第48話 A - R - I - A

 かつての白衣の男が語っていた記憶が蘇った。



 ◇◇◇◇



 娘のアリアは教会のシスターとして働いていた。

 ゼノはアリアの手伝いとして神父の真似事をし、訪れる人々の懺悔を聞き入れ罪の重さから心を救っていた。

 ある日、雨上がりの川に子供が落ちて溺れている所をアリアが助けるために川に飛び込んだ。子供は助かったが、不運にもアリアは流木に全身を強打し溺れて死んでしまった。ゼノは助かった子供を見て呪ったが、何にもならなかった。

 妻を失い、大切な娘をも失ったゼノは世を恨んだ。


 アリアは死んだにも関わらず、生きているような美しさだった。

 ゼノはアリアの遺体の腐敗させないために、魔石を埋め込み美しさを維持させる事に成功する。だが、それは腐敗の進行が遅れるだけで根本の解決にならない事をゼノは知っていた。


 大量の魔石を埋め込まれたアリアはやがて人工生命体ホムンクルスへと変貌した。死んだはずのアリスは魔石を求めて動き出した。

 ゼノはアリアが動いた事に喜ぶが、意思なきアリアは魔石を持つ魔物を求めて徘徊する。

 アリアは魔物を喰らい、手に負えないほど強くなってしまった。


 魔物すら喰らい尽くす化け物のようなアリアだったが、ゼノの言う事だけは辛うじて聞いてくれた。

 そんな時、ゼノが住む地域が国同士の戦争の場所となり巻き込まれる事となる。

 進行してくる相手側国の兵士をゼノはアリアを使う事で圧倒した。

 程なくしてゼノのいる国は戦争に勝利することになる。


 勝利に大きく貢献したゼノは戦果を挙げた褒美として、国王から人工生命体ホムンクルスを研究するための場所と資金を提供してもらう事を要求する。

 要求が通り、ゼノは城の地下深くで人工生命体ホムンクルスの研究を行った。


 人工生命体ホムンクルスとは人の手により製造された生命体である。

 人の手による命の製造は禁忌とされてはいたが、国王はそれを軍事の補強も兼ねて秘密裏に製造を許可したのである。


 幸いな事に研究の素材は尽きる事はなかった。

 城外にいる魔物と地下牢の犯罪者たちを素材として研究を進めていく。

 城の地下からは毎晩呪いのような悲鳴が上がっていたが、誰もそれを耳にすることはなかった。


 研究は一番安易かつ大量に捕獲できる小鬼ゴブリンから魔石を抽出する術を発見することで更に進んでいく。魔石を抽出して抜け殻の器となった魔物は、ごく少量の魔石を再投与することで色が変貌し、手足として支配することができるようになった。

 しかし、それは魔物のみ可能で、人では魔石を投与しても身体が耐えられず死に至る。


 死は絶対であり、人は人を蘇生させる事はができない。

 それは過去に人間が犯した過ちにより、死者の蘇生を神が禁じたからだ。


 だからゼノは新たに人体の器を作り、化け物となった人工生命体アリアを移す計画を立てたのだ。新たな人体の器であれば、アリアが普通の娘として生きる事が出来ると信じて。


 ゼノは人工生命体ホムンクルスの器を作るが、そこにアリアの魂が宿る事は無かった。人型の失敗作は国の兵士として送り出し、完成度が高い人工生命体ホムンクルスの器は過去に2体作られた・・・・・・

 1体はアリアそっくりの素体だったが、会話を重ねる内に『偽物』だと分かり『捨てた』。

 1体は勝手に脱出された上に、見つかる事が無かった。

 その脱出された素体はブラウズに名付けられたアンジェリカだった。

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