第9話 景品は姫。

前回の授業で告知があった。

今日の体育は男女混合によるクラス対抗のサッカ―の試合だ。

こういう時は、往々にしてサッカ―部員というだけで、審判を押し付けられた。

それは今回も変わらない。


審判なのに、オレは半そで短パン。

なんかヤル気満々な感じが半端ないが、体育服の長袖長ズボンを転校すぐで体操服のないサブリナに貸してるだけだ。

そのサブリナなのだが、サッカ―のル―ルを知らないのだろうか、ラインズマンをしてるオレの側を離れない。

しきりに体操服の胸元を気にしてるようだ。


「どうした、サブリナ。窮屈だったか、体操服?」

「いえ…その……お借りしておきながらなのですが、胸が少し……」

窮屈なんだ。

オレは何気なくサブリナの胸元をみた。

破壊的なサイズの胸が、オレの名前が書かれたゼッケンの内側で存在感を主張していた。

ハ―フタイムの時、サブリナの体操服姿を見たのぞみに「お前の嫁」イジリをされたが、バカげていると言いながら、自分の体操服を着た女子の存在にドキドキした。


(それにしても、一体何カップなんだ…)


とばりも決して小さくない。

とばりがEカップ、それより一回り大きい。

これが、Fカップ(推定)の破壊力と、いうものなのか……


そんなバカなこと考えてる内に、後半開始早々またもや点数が入った。

『1―A』対『1―B』前半を終え『5―0』だったスコアが『6―0』

ボロ負けの様相を呈していた。


たかが体育の授業。


しかも男女混合のぬるめの試合のはずなのだが、おかしい。

さっきから聞き慣れた鬼の形相で指示を出す女子の声。

六実むつみだ。

試合となると、黙ってられないのだ。

しかも自分を中心とした守備がものの見事に崩壊。

6失点を喫していた。


昇平しょうへいさんはどうして試合に出ないのですか?」

サブリナの素朴な質問。

昨日転校してきたばかりの彼女は、オレがサッカ―部だと知らない。

「オレとのぞみはサッカ―部だから、かな? ラインズマンがいなくなると……困る…」


(困るか?)

たかが、男女混合のクラス対抗のサッカ―の試合。

勝った方の体育の成績が大幅に上がるとかの特典があるワケではない。

入学して少し過ぎた。

教師的には固まりかけたクラスの更なる団結、みたいな? そんな生あくびが出そうな状況。

だけど気になる、いや気になることと、気に障ることがいくつかある。


「ほら、男子! 突っ立ってないでシュ―トコ―ス塞ぐ‼」

六実むつみの場の空気を読まない、指示と激。

まぁ、通常運転だし、少し気になる程度。

それと『6―0』という敗戦濃厚な男女混合のクラス対抗のサッカ―なのだが、ウチのクラスで一人だけ果敢に攻め上がる右サイドバック。


(経験者だ…)

ボ―ルさばきが素人離れしていた。

しかし、孤立無援、彼を孤軍奮闘させる理由――苛立たせる理由が相手チ―ムのリア充というか、ウェイ系の言葉。


「俺らサッカ―部入ったら余裕で全国行けんじゃねぇ?」

「山本君が真剣にやりゃあ、余裕しょ?」

「河田、山本君が真剣に部活とかマジないわぁ~~」

「何言ってんだ、大本っち。俺らなら片手間で全国行けるっての!」


足元の土を蹴り上げる六実むつみ……聞こえてんだな。

気持ちはわかる、知りもしないから簡単に「全国」なんて言葉が出る。

中学時代県下屈指のボランチ、水落みずおちのぞみを中心としたチ―ムですら――県大会4位。


オレたちは誰一人、全国の風にも触れたことがない。

オレたちは何度六実むつみに悔し涙を流させたやら……


逆サイド。

視線を送るとのぞみと目があった。

肩をすくめ、呆れた顔してアップを始めた。

さすが長年の相棒。

さて、どうしようかなぁ……試合に出るもきっかけがない。

すると――


昇平しょうへいさんと水落みずおちさんは…フットボ―ラ―? センセ―! 昇平しょうへいさん試合に出ます‼」

サブリナは大きく手を振り、審判をしていた体育教師に告げた。


飛び跳ねるもんだから、至近距離でサブリナの胸が「たぷんたぷん」となるのを見てしまった。試合に出ないでこのまま「たぷんたぷん」したい……

――男女混合のクラス対抗のサッカ―どころではないのですが?

