第56話 ああ、神よ

 シェルの安全を確保するために走り出す。

 だが、血液の塊から触手が飛び出て来て君は足を止めた。


「動いていいとは言っていないの。諦めてその身体をよこしなさい!」


 今度は触手ではなく、槍のように血液が飛んでくる。

 複数の飛来する血液を、君は身体を捻り最小限の動きで回避する。

 最後の一つは身を捻った遠心力で、腕を振るい拳に当てて弾き飛ばした。

 飛んだ先は天井部分を破壊すると、屋根には見事に大穴が空いた。


 天井の穴から日差しが入り、マリアを祝福するかのように照らしている。


「ほら、願いの種オリジン。見た通りよ。私こそが、神の力を使うに相応しいの」


 先程の飛来した血液の槍を弾き飛ばしたおかげで、君は拳は痛み腕は痺れていた。

 また同じ攻撃をされたら君は同じように回避できる自信がない。


「もう打つ手はないわよね? 願いの種オリジンは、頑張ったの。後は私に任せなさい」


 両手を広げ、勝ち誇ったかのようにマリアは笑った。

 しかし、その時間も長くは続かなかった。

 マリアに当たる日の光が肌を焼くように、少しずつボロボロと剥がれていく。


「肌が……確かに最近は弱いと思っていたけど、どうしてなの?」


 マリアは日が当たらない場所に移動しようとするが、何かに足を取られて動けない。

 それは干からびて倒れたいくつもの人の手がマリアを掴んでいたからだ。


「くっ、離せ! どうして抜け殻ガラクタが!」


 マリアの焼けていく姿を、君はただ見ているしかなかった。


「そうだ、血だ! 血が足りないの!」


 頭上に浮いている血液の塊を全てマリアは取り込むと、目が真っ赤になる。

 それでも、足は動かせないようで悪態をついた。


「離せええ!! どうして、焼かれるのおお!! こんな十字架ガラクタを私に渡して捨てたくせにいい!!」


 君はその十字架を見て、マリアにゼノの記憶にあった内容を伝える。

 

 ゼノは日々崩れていくマリアを見ているのが辛かったのだ。

 大切だからこそ自分の手を下すという選択が出来ずに捨てるしかなかった。


 十字架はアリアの物だった。ゼノにとって大切な物だ。

 その十字架を渡したのはきっとゼノなりの謝罪なのだと思う。

 魔結晶の力は十字架に込められている。

 それがあれば、きっと普通に暮らせるものだと思って。


「だったら、この力魔結晶を使えば!」


 マリアは十字架を握り締めるが、シェルが後ろから抱きしめた。


「もうやめてマリア。そうまでして、自分を証明しなくても、私がマリアの事を知ってるから。だって、マリアは私の親友だから! だからこれ以上……」


 天井から差すさす日の光に焼かれながら、マリアは十字架を握る力を緩めるとシェルに渡した。


「……はぁ……人を殺し過ぎた罰なのかしら。ふざけるな……最後がこんな……」


 マリアはシェルを抱きしめると、天を仰いだ。


「ああ、神よ……次があるのなら……」


 そうマリアは口にすると、身体は跡形もなく灰となって消えてしまった。

 そしてシェルのすすり泣く声だけが、その場に残り続けた。

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