第46話 また、一緒にゲームしてくれますか?


 俺たちは――日常を取り戻した――かのように思えた。

 しかし、『地球が消滅する』という最大の危機が去ったワケではない。


 現状では『父たちの研究が結果を出す』のを待つのが正解だろう。

 だが、それで間に合う保証はない。


 次に宇宙人からの技術提供だが、これは政府に任せるしかないだろう。

 未だに各国の足並みがそろう様子はなかった。


 『国連地球難民救済機構』なる組織を立ち上げたようだが、詐欺さぎグループの名前にしか聞こえない。また日本から税金が投入されるのだろう。


 ネットでは――上級国民が助かるための仕組みだ――と揶揄やゆされていた。

 やはり、この国は終わっている。


 結論から――ヴィオに聞くのが一番だろう――という所に落ち着く。

 朝食を済ませ、部屋に戻るとゲームにログインする。


 記憶を更新するのが目的だ。

 変わったことのもう一つがこれである。


 なにが起こるか分からないため、頻繁こまめに記憶をインストールすることにしたのだ。

 ヘッドギアを外すと、そこにはヴィオが立っていた。


 相変わらずの薄い紅薔薇色ピンクローズの綺麗な髪をしている。

 澄んだ水色の瞳は宝石のようだ。


 宇宙では嫌われているらしいが、俺には関係のない話である。


「丁度よかった、ヴィオ……」


 俺の言葉に彼女は微笑ほほえむと、


「分かっているわ♪」


 と楽しそうに答える。彼女の話によると『ドラゴン』を倒し、手に入れた指輪は宇宙人の技術によって作られたモノだった。


 やはり、『漆黒の球体スフィア』で見た装置と同じモノらしい。

 地球人を利用し――危機に対処できるのかを試したのだ――と言う。


 まあ、そんなことだろうと思っていた。


「怒ってないの?」


 不思議そうに首をかしげるヴィオに対し、


「彼女の我儘わがままに振り回されるのは、彼氏の特権だ」


 と答えておく。学園の皆も楽しんでいたので、問題ないだろう。

 むしろ、俺が恨まれることで彼女が助かるのなら、その方がいい。


 確かに一つ間違えば、日本はデータ化されていた。

 しかし、それは一年後の地球も同じことだ。


 遅いか早いかでしかない。


「問題なのは、俺が介入した所為せいで、消滅の危機になってしまったことだ」


 データ化を防ぐはずが、死者が出る大災害になるところだった。

 あの『ドラゴン』が現れた原因の一端が、俺の能力であったことにゾッとする。


 早く、使いこなせるようにならなければいけない。


「私は地球を助けるために来ました……」


 と言えれば良かったのに――とヴィオ。なぜか肩を落とす。

 どうやら、彼女の役目は試験官で、地球人を試すために来たようだ。


 同時に試験官はヴィオだけではなく、複数いるのだろう。

 宇宙人ごとに、考え方も様々なようだ。


 今回の事件から、彼女は協力的な宇宙人であることが分かった。

 人類のために動いてくれた――と考えるべきである。


 少なくとも、ヴィオが俺を信じてくれたのは確かだろう。

 いとおしくなり、彼女を抱きめると、


「地球を助けるには、最低でも七人の〈ハイペリオン〉を探す必要があるの……」


 とヴィオは語る。同時に、俺の背中へ彼女は腕を回した。

 本当のことが言えなくて、辛かったのはヴィオの方だろう。


「俺を含めて、後六人か……」


 次の目的が決まった。俺と同じ〈ハイペリオン〉の地球人を探し出す。そうすれば、ヴィオの所属する組織が『地球人には助ける価値がある』と判断するようだ。


 いや、一緒に外宇宙へと『旅立つ資格がある』と判断されるのかもしれない。

 宇宙人かれらもまた、急いでいる可能性がある。


 地球だけではなく――この宇宙の危機――と考えた方がいいようだ。

 ヴィオたちには、地球を危機におとしいれてでも、見つけ出す必要があるのだろう。


 一人では、決して辿たどり着けない場所――


「また、一緒にゲームしてくれますか?」


 とヴィオ。ハイペリオンの可能性がある人間。

 それはLPSロストプラネット・サーガのランカーたちだろう。


 あの仮想現実ゲームで『超常の能力を発揮している存在』を調査する必要がある。

 クランマスターたちにも力を借りる必要がありそうだ。


「ヴィオは逃げなくても、いいのか?」


 そんな詰まらない俺の質問に、


「私は君のお嫁さんだよ? 最後まで一緒がいいよ……」


 どうやら、宇宙から来た美少女吸血鬼は、地球が滅ぶその日まで、我が家でゲームをして過ごすらしい。


 思い付きで始めた『たった一つのゲーム』。

 だが、このゲームが学園のハゲを、そして世界のハゲを――


 更には全宇宙のハゲを巻き込んだ戦いに発展するなんて、この時はまだ、誰も予想だにしていなかった。

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