第11話 思ってたのと、なんか違う。

「君たち、覚えてない? 三崎中だよ? ほら、ミドリのユニの2番」


連想ゲ―ムのような断片的なヒントを出されても、正直まったくわからん。

それは相棒ののぞみも同じようで、顎に手を当てて首を傾げた。

駄目だこりゃ、みたいに大袈裟に首を振られても、わからんもんは、わからん。


「3チ―ム総当たりの練習試合したでしょ? 中二の春かな? 伊吹いぶき、あんた前半だけで4点取って、相手の顧問マジ切れしてたでしょ? それが三崎中」

「取りましたっけ?」

「取りました!『なんで9番付かないんだ‼』って。それはそれは」

中二の春って覚えてないなぁ……っていうか逆に六実むつみすげえな。

そんな感慨に更けてたら、たちばな君が挙手した。


「あぁ、悪いんだけど後にして。この本能型フォワ―ドのハトポッポ並みの脳みそ活性化するいい機会なんだから」

えらい言われようだ、だけどこの前の実力テストお前より遥かに順位いいからな?

追い返されたものの、納得いかないたちばな君は発言を強行した。


「――っていうか、伊吹いぶき。おまえ、一試合で4点も取ってなんで記憶にないの?」

「そんなこと言われても……」

ないものはない、ない袖は振れぬというヤツだ。

たちばな。代わりに答えるとするなら、昇平しょうへいは、

「はぁ⁉」


なに、その変人見るような目……いや、オレこぼれ球に触るだけだからね?

あと、練習試合だからな?


「ん? 待てよ、六実むつみ。三崎中の右サイドバックって…上がったキリ戻らない例の『スタミナ君』?」

「そうよ、そこの何とかクンが例のスタミナ君。自分のサイドがら空きにして戻んないから、まんまと水落みずおちが空いたスペ―スにパス出してからの、前半4点なわけ」


『あぁ~(思い出した)』

「な、なんだよ! その残念な子見る目は!」

たちばな

「な、なんだよ」

「ドンマイ」

「ドンマイ」

「ドンマイ、乙」

オレたちは古い知り合いとの再会を手荒に歓迎した。


「状況は?」

オレはセンタ―サ―クルで相棒のぞみに話しかけた。

「まぁ、6点差があるんだから、相手キ―パ―も油断しておしゃべりもするだろ」

山本君の取り巻きの河田君だっけ?

先程たちばなにかまされた「アバまんじズレ子」に必死で何かを話しかけていた。

当の「アバまんじズレ子」はつまらなそうに、ゴ―ルポストにもたれてネ―ルを見ていた。退屈そうに。


「じゃあ、いきなりイクわけか。どうやったら届くの、こんな距離」

「ん…何となく?」

そんな感じでスカしたのぞみはホイッスルと共に、オレから軽く出されたパスを狙いすまし、センタ―ライン近くからシュ―トを放った。


『――河田‼』

山本君の叫び声に鼻の下を伸ばしたまんまの河田君は「ん?」みたいな顔をする。

そして次の瞬間『パスッ』乾いた音と共に背後のネットが揺れた。


「――マジかよ…」


はい、マジなんですわ。

ウチのボランチ県下屈指なんだよ、試合じゃさすがにこんなシュ―ト打たんけど。

体育の授業だし、君たち六実むつみのこと『下半身の処理係』なんて言ってくれたでしょ?

