第49話 願いの種

 ゼノはアンジェリカに逃げられた事で、素体に対して一定期間の魔石を投与しなければ記憶を失う処置を施した。


 ゼノの研究が進むにつれて、アリアの魂を人工生命体ホムンクルスの器に移す事ができなかった場合の計画を実行する。

 それは研究開始当初から集め続けていた魔石を超高密度に抽出した魔結晶を作り、アリアに投与する事で化け物状態を相殺できると思ったのだ。


 だが、予想に反して魔結晶は人の姿を形成していた。

 その姿は何よりも愛おしく、ゼノの心の隙間を埋めてくれるように感じた。

 そしてアリアがよく口にしていた言葉を思い出す。

 『信じ続けていれば神は必ず応えてくれる』と言っていた言葉を。


 ゼノはアリアの言葉を信じている。

 だから人体を形成したこの魔結晶に最後の望みをかけて少しずつ育てる事に決めた。


 その名を願いの種オリジンとして。



 ◇◇◇◇



 ゼノがアリアの入っている透明な棺を叩くと、続けざまに言った。


「私の可愛い願いの種オリジンまで逃げられた。おかげでドラゴンまで投入したというのに見つからない。まさか、貴様らが倒したのか?」


 ゼノが睨みながらブラウズを見る。


「だとしたらどうした? 願いの種オリジンが何だか知らないが、そんなもののために町に被害を与えたお前を許す訳にはいかない!」

「あなたが放った魔物はお父様と皆で全て倒しました。大人しく捕まる事をお勧めします」


 ブラウズが強い口調もゼノは気にした風もなく、シェルをじっと見ていた。


「そこのお前、99032に似ているではないか。どういう事だ?」


 シェルがブラウズに隠れるようにしてゼノの視線から逃れた。

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