第36話 そんな物、いつの間に用意したの?


 『幽霊の矢』ゴースト・アロー――それは召喚した幽霊ゴースト媒介ばいかいに矢へと変身させたモノだ。

 『動く鎧』や『飛翔する剣』の姿をしたモンスターがいる。


 それの『弓矢型だ』と考えてもらうのがいいのだろう。

 ある程度の命令を下すことも可能だ。


 当然、意思を持ち『透過』『透明化』『追尾』『貫通』の能力がある。

 幽霊ゴーストなのだから、当然といえば当然だ。


 俺はそれを使い『MP攻撃』を行っていた。

 回避不可能な見えない矢――と言えば聞こえはいい。


 だが実際は、そこまで使い勝手のいいモノではなかった。聖職者の使う神聖魔法に弱く、一定時間で消滅しょうめつしてしまう――という欠点がある。


 だが、消えるまでは何度なんども相手を攻撃してくれた。

 攻撃された相手は気付かない内に『MPが無くなっている』という寸法だ。


 更に、俺は状態異常バッドステータスを受けている相手に対して『与えるダメージが増加する』という自動パッシブスキルを持っていた。


 相手を毒や暗闇、恐怖状態にした後で、この矢で攻撃すると面白いように、相手のMPが削ることができる。


「そんな物、いつの間に用意したの?」


 とアメジスト。当然の疑問だろう。

 まず、俺は状態異常バッドステータス反転のスキルを持っていることを説明する。


 毒で回復、即死で蘇生、麻痺で強化など、ふざけた戦い方が可能だった。

 ただし、その状態では仲間からの回復や支援は無効となる。


 単独で戦う時のみ、有効な戦闘方法だ。

 普通のプレイヤーは、こんなスキルを修得しないだろう。


 基本は死霊アンデッドを召喚し、漆黒の霧や毒の沼を生成する。

 ボスキャラの戦い方だ――といえば、格好もつくかもしれない。


 だが、実際には相手をめることが前提となる。つまり、相手が嫌がることを『いかに効率よく行うのか』が俺の戦い方というワケだ。


 俺は、この呪われた弓を使い続ける限り、能力が向上する。

 常にHPが回復し、蘇生が掛かる仕組みになっていた。


 物理に対する防御力が、ほぼ皆無に近いので回復し続ける必要がある。

 そのため、こんなボスキャラのような仕様になってしまった。


「俺は即死攻撃を受けることで反撃カウンタースキルとして、幽霊ゴーストを召喚できる」


 そう言って、実際に即死魔法を使い、幽霊ゴーストを召喚した。

 召喚される数はランダムで、勝手にMPも消費される。


 また、これは目眩めくらましにもなり、相手から逃げる際にも有効だ。

 今は明るいので問題ないが、半透明なため、暗闇の中では見えにくくなる。


 アメジストは死霊術師ネクロマンサーのため、霊視のスキルを強化すれば、見えるようになるはずだ。幽霊ゴーストには物理攻撃は効かない。だが、同時に物理攻撃ができない。


 物理攻撃をするためには、物質を操る必要がある。


「その特性を利用したのが『幽霊の矢』ゴースト・アローだ」


 暗殺者アサシンは、武器に【暗器】と呼ばれる属性を追加できる。

 このスキルにより『武器を見付からずに持ち運ぶことができる』というモノだ。


 結果、俺が辿たどり着いたのが『物理攻撃力のない見えない矢』だった。


おどろいているのは、そこじゃないんだけれどね☆」


 とアメジスト。つい得意気に話してしまったが、違ったらしい。

 俺の悪いクセだ。


 ルビーたちはあきらめているのか――出来の悪い子供を見るような――悟った表情をしている。もしくは、幼い子供の話に付き合う『母親の目』のようだ。


 一方でアメジストは、


「船の時も思っていたけれど――ゲームといっても……」


 普通はあんなに多くのモンスターを的確に操作できないよ☆――と教えてくれる。


(そういうモノなのだろうか?)


「まあ、ランカーの人って――皆、化け物だし……」


 とはルビー。


「同意! 現実世界リアルでも、兄者は別格」


 サファイアもうなずく。


「正体は『ゲームの隠しボスなのではないか?』とうわさされているな」


 ヒスイが苦笑した。初耳である。

 どうやら、俺の知らないところでうわさが一人歩きしているようだ。


「少しだけ――他人とは違うプレイをしているだけ――なんだけどな……」


 俺は後頭部をきつつ、


「それより『火竜ファイアドレイクの長』を倒してしまったワケだが……」


 今はアメジストの物語をメインに進んでいる。

 そのため、今後の彼女の冒険に影響が出るだろう。


 俺は謝ったが、アメジストは笑ってゆるしてくれた。


かまわないわ☆ それにクロムの実力は想像以上だった♡」


 などと喜ぶ。本来なら、これで一件落着なのだが、俺は〈ブラックミスト〉を使用した。ルビーたちはれているため、即座に臨戦態勢に入る。


 サファイアとアメジストをヒスイが守る陣形だ。


「ま、待ってくださいっス!」「ニャ」

「て、敵ではねぇっス!」「ニャ」


 相手は二人だろうか? 変な話し方をしている。

 俺はルビーとアイコンタクトを取ると、相手の前へと出た。


 ルビーたちは、そのまま警戒している。

 他に仲間が隠れていて、背後を取られる可能性がないワケではない。


 俺が黒い霧から姿を現すと、そこには見覚えのある人物が二人立っていた。


(ギルドの受付嬢?)


 獣人族〈猫〉の少女たちだ。

 服装は『冒険者ギルドの受付嬢』の格好をしている。


 一瞬、イベントかとも思ったが、変装している可能性もゼロではない。

 俺は杖を向け、警戒しながら、


なんの用だ?」


 と問う。


「あっしは姉のミカンっス」

「姉さん……さっきから『ニャ』を忘れています……ニャ」

「そ、そうだったっス!……にゃん☆」


 そう言って、ミカンと名乗った少女はネコの手を作り、アイドルのような可愛いポーズをする。実際、猫耳獣人の少女なのでさまになっていた。


吾輩わがはいは妹のミント……ニャ」


 こっちは感情を殺しているのだろうか?

 まるでロボットのように無機質な印象を受ける。


 そして、二人はポーズがそろったことを確認すると、


「二人は未来から来た『猫型ロボット』にゃん☆」「ニャ~」


 ミカンの台詞に続いて、表情筋が死んでいるミントが鳴いた。


(どうしよう……)


 新手のモンスターかも知れない。

 魔法を一発、撃ってもいいだろうか?

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