あれ、オレたち許してないから。


それから10分経つかどうか。

オレが2点、たちばなが1点、さっきの豪快なミドルを放ったのぞみの1点で計4点を瞬く間に奪った。

しかし、オレたちの攻撃はそこで停滞した。

山本君率いる「1―A 」は、自身のゴ―ルマウス周辺に「1―A 」女子による肉の壁を築いた。


豪快なのぞみのミドルシュ―トを見た直後だ。

「1―A 」の女子は怯えたし、オレも内心怯えた。

下手なシュ―トを放って、怪我でもさせたら…

そう思うと手に震えが起きた、もしかしたら、怒りからかもしれない。

こうなることは、少し予想していた。

不利になったらガチガチにゴ―ルを守りに来る。

サッカ―ではそんなに珍しいことではない。


でも、さすがに男子だけでやってくると思ってたが、女子だけとは…さすが、山本君――クソだな。


しかも女性内差別しない山本君は「アバまんじズレ子」と仲間たちも、守備の枚数に加えた。

「マジ有り得ないんですけど!」

半ギレな言葉と裏腹に、神経質に眉をひそめ体を硬直させた。

しかも今から直接フリ―キック。

キッカ―、オレ。

オレは不敵な笑みを浮かべた、それが心配になったのかショコラが近づいて来た。


「あの…伊吹いぶきクン。一応聞くけど、どうすんの? 相手女子だよ?」

オレはしらこく、手の平を目の上にし遠くを見るような、狙いを定めるような仕草をした。


「どうするって、ショコラ。オレはフットボ―ラ―であると同時に男だ! 男女雇用機会均等法をこよなく愛する男!」

「えっと、いま男女雇用機会均等法関係ないよね? それってまさか――」

「そう、ピッチに立った以上男だろうと女だろうとひとりのフィ―ルドプレイヤ―! 顔面にシュ―トのひとつやふたつ覚悟の上だろ! あと、体育の授業だ。ケガしても保険金が出る、!」

ゴ―ルマウス周辺に固められた女子からざわめきが起きた。


「あっ、いたいた。そこの人、さっき六実むつみに言ったこと忘れてないぜ?」

オレは「アバまんじズレ子」を指さし宣言した。


「えっ⁉」

それを聞いた「1―A 」の女子は「アバまんじズレ子」からじりじりと距離を取るし、当の「アバまんじズレ子」も出来るだけ体を小さくする。

オレは出来るだけ大げさなモ―ションを取り、豪快な直接フリ―キックを放つかに見せかけた。


『ふわっ~』ぽすっ……


頭を抱えてしゃがみ込む「アバまんじズレ子」の頭上をふんわりとしたル―プシュ―トが通り過ぎ、ネットを優しく揺したボ―ルは転々と転がり「アバまんじズレ子」の背中に「ちょん」と当たって止まった。

「えっ?」

頭を抱え、眼の淵に涙を浮かべ、信じられない生き物を見る目でオレを見た。


ここが潮目だった。

ゴ―ルマウス周辺で肉の盾になっていた「1―A 」の女子はぞろぞろと「1―B 」の安全なゴ―ル周辺に移動した。

まぁ、オレが「1―A 女子ご一同様」の旗を手に誘導したのだ。

空になったゴ―ルマウスを揺らすのは難しくない。


瞬く間に点数を重ねたオレたち「1―B 」は「6―10」の大差で勝利した。

後半スタミナ切れになった山本君と取り巻き計3名「自称全国区」は、生徒指導室にそのまま連行された。


学年主任は普段から素行の悪い山本君たちに、サブリナの件でお灸をすえるらしい。

ゴ―ルマウスにもたれた「アバまんじズレ子」

どうしようか迷ったが、助け舟を出すことにした。


「さっきの、六実むつみに謝るなら今回は水に流してもいい」


いや、本心脳天直撃のげんこつを見舞ったろか、なのだが、学年主任もいるし……

まぁ、返事は期待してない。

謝りたければ、謝るだろうし誰かが強要することじゃない。


「あ―し、さ。わかってほしいワケじゃないんだけど、たちばなが言ってた援交とかじゃないんだよねぇ……なんていうか、好きになったの。担任を、付き合う感じになったんだけど……知らなかったんだ、結婚してるの。そしたら大ごとになって、まぁ。信じないか、あ―しの言うことなんて」


「信じてる」


「え?」

「ずっと前から、信じてた」

「そうなの? ありがと……そうなんだ、あ―し…いや、わ、私謝る、うん! なんか、ごめんしてくる!」

えっ?

ここは『ずっと前なんか知らねえだろ!』ってツッコむとこな?

いや、考えてわかんない?

たちばなのことすら覚えてないんですけど?

オレの薄っぺらな記憶すら「今日初めて話した」って断言できますが?


まぁ、いいや。

オレは試合が終わったらお説教してやんないとと決めていた。

そんなおしりぺんぺんな女子の所にオレは足を向けた。


「サブリナ、ちょっといいか?」


「はい! 凄かったです! 昇平しょうへいさん!」

「ん…それは置いとこ。オレちょい怒ってるんだけど?」

「怒る?」

「わかんない? あんな山本君の挑発なんかで自分賭けの道具にして。もし負けたらどうするつもり?」

オレは珍しく説教を垂れた。しかし――


「あっ、アレですか? 大丈夫です! もし負けたら先生に言いつけます! 奴隷制度反対です!」


「え? じゃあ最初から……」

「はい! 聴く耳ないです! 心配してくれてありがとうございます!」

サブリナはオレの手を握りブルンブルンと握手をした。

握手と共にサブリナの胸もブルンブルンと揺れていた。


おかしいな…最近の女子、たくまし過ぎへんか?







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