第31話 頭の中が真っ白

「死体がない?」


「殺したって何?」


「ちょっと待って。一回落ち着こう。まず、いいね。大人たちが子供を殺してるってどういうこと?詳しく!」


「そのままの意味。凶器を使って子どもを殺してる。」


「あーっと……」


理解できていないであろう彼女に今の状況を説明した。


「わー辞めてー!助けてー!」

「マテー、ツカマエタ」

「血ブシャーうっ!あっ!うっ……」

「わかった?」


「……」


彼女は僕を見て引いた。引かれた。手も使って熱演したのに。


「わかったわかった。本当のことなのはわかった。でもなんで?原因はわかってるの?」


「わかってない。さっきまで正常だった人たちがいきなり子供たちを殺し始めたんだ。」


「前のが……」


「え?何か言いました?」


「いや、気にしないで。独り言だから。」


「あ、はい……」


「こっちの聞いていいですか。死体がないって」


「あぁうん。見たの?みんなが殺されてるところ。」


「いえ僕は。友達が見たみたいで」


「その友達はなんて?」


「その友達はその時、商店街内にある塾に居て、大人たちがガラスを割って入ってきたから逃げて、塾裏の坂を上ったときに沢山の大人が沢山の子供を殺しているのが見えたと」


彼女は少し考えてから口を開いた。


「それならどこかに血痕が残ってるはずだよね。でもそんなのなかったように思えたけど……」


「それに死体が回収されてるのもおかしい。」


「いや意外とおかしくないかも。死体を放置しておくと異臭を放つようになるし、虫も湧いたり寄ってきたりしちゃうから。」


「そっか。」


「そう、でも一番疑問なのは私が殺されないこと。私は貴方の……」


「俊祐です。しゅうって呼んでください。」


しゅうくんの話を聞くまでそんなことが起きてるなんて知らなかった。子供だったら全員殺されるの?高校生も?」


「高校生……どうだろ。そういえば小学生以下の子しか見てない気がする」


「そう、あなたはこの原因なんだと思う?」


「僕はこの町の呪いだと思ってる。」


「私もそう思ってる。呪いってさ物語とかだと町全体にかかることが多いんだけど、なぜか小学生未満が兎の対象になっちゃてるみたいね。」


「兎?」


「ほらよくこう表現しない?私だけかな。兎は肉食動物に食べられちゃうでしょ?だから第一印象で弱い方を兎、強い方を狐って呼んでるの。あ、弱いって言っても第三者から見たらの場合ね。本当の戦闘力じゃなくて今の戦況で判断してる。」


「……」


なんか僕ら子供が弱いといわれた気分。遠まわしとかじゃなく直で。


実際そう。


筋力も力量も知識の多さも違う相手に同じ武器で勝てるわけない。


「別気分を悪くさせてくて言ったんじゃないよ。そこだけは……」


「わかってます。自分らも頑張らないといけませんから。」


沈黙の数分が続いた。


そういえば僕鬼ごっこしてたんだった。


「もう行かなきゃ。みんな探してるかも。」


「鬼ごっこか。送ってくよ。おじいさまの家でしょ?どちらにせよ貴方の勝ちは決定だろうし。」


「うん」


僕は彼女と一緒に家を出て園城寺さんの家へと向かった。


――ガサッ


すぐそこの茂みから音がした。


「風も吹いてないし、動物もいないはずなんだけど。」


「虫?」


「確かに。虫かもね。」


僕はまだこの時は誰かにつけられているなんて気づかなかった。




しかし彼女は気づいていた。


「いるんでしょ。二人とも」


先ほど音がした茂みの中に向かって声をかけた。


しかし何の返事も帰ってこない。


それもそうだろう。虫しかいないのだから――


「こんにちは華聯様」


「わっ!」


僕は驚いて腰を抜かしてしまった。


「ちょっと大丈夫?なぜ隠れていたの?」


「特に理由はありません。あ、タッチ」


「それより華聯様、お茶でも入れましょう。少しお話したいことが。」


「さっき飲んできたからいいわ。ここで言って頂戴。言えるでしょ?」


「……どうする。」


「どうするもこうするもないわ。主人様に二人仲良く怒られるしか」


「何?どうしたの?」


華聯ちゃんは顔を歪めて二人の方を向いた。


僕はその様子を横で見ることしかできなかった。


「ここで話せないなら私の家で話して。この子も一緒に。」


「どうするよ」


「もう話すしかないでしょ。華聯様、ここでお話しさせていただきます。」


「主人様に絶対にこの子たちと華聯様を会わせるなという命令がございました。」


「はい!?もう、おじいさまったら!客人になんて失礼なことを!今からおじいさまの所に行きます!」


僕の腕は彼女に引っ張られ、足も速く動く。


「お待ちください華聯様!やっぱり!」


「蘭、もうやめよ。怒られよう」


「……」


彼女に連れられて少しすると園城寺さんの家の庭にはもうみんなが集まっていた。


「しゅう!」

「しゅうちゃん!」

「どこにいたんだよ!」


「この子の所に居たんだ。」


「誰?」


「華聯ちゃん。園城寺さん所の――」


「ちょっと!おじい様!」


彼女が彼の名前を大声で呼ぶと、彼は急いだ様子で縁側から顔を出した。


「華聯!何でここにおるんじゃ!」


「この方と私を合わせないようにしてたんですってね!なんで?」


「違うんじゃ!違う!」


「何が違うのよ!」


「……とりあえずみんな部屋の中に入ってくれ。話はそれからじゃ。」


僕たちはいつも過ごしている部屋に集められた。


「ここで話すんでしょ。何?なんで私を会わせなかったの?」


「……華聯にこの状況を知ってほしくなかったんじゃ。この状況を知ったらつらくなるじゃろうと思って。」


「違うでしょ。私に嫌われたくないからでしょ。ここに来るまでに聞いた。おじいさまが子供を殺したこと。」


「そうか……」


「どうして?殺すなら私を殺せばいい。鬱憤を他の子で晴らさないでよ。」


「止められないんじゃ!本能はだれにも止められん。自分でも止められないものをどうやって止めろというんじゃ」


「本能?今は誰も殺してないじゃない。でしょ?だったらみんなも」


「無理なんじゃ!今にも殺したいんじゃ……でも殺さないと約束してしまったからにはその約束を守らなくてはいかんのじゃ!」


「それがおじいさまのいいところっていうのはわかった。でもなんで私を会わせたくなかったの?本当の理由は?」


「さっきのも事実じゃよ。華聯にこの状況を知られたくなかった。悲しむと思ったから。それにこの子達に儀式のことについて知られたくなかった。」


「儀式って何ですか。やっぱりこの呪いは儀式と関係があるんですか」


「この異変について大体はつかんでいるが確信がなかったというところかな」


「まさしく。」



――全て話そう。儀式の事、この町の事、この呪いの事も。


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壊れた黒百合村 碧海 汐音 @aomision

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