第四章 黒い死神(クロム)

第21話 そういうところが……好きなの♡


 ――クロック大陸 ~ビストニア大陸〈航路〉――

 【船上】


 天気は快晴で風も吹いている。

 陸地が近かった時は、海鳥たちが船の周囲を飛んでいた。


 波は穏やかで、船旅は順調なようだ。

 しかし、警戒をおこたることはできない。


 モンスターは勿論もちろんだが、海賊におそわれる可能性がある。

 職業としての『海賊』があるため、襲撃を受けるのは仕方のないことだ。


 交代で休みを取り、モンスターや海賊たちの襲撃に備える必要があった。まずは最初の九時間をヴィオ、ルビー、サファイアの三人に起きていてもらうことにする。


 このゲームではバイオリズムがあり、プレイヤーの能力にも関係した。

 問題なくプレイするためには、七時間ほど寝る必要がある。


 LPSロストプラネット・サーガはリアリティを重視していた。

 そのため、睡眠時間の確保も重要になってくるのだ。


 お金に関係する話だが、モンスターを倒した場合でも、お金を落とすことはない。

 魔結晶という魔石に魔力が溜まる仕組みだ。


 この世界で暮らす人々の生活には――魔力をエネルギーとして使っている――という設定があった。


 そのため、この世界では魔力の売り買いが可能となっている。自分のMPや倒したモンスターのMPを奪うことで、お金の代わりとして使うことができるのだ。


 当然、船の動力としても魔力が使われている。

 今回は乗船料の代わりに俺のMPを提供した。


 そのため、MPの回復も兼ね、俺が最初に眠ることになった。

 ネクロマンサーということもあり、俺は夜の戦闘にも適している。


 日中はルビーやサファイアに任せることにした。

 当然だが、アメジストのレベルだと乗船料にするにはMPが足りない。


 サファイアのMPも高いが回復役だ。消費するのはけたい。

 そういった理由からも、俺がMPを消費するのが適任だった。


 まあ、高レベルの俺からすると、ただ乗りに近い。

 当然、スキルや装備でMPも自然回復できる。


 更に運にもよるが、目的地までは三回ほど『モンスターと戦闘になる』ことが予想される。その場合も、モンスターからMPを吸収することが可能だ。


 これらの状況から――俺がMPを消費するのが一番いい――という結論になった。

 ちなみに残りは五時間おきに交代することとした。


 『俺とヴィオ』、『俺とルビー』、『俺とサファイア』の順だ。

 ルビーだけ、三人の見張りの際に、二時間ほど遅れることで調整を行う。


(俺だけ、あまり休めていない気がするのだが……)


 しかし、平等に扱わないと喧嘩になるため、仕方がない。

 目覚めた俺は食事を済ませ――甲板に出た――というワケだ。


 夕方から夜にかけての間、ヴィオと二人で見張りをしなければならない。二人チームで『半日ごとに交代すればいい』と思っていたのだが、上手くはいかないモノだ。


 丁度、ルビーとサファイアの二人に会う。

 俺が起きたのを確認したので、これから食事を済ませるそうだ。


 簡単に二人から状況を確認する。

 意外だったのは『アメジストが大人しくしている』ということだった。


 宇宙での暮らしが長いせいか、


「わぁーっ! これが地球の海なんだね♡」


 とはしゃいでいたが、すっかり慣れたようだ。甲板から身を乗り出して『海に落ちたりしないだろうか』とも思っていたが、その心配は無用だったらしい。


 案の定、モンスターとの戦闘があったが、問題なく片付けたそうだ。

 ルビーとサファイアがいるのだから、そんなモノだろう。


 サファイアの歌で敵を眠らせて、ルビーが止めを刺す――というのが定番だ。

 更にはアメジストの魔法もある。


 MPの消費は多いが、範囲の広い〈雷〉の魔法を修得させていたので、今回の戦闘は楽勝だったはずだ。


(普通は追い払うだけで、いいんだけどな……)


 ルビーは装備を換装することで、飛行や水の上を走ることが可能になる。

 更に魅了系のスキルも持っていた。


 ダンサーのクラスで覚えるスキルは、移動しながら使えるモノが多い。

 戦闘中でも状況に合わせ、能力値を向上させることが可能だ。


 そのため、中々に使い勝手がいい。サファイアも歌で支援ができるため、二人の連携は流石さすが、姉妹と言ったところだろう。


 俺たちは早々に港での依頼クエストを達成し、船乗りから信頼を得ることができた。

 今は、こうして船に乗り『ビストニア大陸』へと向かっている。


「あっ♡ クロム、おはよう! さびしかった」


 そんなことを言って、甲板で黄昏たそがれていたアメジストは、俺を見付けると抱き付いてきた。ちょっと可愛いと思ってしまい、避けるのを忘れていたのは内緒だ。


「活躍したみたいだな……」


 すごいじゃないか――と俺は彼女の頭をでる。

 女性の扱いにいては、かく、感謝することが大切らしい。


「アメジストのお陰で、MPも回復できたよ」


 ありがとう――と付け加えておく。

 言葉にすることも必要で、茜と葵にきたえられた。


 妹が二人もいると、大変である。


「フフフッ♡ 任せておいて☆」


 残り二日も余裕だよ――とアメジスト。効果は抜群のようだ。

 嬉しそうにしている。


 海の状況や天候にもよるが、大陸への移動には三日はかかる予定だ。

 今回の旅は、大陸へ渡って終了になるだろう。


 問題があるとすれば、その行先だ。本来は『魔法都市』のある『メージア大陸』が良かったのだが、船の行き先はランダムのイベントなため仕方がない。


 その名の通り、魔法都市では多くの魔法を買うことができる。

 一方のビストニア大陸はモンスターの巣窟そうくつとなっていた。


 多くの素材が手に入るのは嬉しいのだが――


「どうしたの、クロム?」


 不思議そうに首をかしげるアメジストに対し、


「本当はもっと、たくさんの魔法を使わせてあげたかったんだけど……」


 そんな俺の言葉に、彼女はクスクスと肩をふるわせると、


「クロムはいつも、誰かを楽しませようとしているのね」


 そう言って、アメジストは微笑ほほえむ。

 茜や葵にも、そんなことを言われた気がする。


 あきれられてしまっただろうか?


「うんん、違うの……」


 アメジストは首を横に振ると、


「そういうところが……好きなの♡」


 いつもの彼女とは違い、少しだけじらうような態度を取る。

 そして、俺から離れた。


 水平線上には夕日が沈みかけている。

 お互いに顔は真っ赤だったが『夕日のせい』ということにしておこう。


 俺たちはわずかの間だったが、無言で夕日に輝く海をながめていた。

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