第55話 存在の証明
動けかずに現状を受け止めるしかなかった。
マリアが片手を上げると拍手が止まる。
「今ので動かなかったお利口さんな
そうマリアが片手を上げると信者がシェルを連れてきた。
シェルは目を閉じたまま、意識を取り戻していない。
君はシェルが無事だった事に安堵する。
マリアがシェルを受け取ると、口を開いた。
「それでは、答え合わせなの。この十字架見覚えないかしら?」
君には見覚えがあった十字架だった。
どこかで見たはずだったが、まだ思い出せなかった。
「じーっと十字架を見ていたのは知ってるの。気になるはずなの。だって、私が
マリアに助けられたという事実に、君は痛みと共に記憶が少し蘇る。
確かに、マリアに助けられて逃げる事ができた。
衣類を受け取り、町から出ようとした所で君は記憶が無くなったのだ。
「どうしてゼノを憎んでいるのか気になる?」
君は素直に頷いて答える。
その行動にマリアは満足して答える。
「じゃあ、教えて上げるの。だって、ゼノは私を生み出した親だからよ!」
その怒りの叫びから、一転して落ち着いた口調でマリアは語りだす。
◇◇◇◇
私が目覚めた時に聞いた言葉は『アリア』だった。
生みの親で目の前の男はゼノという名だった。
作られたという意識はあった。
そして、別の透明な棺に入っているこの子こそがアリアだというのも知っていた。
私の中の記憶はアリアという子から引き継がれている。
だから、私は『アリア』としてゼノに認められるように振舞った。
最初は私の事を『アリア』として、娘として扱ってくれていたゼノ。
それもすぐに終わりを告げる。
私の皮膚が崩れ始めてしまったからだ。
呼び名が番号に変わり、十字架を投げつけられた。
「それを持って、どこかへ行け」
私はそれを握り締めて、町を出る。
あてもなく歩いていると教会に辿り着いた。
その教会では神父とシスターが私に手当をしてくれた。
だけど、それだけでは崩れる皮膚と身体は抑えきれない。
私は内側から湧き上がる衝動に従い、二人を喰らった。
◇◇◇◇
「不思議と人間の血は私に合っていたの。皮膚も身体も繋ぎ止める事ができたわ。こんな状態の私を捨てたゼノを許せない。初めから私は神の声なんて聞こえないの。だから、神託と言ってあなたたちをゼノの元へ導いてあげたの。ゼノは
マリアはシェルを祭壇に寝かせる。
君を羨むように見つめると、口を開いた。
「
立っていた人たちが次々と倒れていく。
君は警戒しながらも、マリアの話を聞くしかなかった。
「私はその力でアリアを蘇生させて、私がアリアを喰らってやるの。そうすることで、私は『アリア』になれるの。だってゼノは私を『アリア』と呼び、私という存在を認めなかった」
最後の一人が君の方を向いた。
すると、少しずつしおれて干からびた体になる。
「認められなかった私自身をマリアという
マリアは両手を上げると、長椅子に座った人たちから血液が吸い上げられて干からびた体になってしまった。
マリアの頭上に集まった血液の巨大な塊を目の前にして、君は……。
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