第38話 ハゲが人類を救うのでーす☆


 ――現実世界〈雪星ゆきほし学園〉――

 【校庭グラウンド(朝)】


 まあ、予想はしていたのだが、


「物の見事に集まったな……」


 そういう学園なのは知っていたけれど――俺は思わずつぶやく。

 いつ日本が消滅しても、おかしくはない状況だ。


 しかし、国民たちは政府の発表を聞いても、


「おい、明日、日本が滅ぶんだってよ」「ふーん」


 そんな感じだった。

 ここが日本でなければ、恐らくパニックなり、暴動が起きていただろう。


 今、俺の目の前に立っている学園の生徒たち。

 彼らの瞳は輝いている。


 既に政府からは避難勧告が出ていたが、逃げ出す者はいなかったようだ。

 それよりも、こちらを優先してくれたらしい。


「オレたちにはまだ、頼れるハゲがいる」


 こんなに嬉しいことはない――とアフロの山田。


(単に皆、こういうイベント好きだからな……)


 と俺は心の中に浮かんだ台詞セリフを仕舞った。

 思わず溜息をきそうになる状況だ。


 しかし、この状況を楽しむことのできる学園の生徒たちだからこそ、日本を救う英雄ヒーローになれるのだ。


 俺は全校生徒たちの前に立つ。そして、


「面倒な挨拶あいさつはぶく……」


 今、こうしている間にも日本に危機が迫っている!――俺は慣れない演説をする。


(まあ、ゲームのクラン戦なんかでは、やらされていたしな……)


 ランカーというのも楽ではない。俺の後ろには学園四天王とハゲの田中、アフロの山田、ぽっちゃり女子の鈴木が立っている。


 皆、この学園の実力者だ。戦いを経て、分かり合えた仲間たち……だったら良かったのだが、茜たちに頼んで呼んでもらった。


 仮想世界ゲームで人は集められても、現実世界リアルでは中々に難しい。


「連絡した通りだ! この日本を救うため、皆の力が必要だ!」


 情報複製体データクローンを俺に貸してくれ!――そう言って、俺は頭を下げる。

 すると田中は、そんな俺からマイクを奪い取り、


えて言おう、ハゲであると‼」


 と高らかに叫ぶ。


「エコだよ、これは!」


 山田も加わった。ただ『後ろに立ってくれていればいい』と頼んだのだが、余計なことを始めてくれたモノだ。


えよ毛根! 悲しみを怒りに変えて、えよ! 毛根よ!」


 田中は語る。度重なる増税。開き続ける格差。広がる環境問題。

 そのストレスにより、我々はハゲたのだ――と。


「なぜだ⁉」


 坊主だからさ――いや、違った。

 到頭とうとう、自分たちがハゲている理由を政治の所為せいにし始めたようだ。


「生徒諸君こそ、選ばれたハゲであることを忘れないで欲しいのだ」


 聞き入るハゲた生徒たち。彼らは涙する。


「優良種である我らハゲこそ、人類を救い得るのである!」


(これはいったい、なんの時間だろう……)


 俺たち許された時間は限られている。一分たりとも無駄にはできない。

 ただ、田中の求心力は異常だ。本当に彼は、帰宅部なのだろうか?


 ハゲの共振?

 人の意志が集中しすぎて、集団催眠オーバーロードしているのか⁉


「なのに、恐怖は感じない……」「むしろ温かくて、安心を感じるわ!」


 と山田と鈴木。どうやら、彼らもハゲに魂を縛られている人々のようだ。


「ハゲをなげくだけでは状況は変わらない!」


 ハゲを呪ってはいけない!――と田中。一拍置いて、


「これ以上、オレたちのようなハゲを増やしていけない……」


 ハゲの連鎖をここで断ち切るのだ!――田中は叫ぶ。


「このまま、大人たちに任せていたら、人類はハゲしかいなくなる」


 我々、学生が立ち上がる時が来た!――田中はこぶしを空へと突き上げる。

 き起こる歓声。止まないハゲコール。


「頭皮が、持たん時が来ているのだ!」


 田中の演説は最高潮を迎える。

 盛大な拍手の音が彼を包み込む。


「明日の未来のために、生徒諸君は立たねばならんのである!」


 そう言って、田中は俺にマイクを戻した。

 どうやら、俺もこのノリに付き合わなくてはいけないようだ。


「すまんが、皆の情報複製体データクローンをくれ! 日本が消滅するか、ならないかなんだ!」


 上手くできただろうか? 俺の言葉に、


「やってみる価値はありますぜ!」

「ハゲに絶望もしちゃいない!」


 ハゲじゃない生徒たちも、次々に声を上げる。


すごいわ、クロム!」


 感動したのか、ヴィオは一瞬、素の口調に戻る。そして、


「ハゲが人類を救うのでーす☆」


 と喜んだ。ハゲのポテンシャルを最大限まで引き出す田中。

 彼もまた、俺とは違う素質を持つ存在なのかもしれない。


「兄さん、準備はできているけど……」


 とは茜。流石さすがに全校生徒の情報複合体データクローンを作成するのは時間が掛かる。


 予めLPSロストプラネット・サーガにログインしてもらい『コアとなる場所』へと移動してもらう。

 それが、ヴィオの乗ってきたロボットだ。


 ガレージに置きっ放しで忘れていたが、青寄りの紫であるヴァイオレットカラーの人型兵器だ。


 既に俺の情報複合体データクローンをメインパイロットとして、ヴィオの情報複合体データクローンと共に乗り込んでいる。


 原理としては『漆黒の球体スフィア』を作り出した技術と同じらしい。

 ただ、こちらの方が精密で、リスクも少ないそうだ。


 人の想いを力に変えて、具現化できる装置――つまり、ハイペリオンでなければ、能力を引き出すことができず、最低でも『二人必要』ということになる。


「でーすが、暴走するアレを二人のエネルギーだけで止めるのは不可能でーす☆」


 とヴィオ。学園の皆には悪いが、使い捨てのエネルギーになってもらう。

 しかし、それだけでは不安要素が残る。


「少なくとも『漆黒の球体スフィア』の発現には、人の想いの力必要でーす……」


 彼女の言葉を素直に受け取ると『漆黒の球体スフィア』の発現には『人類を救う研究成果を守る』という強い意志が働いていたことになる。


 だから『漆黒の球体スフィア』は――誰も傷つけることができなかった――のだろう。

 今回の場合はそれとは異なり、明確に日本を破壊しようとしている。


 そんな悪意に負けない『強い意志を持った人間の力』が必要だった。


「一緒に戦ってくれ」


 そんな俺の言葉に、


『任せておけ、そのために『学園四天王オレ・わたし』がいる!』


 先輩たちがポーズを取る。

 彼らと一緒に、日本の危機を救わなければならない。

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