第13話 リア充、始めました。

出来るだけ音を立てないように注意してガレ―ジを出た。

知らない人が見たら、自転車泥棒に見えなくもない。

それくらいオレたちは細心の注意を払って自転車を持ち出した。

寝てる父さんを起こさないように。


とばりは自転車に乗っても平気なように、スカ―トの下にスパッツを履いていた。

残念そうな顔するオレに「家で見れるじゃない」と答えた。

確かに家では見れる。

何故ならとばりの下着の管理はオレの仕事、ある一定の下着ばかりヘビ―ロ―テ―ションして、着くずれしてしまわないように、その日着る下着類はオレが準備した。


先程とばりが言った「家で見れるじゃない」と言ったのはあくまでも、布としての下着であり、その下着を付けた姉とばりではない。

いくら距離感が他の姉弟きょうだいと少しずれていたとしても、下着を付けたとばりを見れるワケではない。

それは血縁関係のあるなしに関係ない。


そんなことはさておき――

とばりはマウンテンバイク、オレはママチャリに乗った。

一見格差社会に見えるかも知れないが、練習試合などで近くの高校に行くことが多いオレは、荷物の関係上ママチャリの方が便利だ。


あと、近くの一級河川の土手をとばりを乗せて走るのにも、ママチャリは便利だ。

ちなみに道ではないので、はたぶん問題ない、たぶん2万円以下の罰金又は科料はないだろう……ところで科料ってなに?


家の近くにヨ―カド―がある。


最近リニュ―アル・オ―プンして目新しい店舗が増えた。

わざわざ遠くに行くより全然よかった。

フ―ドコ―トも広く、高校生が少しくらいへたっていても、十分に席はあった。

不満ではないのだが、いつも思う。


とばりとこんな風にノ―部活デイ・デ―トをするのだが、必ずとばりは制服だった。

一度家に帰ったにも関わらず、制服。

面倒くさいのか、オレが相手ならこれでいいか、なのか気になっていたので、つい聞いた。


「バカねぇ、あんたの前で制服着てお買い物出来るのって、あともう丸二年ないのよ、現在進行形で「姉さんのかわうぃ~~制服姿」を焼き付けてるとこよ~~はい、ちゃんと見る!」

笑いもせず、真顔で言われた。

そういう理由なら別に悪い気はしない、いやむしろ嬉しい。

そうか、そうだな。


とばりの制服姿を見れるのは、たったあと二年なのか…

そう思うとショッピングモ―ルにいることを忘れ、少しセンチメンタルになる。

それを察したのか、とばりは例のイタズラぽい表情で覗き込む。


「なに、寂しいわけ~~? 仕方ないなぁ~~家の中でたまになら着たげる。なんなら中学の時のセ―ラ―もあるわよ~~? 着たげようか~~? あんた好きだったでしょ? 中学の時のセ―ラ―服姿のわ・た・し。あっ、でも胸元入んないかもね(笑)」


マジか。

あの激かわ中学時代のセ―ラ―を着てくれるのか、写真撮んないと。

オレはバカげた妄想に浸っているのを知ってか知らずか、とばりは耳元で「そんなわけで、ちょっくら、ブラ選んでくるわぁ~候補決まったら呼ぶから待ってて~~あとご希望の色とかあったらLINEして」わかってる。


もはや姉弟の会話じゃない。


(ポスッ!)ん…?

とばりを待つオレのスマホがわずかに振動した。

とばりにしてはあまりに早すぎる。

ありえない、こんな早くにあのとばりが自分の下着を選べるわけない。

確認してみるとショコラだった。


ヤケクソなのか。

プロフのアイコンがお習字のような文字で『我が名はショコラ!』だった。

きっと、すぐに変えたんだろう、意外に気に入ってるのかも知れない。

オレはショコラからのメッセ―ジを読んだ。


『クラスのグル―プから辿たどったの〜〜ふつつか者ですが、よろしゅう!(ビシッ!)』

親指を立てた、まさに「よろしく!」って感じのスタンプと共に。

『今までお世話になりました!』(ポスッ!)

『いやいや、これからでんがな、ダンナ〜〜』(ポスッ!)

LINEでもテンション高めだ。


瀬戸内海に位置するこの辺り、関西圏ではあるが、流石に『でんがな、まんがな』はテレビでしか聞いたことがない。


『いまなに中?』(ポスッ!)

『体育館のモップがけ中! いま終わったとこ~ノー部活デイなのに体幹トレあったり、なかったり(笑)』(ポスッ!)

『あるの、ないの?』(ポスッ!)

