第9話 ダンジョン

 アーノルド達は準備を整え、今日中の攻略を決意した。


 ギアン達や他のパーティは既にダンジョンに潜っているが、焦る事はない。


 深層部の魔物は生半可な強さと連携では倒せないからだ。




「エル、何か見ているのか?」

 道具棚を見ながらエルは何かを探しているようだった。


「少々、要る物がありまして」

 真剣な表情でいろいろと見て回っていた。




 準備を整えダンジョンに入ると、浅層の魔物はだいぶ少なくなっていた。


 一気に大量の冒険者が入ったためだろう、魔物に会うことなく進んでいける。


 中層の半分を過ぎた頃になると、魔物の数は増え、引き返す者も増えていた。




 奥に行けば行くほど道も入り組み、魔物も強くなる。

 実力がない者はここらで振るい落とされる。




「こういうのは胸が痛みますね…」



 魔物にやられ、命尽きた者も出始めた。

 エルは祈りを捧げる。



 帰還が叶わなかった者はやがて朽ち果て、ダンジョンや魔石の糧となる。


 ダンジョンには一攫千金の夢もあるが、こうした絶望もある。




 深層に行くまでの間に遭遇したオークの集団を屠りながら、二人は更にダンジョンの奥へと足を踏み入れていく。




 明確な境というものはないが、肌で感じる空気が変わった。

 深層部まで来たようだ。




 現れる魔物もどんどん強さが増している。


 力を合わせて倒しながら進んでいくと、奥の方で悲鳴が聞こえた。




 急いで駆けつけると、見えたのは傷ついたギアン達だ。


「助けて、アーノルド!」


 シュイが懸命に回復しているが、追いついていない。




「何故こんなところまで、明らかに実力とあってないだろう」

 皆ボロボロで、ギアンは左腕までも失っている。


 後衛のはずの射手と魔術師が前線に出ているところからして、壊滅は目前だろう。



 相手はデュラハン、高位の魔物だ。


 ただでさえ強い相手なのに、浄化の魔法なしでは辛いだろう。


 その役目を担うはずのシュイは、回復に回っている。


「エル、あれがデュラハンだ。お前の浄化魔法ならすぐに倒せるはずだ」

「前に言っていた魔物ですね」

 エルは興味津々な様子だった。




「ノルン、ロウ、退くんだ。俺が相手する」

「アーノルド?」

 二人は少し驚いたが、素直に退いてくれる。


「デュラハン…頭は、ないのですか?」

 首のない馬に乗った、首のない騎士の姿を見て、エルは疑問を口にする。


「兜の中に顔があるんだ」

 教えられて見ると左手に兜を抱えているのが見えた。

 あの中に頭があるのか。


 前に出たアーノルド目掛けてデュラハンが槍を繰り出すが、それを剣で受け止める。


「さすがに深層の魔物だけあるな、強い」



 アーノルドがデュラハンを止めてる内に、エルは手を翳す。


「首が繋がってなくても動けるなんて、不思議です」


 本来であれば瘴気にあてられた生者を癒す浄化の術を、デュラハンへ向かって放つ。


『おおおおおぉっ!』

 苦し気な呻き声を上げ、動きを止めた。

 その隙をついてアーノルドがデュラハンの槍を弾き飛ばす。


 武器を飛ばされたデュラハンだが、馬を操り、エルに向かって突っ込んできた。


「エル!」

 エルは冷静に防御壁を張り、突進を止める。


 全く壊れる気配のない防御壁に悔しそうだ

『おのれ…!』

 地の底から響くような怨嗟の声。


「話せるんですね」

 エルが防御壁を反転させ障壁とし、デュラハンを閉じ込めた。


 障壁に触れ、エルが尋ねる。

「何故あなたは死んでるはずなのに、そのように動き、話し、戦うことが出来るのですか?」

 透明な壁に阻まれたデュラハンは馬を操り逃げ出そうとするが。まったく破れない。


「魂があるから?その魂とは何なのですか?考えることが出来、苦しみも怒りも感じられる魂とはどんな物なのです?」

「エル?」


 死霊系の魔物に興味があるとは思っていたが、何を聞きたいのか。


「魂を得る方法はありますか?」


『そんなものは知らん。我は生まれ落ちた時からこの姿だ、人間とは違う』

 エルはため息をついた。


「魔物と人間は根本から異なる存在ですものね。人間には応用できなそうだ」


 そっと祈りの言葉を呟き、浄化の力でデュラハンを葬っていく。


「…魂について何か知りたいのか?」

 アーノルドの声掛けにエルは困ったように笑う。


「ええ、だいぶ。人生に関わるものなので」

 エルの意味深な言葉は怒声によって搔き消された。







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