第10話 助けるか否か

「倒し終わったなら、回復してくれ!ギアンが酷いケガなんだ!」

 ロウが助けを求めて叫ぶが、アーノルドは冷ややかな目線を送った。



「こんな魔物に手こずるなんて、何をしていたんだ。ずっと楽な戦闘しかしてなかったんじゃないか?」


 いくらアーノルドが抜けたからって、だいぶ日にちは経つ。

 仮にも高ランクのチームだし、冷静に対処すればもう少し何とかなっていたはずだ。


「こんな層まで入ったのは久しぶりだ。今までは怪我をして療養中のギアンの感覚が戻るまではと、浅い層で日銭を稼いでいた。動きも戻ってきているし、すぐに勘を取り戻せるとギアンの先導でここまで来たんだ」

 ノルンの言葉に呆れてしまう。


 実力をどこまで高く見積もっていたのか。



 シュイが甘い声でエルに話しかける。

「エルさん、ギアンの腕を治してください。あなたは力のある治癒師と聞きました、お金なら払います。だからお願い」

 シュイでは出血を止め、痛みを和らげるのでいっぱいだそうだ。


「治してもいいですが、その場合勝負の放棄と見なします。腕の治療費とアーノルドへの謝罪、悪評の払拭、そして付き纏いを辞めると宣言してください」

 容赦なく条件を突きつけると、シュイは体を震わせた。


「そんな…こんな状況なのに、ひどいわ」

 ついにはポロポロと泣き出す。

 焦るロウやノルンとは違い、エルは呆れていた。


「何を甘いことを…アーノルドを見下していたあなた方に、ひどいなんて言われたくないですね。アーノルドの抜けたあなた方のチームはとても弱い。現実を見て、条件を受け入れ、引き帰した方が良いですよ」


 ロウとノルンはエルの冷たく突き放す言葉に押し黙る。


「だからといって治してくれないなんて…困った時はお互い様でしょ?」

「治さないとは言ってません。条件をのめば治すと言っているのです。お互い様?僕があなた方に助けてもらう事など、一生ないと思いますが。そもそもギアンはどう思ってるのですか?」


 とうのギアンに聞いてみる。


「誰がアーノルドなんかに、頭を、下げるかよ。街に帰れば、金さえあれば、腕なんて治してもらえる。お前らなんかに、頼るつもりはない」

 苦痛の中で、ギアンは拒んだ。


「では駄目です。アーノルド、行きましょう」


 エルは躊躇わず先に進む。


 治癒師がそういうのなら仕方ないとアーノルドも一緒に行こうとするが、

「待って!」

 アーノルドの腕にシュイが縋りついた。


「何でもするから、お願い!ギアンを助けて!」

 そうは言いつつ何も譲りたくないシュイに、嫌悪感がわいてくる。

 すぐさま腕を振り払った。


「うちの治癒師が駄目っていうならば無理だ。それに何でもするなら、さっきの条件をのむようにギアンを説得してくれ」


 そうすればエルだって手を貸してくれる。


「そんなイジワル言わないでよ。それに完璧な状態で勝負したいでしょ?少し油断していたからこうなっただけで、本当のあたし達はもっと強いんだから」


「はっ?」


 アーノルドは耳を疑った。

 ここまでやられていて何を言ってるんだか。


「シュイ、もうやめよう。謝って、一から出直そう」

「ノエルの言うとおりだ。実力不足を認めて、きちんと修行し直すべきだ」


 ロウとノルンは実力不足を痛感してる。

 今の現状を鑑みるとそこにしか行き着かない。


「二人は黙って!」

 シュイが声を張り上げ、上目遣いでアーノルドを見つめた。

「仕切り直ししましょう。ギアンを治してもらえたら、あたしあなたに抱かれてもいいわ」

 アーノルドは顔を歪ませた。


「あたしの事を好きだったんでしょ?あたしも実はあなたのこと、気になっていたの。でもギアンがいるし、恋人にはなれないけど、一晩だけなら…」


 アーノルドはシュイから距離を取る。

 黙って聞いていたエルも怒りで睨みつけている。


「おぞましい。俺は一度たりともシュイを好きだとは思ったことがない」


 汚らわしいと、アーノルドは吐き捨てた。


「でも、あたしを助けようとしてくれたでしょ?結界を張って、庇ってくれて。それに女性とチームを組みたくないって話を聞いたから、あたしをずっと想ってくれていたんじゃないの?」


 都合のいい頭だな。

 庇ってくれたのはギアンと自分で言っていたくせに。


「君が女性だったから庇っただけで、好きではない、寧ろ嫌いだ。付き纏いも止めてほしい、君のせいで女性と組むのはもう懲り懲りだと思わされるくらいうんざりしてるんだ。そもそも俺には愛する女性がいる。だから男性限定の治癒師の募集をかけたんだ」


 アーノルドはロウとノルンを見た。


「もっとまともな奴とチームを組んだ方がいい。話が通じない相手といるのは、命を危険に晒すものだ」


 そんな助言を言い渡し、アーノルドはエルと共に奥へと向かった。


 もはやシュイの言葉にも振り向かない。


 ギアン達は帰還魔法で帰るだろうし、急いで街に行けば命までは落とさないはずだ。


 街に帰り、腕をくっつけてもらったところでしばらく戦闘は無理だろう。


 チームももしかしたら解散になるかもしれない。

 最後に見たロウとノルンの目が如実に語っていた。




「しかし意外だ。何だかんだ言って、エルはギアンを助けるのかと思った」

 あぁもあっさりと見捨てるとは。


「僕だって救いたいと思う命ならば、喜んで救いますよ」

 ギアンもシュイも救う価値がないとエルは思っただけだ。


「さぁ急ぎましょう。何としても魔石を手に入れなければ」

「そうだな」


 寄り道のせいでだいぶ時間をロスした。


 他の者に取られる前に急がねば。

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