第六章 逆襲のハゲ

第37話 挨拶できまーした☆


 ――現実世界〈朝比奈あさひな宅〉――

 【居間リビング


「いやぁ~、この身体ボディ、中々いいっスね~♪」


 とミカン。モフモフなオレンジ猫が陽気に踊る。

 自称、有能なサポートAIらしい。


 俺の知っているAIとは随分ずいぶんと違う。

 両親の説明によると『漆黒の球体スフィア』の中を探索するための存在だ。


 そのため、妹のミントと合わせ、対の存在として作られている。

 ただ、今となっては不要になったため、サポート要員として両親にたくされた。


 機械の身体ボディはヴィオが用意してくれたモノだ。

 余程、ゲームで猫が気に入ったらしい。


 二匹一緒だと、茜と葵に対し、なにかと張り合うようだ。

 双子という特徴がかぶるからだろうか?


 ゲーム内でも面倒を起こしていた。

 力関係パワーバランスを考えた結果、ミントの方を翠に預かってもらうことにする。


 ミントの身体ボディは淡い緑色をしている。

 猫の皮を被った機械マシンなので、なんでもありだ。


「そこまで言うのなら仕方がないな……」


 あずキャットくにゃん♪――と翠。なにやら滅茶苦茶めちゃくちゃ、嬉しそうだ。


「良かったですね、お嬢様♡」


 と従者兼取巻のメイド少女が微笑ほほえむ。その一方で――また面倒事が増えた――といった様子で、男装執事が頭を押さえている。


 このミカンとミントがLPSロストプラネット・サーガの世界へ入ったのは俺の指示だ。

 おじさんに頼み、ゲームのNPCを貸してもらった。


 時間を短縮するために、仮想現実ゲーム内のルビーやサファイヤ、ヒスイに現実世界リアルで起きている状況の説明をしてもらうことが目的だ。


 どうにも、現実世界リアルで説明すると『必要以上に時間が掛かる』様子しか、想像できなかった。


 結果、説明の手間ははぶけ、仮想現実ゲームから情報複製体データクローンをインストールするだけで『茜たちは状況を把握することができた』というワケだ。


「いやぁ~、お役に立ててなによりっス」


 とミカン。できることなら、もう少し真面な登場をして欲しかったのだが、過ぎたことを言っても仕方がない。


 語尾に『にゃん』を付ける猫設定は、どうでもいいようだ。


「で、どうするの? 兄さん……」


 状況を把握した茜が不安そうな表情で俺を見詰めた。

 はっきり言って、状況は最悪に近い。


 簡潔に言うと『日本消滅の危機』だった。

 『漆黒の球体スフィア』の中で俺が両親から聞いた話。


 それは――所属不明の潜水艦から攻撃を受けた――というモノだ。宇宙人からもたらされた技術情報だが、それを上手く活用できない国があったのだろう。


 自分たちが助からないのであれば『他の連中も道連れにすればいい』と考えたようだ。死を覚悟したというより、自暴自棄による突貫に近かったらしい。


 父さんたちは研究成果が失われることを恐れ、実験途中だった装置を起動した。

 そして『漆黒の球体スフィア』が発生する。


 俺とヴィオが内部に入り、認識したことで研究所が再び稼働したようだ。

 ハイペリオンではないため、両親たちは完全な姿ではなかった。


 それでも、研究は続けるそうだ。

 俺とヴィオは今までの経緯を報告しながら、研究所の人員と機能を復活させる。


「ちゃーんと、教えてもらった通り『二日酔いの嫁ですが、よろしくお願いしまーす♪』と挨拶できまーした☆」


 ムフンッ!――と胸を張るヴィオ。

 偉い偉いと茜と葵がめる。


 間違った知識を教えないで欲しい。


「それで、ご両親たちは残ることを選択したのだな……」


 翠だけは俺の両親に会ったことがないので、残念そうにしている。


「ああ、現状のままの方が『外を気にせずに実験できる』と言っていた」


 俺は苦笑する。あの『漆黒の球体スフィア』の内部では、例え爆発が起ころうが、外には影響がないらしい。


 これで無茶な研究もできるぞ!――と父さんは喜んでいた。

 ええ、成功すれば、巨大ロボの合体変形も思いのままね♪――とは母さんだ。


 なぜ、人類を救う研究が『巨大ロボを作る話』になっているのかは分からないが、人類救済は俺の両親たちの成果にかかっている。


 無事に成功することを祈るばかりだ。


「玄夢がパイロットにされそうな気もするのだが……」


 とは翠。その手の中にはミントが気持ち良さそうに抱かれている。

 ミカンと違い、随分ずいぶんと大人しい性格のようだ。


「フフンッ! あっしたちも『使い魔ファミリア』として頑張るっス!」


 と自分の胸を叩くミカン。話がれてしまうので、黙っていて欲しい。

 正直、笑えない冗談だ。


 少なくとも、両親たちを助けるのは、研究の成果が出てからになる。

 ただ、それよりも現状として問題なのが――


「今度は所属不明の戦艦が日本の近海を彷徨さまよっていることだ……」


 俺はつぶやく。どうにも、実験に失敗した国があるようだ。『漆黒の球体スフィア』が発生すれば、それで済んだのだが、不安定な状態で海の上をただよっているらしい。


 そのため、レーダーにも引っ掛からなかったようだ。波や風の影響も受けないらしい。『漆黒の球体スフィア』内部だから観測できたと言い換えるべきだろうか?


 えて、どこかの国が日本を攻撃しているのだろう。

 だが、その判断は大人たちに任せた方が良さそうだ。


 現状――触れる物全てをデータ化し、吸い込んでしまう爆弾のような船が海の上をただよっている――という状況だ。


 それが日本に向かっている。

 どう考えても、タイミング的に俺たちが『漆黒の球体スフィア』に接触した所為せいだろう。


 このままでは、日本列島が消滅する恐れがある。

 また、開発途中の巨大移民船ギガフロートが巻き込まれる可能性もあった。


 ヴィオが助けてくれる想定で――どこかの大国が様子を見るために手を回した――とも言い切れない。


 宇宙人がどこまで信用できるのか、試金石にされた可能性もある。


「手を貸すのは構わないのでーすが……」


 とヴィオ。地球人がなにもせず、彼女の手を借りた――という事実を作るのは不味まずい。地球人が宇宙人かれらに認められなければいけないのだ。


「一つ作戦がある」


 ヴィオと相談した結果、ある結論に達する。


「皆、協力してれ!」


 俺の言葉に、


勿論もちろんよ、兄さん!」

「兄者の頼みなら、仕方がない!」

微力びりょくならがら、助太刀すけだちする!」


 茜たちはうなずいてくれたのだった。

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