『腹筋割れるほどありました!(泣)腹筋割れたらお嫁に行けない(汗)腹筋が割れるほど恋がしたい!(笑)』(ポスッ!)

『いや、マジ何言ってんのかわかんない!(笑)で、何か用?』(ポスッ!)


『とりあえず、なかよしグル―プ作らない? 二度とない青春謳歌おうかしょうぜ!(笑)のお誘い‼』(ポスッ!)


ん…まぁ、悪くない話だ。


確かにせっかく同じクラスになったわけだし、今のクラスの交友範囲はのぞみ六実むつみ、それにサブリナ。

のぞみ六実むつみの幼馴染枠を除けば、サブリナと今LINEしてるショコラだけ。

オレの性格から考えて、油断したらこのメンツで一年が終わりかねない。

サブリナに至っては席替えとかしたら、疎遠になるかも。


いいきっかけだし、そういうリア充みたいなのも正直憧れる。

『いいよ、誰に声かける?』

『私、伊吹いぶきクン、水落みずおち君、かえでさん、サブリナちゃんかな?』(ポスッ!)


たちばながいない模様(震え声…)』(ポスッ!)

『えっ⁉ 脳筋いりますか??(笑)うそ! 了解! 悪いけど伊吹いぶきクンからメンバ―招待して、あとグル―プ名なんだけど――【昇平しょうへいを囲む会】とかは?』(ポスッ!)


『えっ⁉ オレ囲まれてボコられる感じか⁉』(ポスッ!)

『そういうのもありっちゃ〜ありなんだけど、じゃあ【昇平と愉快な仲間たち】は?』(ポスッ!)


『愉快なのお前だけな? っていうか何でオレの名前付けんの? なんかあれか? タカられる感じなの?』(ポスッ!)

おふざけでかわそうとしているが、なんか嫌な予感がプンプンする。

おそらくショコラは閉鎖的なコミュニティを作ろうとしている。

その中心にオレを置く気なのも何となくはわかるし、その意図というか狙いもわかる。


少人数でまったりしたいのかも知れないが、もしかしたら山本君たちの「自称リア充集団」に対抗しようとしてないか?

つまり「自称」ではない自他ともに認める「リア充」集団の結成を狙っているのか?


実際のところ入学以降、山本君が所かまわず、幅を利かせているのが気に入らない生徒は大勢いる。

ウェイな方々の集団は何より校風に合わない。

だけど、対立軸となる勢力がない。

カ―スト頂点が存在しない今、野放図に女子をまるで賭け事の道具にして、手に入れようと山本君が行動に出た。


この無風状態が、そんな無茶苦茶なことまで許されるという誤解を与えているのなら、なにか手を打ちたい。

あの思考回路や粘着質そうな性格だ。

学年主任の説教がのど元を過ぎれば、更に悪化してもおかしくない


山本君のお目当てのサブリナはもちろんだが、六実むつみも目を付けられていてもおかしくない。

いや、オレもそれなりに山本君たちの顔に泥を塗った。


そういう意味では、姉とばりもちょっかい出されないとも限らない。

そうなると、オレひとりの手では余る。

オレがいない場所、時間帯は必ずある。のぞみたちばなもいるが、三人でもすぐ限界が来る。

第三者の目が必要だ。


そう考えると、敢えてここは悪目立ちするのも方法だ。

オレたちが新たなカ―ストの頂点に名乗りを上げれば、自ずと注目度があがる。

結果、オレやのぞみの目が届かないところでも、誰かの視線があり、カ―ストの頂点に、お近づきになりたいという、ささやかな願望があれば、速報として耳に入るかも……


しかし、そんなに簡単に対決軸になるだろうか?

答えはどちらでもいいのだ。

敵対しようが、おとなしく引き下がろうが。

オレの狙いは姉とばりやサブリナと六実むつみ、あるいはショコラがあの粘着質に狙われないことだ。


おとなしく引き下がるなら、問題は消失。

敵対すると考えるなら、いまここでカ―スト上位に手を上げないと対処療法となる。


サブリナが帰り道待ち伏せされたとか、六実むつみの上靴がなくなったとか。

そういう地味で陰湿なヤツは、なかなかストレスになる。

恐らく考えられる未来では、オレたちに手を出すのではなく、仲良くするだけで嫌がらせの対象にされるだろう。


幸いにも、今日山本君たちがサッカ―に勝つために取った「肉の盾」作戦。

自分のクラスの女子を強制的に肉の盾に使い、評判は地に落ちていた。

まぁ、元々評判がよかったワケではないが。


鉄は熱いうちに打てというやつか。

江井ヶ島えいがしまア式蹴球しゅうきゅう部はどう?』(ポスッ!)

何かが始まる予感がした。












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