エピローグ
数日、落ち込むシェルを気遣いながら落ち着いたところで向かい合って話すことができるようになった。
「マリアは、もう救えなかったのでしょうか」
君は首を振ると、自身の考えをシェルに伝える。
シェルが止めなければ自分は取り込まれて、生きてはいない。
そうなったらマリアは暴走して、もっと多くの人に手をかけていただろうと。
「そうですよね。分かってはいるのです。でも、納得ができずにずっと同じ事を考えていました。私が止めたせいでマリアは……」
シェルの言葉を遮って、君は伝える。
きっと、誰かに止めてもらいたかったんだと思う。
シェルに一切手は出していなかったし、理性を保っているのも限界だったはずだと。
「……そうですね。このマリアの形見の十字架、大切にします」
君は頷くと、かすかに足音が聞こえて来た。
ブラウズが帰ってきたのだ。
シェルが出迎えると、ブラウズと一緒に入って来た。
「ただいま。どうした、何かあったのか?」
君は、マリアと教会で起こった事を伝える。
「そうだったのか。マリアはアンジェリカと出会ってからずっと友人だったんだ。残念だよ。それが、マリアもゼノ絡みだったとはな。それと、目が赤くなっていた……か」
ブラウズは悲しそうな顔をしていた。
長年の付き合いだったマリアがいなくなれば、それは誰でも悲しくなる。
「マリアは教会に集まる人々の血を数十年かけて、摂取し続け身体を維持していた。そのせいで恐らく変異が起こり、血を必要とする
そう考えをブラウズは口すると、続けて話をする。
「ゼノは倒さなければいけなかったし、マリアはシェルを傷付けなかった。だから、俺は間違っていないと思っている。人としてシェルの友のまま死ねたんだ。救いはあった」
君もシェルもブラウズの言葉に頷いた。
「二人とも大変だったな。偉いぞ」
ブラウズは君とシェルの頭を撫でる。
少し強いくらいだけど、君はそれが心地が良かった。
「それでな、俺のほうも報告がある。今回の事は王と直接話をした。本来であれば、王はその座を退かなければいけないんだが、そこは二度と
」
そう口にするブラウズは晴れやかな表情だった。
「もう、兵士長でいる理由は無くなった。俺は魔物が出現する夜の治安の悪さを守るために俺は兵士長になったんだ。またアンジェリカと同じ被害を出さないためにな。それもゼノを倒したから無くなった。だから、辞めたんだ」
シェルは納得した表情だが、ブラウズに聞いた。
「そうしたらお父様はこれからどうするのですか?」
そうシェルに聞かれるとブラウズの表情が真剣になった。
「その話なんだが、聞いて欲しい。俺は今回の事で、自分の弱さを痛感した。結局、シェルも守りきれなかった。だから、俺は旅に出て一から鍛えなおしたい。今度は必ず守れるように」
ブラウズの強い気持ちが伝わったのだろう。
シェルは頷くと、ブラウズの手を取る。
「もうその顔は、考えが決まっている顏です。私は強いお父様が大好きです。だから、行ってらっしゃいませ」
「すまないシェル、ありがとう。それでアッシュにも頼みがあってな。俺のいない間、シェルの事を守っていて欲しいんだが頼めるか?」
シェルは不安そうに君を見た。
ブラウズも少し不安げな表情だ。
ブラウズとシェルに世話になった事の恩を君は忘れていない。
それに、シェルを一人にして何かあっても嫌だ。
そう思うと君は自然に頷いた。
「そうか、ありがとうアッシュ!」
君の返事を聞いて、ブラウズは喜びシェルも安心した顏をした。
しばらくして支度をすると、ブラウズは旅に出る。
手紙は送るから、心配はいらないと君とシェルに伝えて。
◇◇◇◇
ブラウズを見送り終わると、シェルは君を見て口を開く。
「また、少し落ち込んでしまったら……アッシュを頼ってもいいですか?」
君はシェルを見つめて頷いた。
シェルも笑顔で頷き返すと、元気に声を上げた。
「お父様が戻って来るまで、私とアッシュで頑張りましょう!」
外は強い日差しで町を照らしていて、いつもより暑いくらいだった。
空を見上げれば、初めてブラウズと会った時と同じ晴れた空の色が続いている。
「まずは、お買い物です。美味しいものを作りますね」
町は何事も無かったかのように、いつもと同じ時間が流れて行く。
市場に向かう二人の足音をその流れにのせて。
目覚めのアッシュ【完結】 うららぎ @uraragi_kaku
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