胸触った』とか言うなよ!」

「なに言ってんの? 実は触る気満々なんでしょ! このえっち!」

「はぁ⁉ 触んねえよ!」

「あぁ⁉ 何でよ‼ ちゃんとプ―ルの後シャワ―浴びたし! だいたい触る勇気あんたにあんの?」

「は? いや、普通に触れるし! わかった、力づくで退けてやる!」


「ち、力づく……?」

一瞬とばりがヒヨった。

「なに?」

ヒヨったとばりを見てオレは少し冷静になる。

「その……触るなら優しくがいい…その、成長期なの…力づくは――きつくは痛いの」


いや、マジな回答きた!

いや、いくら何でも姉の胸を力づくでは触らんぞ?

しかも打って変わって、しおらしい……冷静に見るといつもと違う。

「なんかイライラしてない?」

「ごめん、してる。受験生だしねぇ」


「受験ストレスってヤツ?」

聞いた事あるが、あくまで情報として知っているだけ。

だけどとばりが受験でストレス感じるとは思ってなかった。

「ん……受験ストレスとかじゃなくて、違う学校通うわけでしょ? 一年も!」


「オレと?」

「当り前じゃない、他に誰がいんのよ……もう。あぁ~~! 嫌になっちゃう。なんであんたと別の学校行くために勉強頑張んないとなの? 頑張って入った高校に何があるの? なんであんた一歳下なのよ! 同じ歳でよくない? あんたと離れるために勉強なんてミリもモチベ上がんない~しかもなんで一年も一人で電車乗んないとなのよ~あぁ~~~~つまんない~!」


寝起きで不機嫌なオレの脳細胞でもわかった。

とばりが県立江井ヶ島えいがしま高校を進路に選んだことを。

県立江井ヶ島えいがしま高校は、通える範囲の公立で一番のサッカ―強豪校。


ここ数年、あと数歩で全国に手が届く位置にいた。

とばりは成績優秀。

県立江井ヶ島えいがしま高校も進学校だが、同じレベルの公立高は電車に乗らなくとも自転車で通学出来る範囲にあった。

ただ、その高校には男子サッカ―部はない。


つまりオレが進路に選ぶ可能性はゼロだ。

寝起きでもわかる、とばりはオレと同じ高校に通うためだけに県立江井ヶ島えいがしま高校を受験する。


オレはオレにまたがり拗ねた顔でそっぽむく、血縁関係がない姉の言葉、態度、仕草、あとプ―ルあがりのわずかな塩酸の匂いが残る髪のに涙が出そうになった。

オレの涙の沸点って、どこだよ……我ながら溢れそうな涙に呆れた。


そして何を思ったか、場を和ませるつもりだったと思う。

「姉ちゃん、これって『騎乗位』ってヤツ?」

オレはあえなくクッションを喰らった。

とばりも照れ臭かったのだろう。


思い直したとばりは思う存分くすぐり、くすぐり疲れたとばりはオレに覆いかぶさり「とばり、ファイト―! は?」そう受験の応援を要求した。

どこまでかわいくなるんだ? この「かわいい生き物」は?


それ以来の「三分間奴隷」かも知れない。

いや、さすがに人前だけど?

照れていたオレは自分の愚かさにまだ気付けないでいた。










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