第35話 ちょっと! 皆、走るのが速いよ☆


 ――ビストニア大陸〈ドレイク火山マウンテン〉――

 【火口付近】


 結論から言えば、俺は勝利することができた。

 情報がなかったため、確証はなかったが、読みには勝ったようだ。


 どうやら『火竜ファイアドレイクの長』は一定のダメージを与えると撤退てったいするらしい。


「兄さん、大丈夫?」

流石さすがはワタシの兄者、大勝利!」

「ちょっと! 皆、走るのが速いよ☆」

「いったい、なにをどうしたのだ?」


 一遍いっぺんられても困る。

 まあ、アメジストだけはレベルが低いため、足が遅いようだ。


 ここに来るまで、少し待とう。ぜーぜーと息を切らせているようだが、ゲームなので、実際に息が切れることはない。


 現実リアリティを追求しているため、そういう演出が入るのだ。

 でなければ、なんkmキロも全力疾走することが可能になってしまう。


「勝利できたのは、ここが『一〇〇年代』だからだな……」


 俺は自分の推論を述べる。まず、このゲームは『ゼロ年代』『一〇〇年代』『三〇〇年代』といった感じで時間軸を移動しなければならない。


 当然、『三〇〇年代』でボスとして存在する登場人物キャラクターが『一〇〇年代』で死んでしまうと物語が狂ってしまう。


 恐らく、今回戦った『火竜ファイアドレイクの長』も未来のシナリオに関わってくるはずだ。

 ここで倒されないために、撤退てったいするように設定されていたらしい。


 また、どう考えても『一〇〇年代』のプレイヤーでは倒すことができない。

 倒せないボスを配置するのは、それはそれでゲームとして問題がある。


 そのため『ある程度のダメージを与える』もしくは『一定の攻撃にえる』とボスが撤退てったいするようになっていたらしい。


「俺の見立てでは、三割ほど削ればいいみたいだな……」


 丁度、それだけHPにダメージを与えると『火竜ファイアドレイクの長』の攻撃パターンが変わる。ただ今回、俺が削ったのはHPではなくMPの方だ。


 物理でダメージを与えるのは難しいため、相手の攻撃力を下げる作戦で行くことにした。そもそも、死霊術師ネクロマンサー弱体化デバフさせることに特化している。


 強力な攻撃魔法がないワケではないが、詠唱に時間が掛かるうえ、MPの消費も激しい。そのため、俺一人では限界がある。倒すのは不可能だろう。


 そこで『真紅眼レッドアイズ骸骨スケルトン黒竜ブラックドレイク』で相手を押さえている内に、あらゆる状態異常バッドステータスを与えることにした。


 一つでも状態異常バッドステータスになれば、追撃できるスキルが俺には多くあるからだ。

 このゲームにおける死霊術師ネクロマンサーは相手を弱らせて、操作する術に長けている。


 また暗殺者アサシンに関しては言わずもがな。

 相手を弱らせ、確実に仕留めることが専門だ。


 俺の場合は一撃必殺と死霊アンデッド化のコンボが強力なため、対人戦特化でプレイしている。通常、そんな戦い方をするプレイヤーは皆無かいむだろう。


 いや、発想はあるだろうが、このキャラはかく、打たれ弱い。更には狙撃手スナイバー同様、見付かると確実にPKプレイヤーキルされるので、罰ゲームもいいところだ。


 俺のように対人戦特化型でなければ、強くなるのは無理だろう。

 つまりはられる前にる。俺は相手を弱体化させ、MPを削った。


 そのお陰で、撤退てったいしてくれたようだ。

 運営側としては『MPの消費イコール大技の使用』という考えらしい。


 単にMPだけを削ってくるプレイヤーがいるとは想定していなかったのだろう。

 お陰で『簡単に撃退することができた』というワケだ。


 また、素材となる貴重レアなドロップ品も手に入った。

 『真紅眼レッドアイズ骸骨スケルトン黒竜ブラックドレイク』は召喚具アイテムに戻しておく。


 これで再利用リサイクルが可能だ。

 『死霊術師ネクロマンサーでもできるドラゴン退治術』といったところだろうか?


 そんな説明をした俺に対し、


「兄さんは謙遜けんそんしすぎよ。ダメージを受けるタイミングに合わせて〈エナジードレイン〉で回復して相殺するとか、相手の攻撃パターンを読んでないとできないからね! いったい、どうやってタイミングを合わせているの?」


流石さすがは兄者。火竜ファイアドレイク業火ブレスに対し、〈風〉と〈氷〉の魔法で気流を発生させて、抜け道を作るとは……。確かに理論上は可能。けど、フィールド全体を見渡せる鷲の目イーグルアイでも持っていないと、あんな回避はできない」


「わたしが師とあおぐだけのことはある。あの巨大な火竜ファイアドレイクが動く度に飛んでくる、岩や石のつぶてを簡単に回避するとは……いったい、師匠の動体視力はどうなっているのだ? いつ見てもれする」


 ルビー、サファイア、ヒスイ――三者三様に――それぞれが俺をめた。

 普通にプレイしたつもりだったが、なにか、やらかしてしまったようだ。


 相手の攻撃パターンやモーションを見切るのは基本中の基本だし、大気の状態や風の流れを利用することで吐息ブレスらすことは、そうむずかしくはない。


 そもそも見えていれば、大抵の動きには反応できるだろう。

 相変わらず、大袈裟おおげさだな。しかし、俺は空気を読んで、


「ありがとう」


 と素直に返しておく。

 すると三人は――そんな♡――といった様子でれた。


(問題はアメジストが今の戦いで『満足してくれたのか?』だけれど……)


「ねぇ、クロム?」


 とはアメジストで、別のことが気になるようだ。

 視線は俺の持っていた弓へと注がれている。


状態異常バッドステータスを受ける。あまり見ない方がいいぞ」


 と忠告する。悪魔の骨で作られた呪われた武具だ。

 『邪神の弓』とも言われているいわく付きの呪具カースドアイテムである。


 装備するだけで、状態異常バッドステータスが三つ、ランダムで付与されるうえ――攻撃する度に生命力が奪われる――という代物だ。


(完全に装備したプレイヤーを殺しにかかっている……)


 また、攻撃力は高いが『使い手に即死魔法を発動する』という、厄介極まりない特徴とくちょうがあった。


(まあ、気になるのはデザインの方かもしれないな……)


 見ただけで能力を見抜けるワケもない。

 それよりも、まずは気味の悪いデザインに目が行く。


 悪魔の頭蓋骨やら動く目玉が、あしらわれている。

 見ているだけでも呪われそうだ。


 いや、見た相手を一定の確率で恐慌状態にし、更に十回以上の攻撃を行わないと外せないのだから、実際に呪われている。


「すまない、気持ち悪かったな……」


 心配しなくてもいい――俺はそう言って、すぐに収容庫アイテムボックスへ格納した。

 だが、アメジストは首を横に振る。どうやら、違うらしい。


 やはり、あの程度の戦い方では満足できなかったのだろうか?

 俺の実力を見るのは、またの機会になってしまったようだ。


 しかし、アメジストは笑うと、


「違うよ、クロム」


 そう言った後、


「クロムがどうやって攻撃していたのか、分からなかったの……」


 と続ける。なるほど。

 どうやら『幽霊の矢』ゴースト・アローについて、説明しなければいけないらしい。

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