体育教師は少し考えて「OK」を出し試合を一時中断した。


オレはサブリナにのぞみも出るからと告げると、とことこと体育教師の元に駆けOKを取り付けた。

なかなかフットワ―クの軽い女子のようだ。


伊吹いぶき! 水落みずおち! ちゃんとスパイクとレガ―ス(すねあて)付けて!」

六実むつみが叫びながら、これまた体育教師の所に許可を取りに行った。

そして速攻で部室からオレとのぞみのスパイクとレガ―ス、厚手のソックスを持ってきた。

オレとのぞみが座っていつものように準備を始めた。

のぞみもオレと同じで半袖短パンに、そこにアオった声が飛ぶ。


は、偉いもんだな。みんな待ってんですけど?」

あまり関心のないオレでもコイツの事は知っていた。

1―Aの山本なにがし、知ってると言っておきながら下の名前まではさすがに知らん。


評判の悪い生徒だ。

県立江井ヶ島えいがしま高校では極めて珍しい類。

その取り巻きと女子数名――自称県立江井ヶ島えいがしま高校のトップカ―ストだそうだ。

サブリナ目当てで昨日からオレらのクラスに顔を出し、毒のある視線をオレに送っていた。

いっそ毒本に改名すればいい。


「退いて、邪魔。いい? ちゃんとアップして、授業だからって手抜いてケガしないこと」

六実むつみはウェイ系三人を押しのけ、オレたちのアップをサポ―トする。

サッカ―となると怖いもの知らずだ。

「何なんだ、このちび」

山本の取り巻きのひとり…河田だかなんだかが六実むつみにケチをつける。


「知らないの? この娘、男子サッカ―部の。大変よね、毎日

これまた取り巻きの典型的アバズレ系女子登場、はい! ボコる! 残念、六実むつみとは口喧嘩はする。

だけど幼馴染バカにされて黙ってられっかよ。


しかし、立ち上がろうとするオレの肩を六実むつみは押さえた。

だけどのぞみだって収まらない、そして六実むつみとは少し離れたのぞみには手が届かない――


『うっせ、ブス~~!』


思いもしない方向から声が飛んだ。

そこにはさっきまで孤軍奮闘してた右サイドバック、確かバスケ部。

たちばな明音あかねがいた。


「はぁ⁉ たちばなに関係なくねぇ?」

強がっているが、たちばな明音あかねの登場で明らかにアバズレ系女子、オレ称「アバまんじズレ子」は動揺した。

「関係ないよ? まぁ、


「はぁ⁉ ただの噂だし!」


「そうだよな? 単なる、。担任教諭が、だよな? なんで喰らったんだっけ? エンコウ? 後で中三の時のグル―プラインで聞いてみるか?」

「キモっ! シね! 一生童やってろ!」

オレ称「アバまんじズレ子」さんは、少しばかりお育ちが悪いようだ。


「なぁ、俺待つのダルいんだけど。どうせお前ら出ても『6―0』ひっくり返えんないって。それとも、?」

安い挑発だ。

ス―パ―で閉店間際のお惣菜の値引きよりも安い挑発。

残念ながらお買い得感ゼロな模様……


「なぁ、待ってやってんだから。なんか旨みくんない? そうだなぁ、俺ら勝ったら、いいだろ?」


「ふん、いつの時代よ。サブリナちゃんモノじゃないし!」

六実むつみは鼻で笑って言い返した。

「ふ――ん、なんだ。勝つ自信ないんだ、まぁこんなショボい県立で玉蹴りする連中には無理ってことね? はいはい、負け犬確定!」

ホント、絵に描いた屑発言。

全国のウェイ系の皆さんに謝ってほしい。

彼らはもっと心優しいウェイな人たちだからな?


「いいです! やってやりますとも! ここで引いたら男が廃りますとも!」

いや、サブリナさん。

あなた女子な?

何なの?

とばりといい、六実むつみにサブリナまで。

オレの周りは血の気の多い女子のたまり場なワケ?

いや、ショコラがいるじゃねえか。

オレはわずかな期待を胸にショコラの姿を探す。

すると――


伊吹いぶきクン、何ちんたらしてるの? ほら、一点取りに行くわよ!」

何故かショコラのハ―トに火がついていた。しかし、ショコラの行動はこれに留まらない。







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