第20話 〈異種格闘技戦〉とは何でーす⁉


 同じ陸上部員たちの手によって、風間かざま担架たんかで運ばれて行く姿を眺めていると、


「クロム! この学校、面白いでーす☆」


 とヴィオ。楽しそうでなによりだが……当然、俺は面白くはない。

 しかし、彼女の手前、


「そうか、良かったね」


 と合わせておく。さて、この場をどう切り抜けるか――

 すでに人が集まってきている。走って逃げても追い回されるだけだろう。


 それに腹も減っているので、逃げ回る体力もない。

 ただでさえ、面倒な状況だというのに、


「やはり、去年の〈異種格闘技戦トーナメント〉の優勝者……」


 とハゲ。その大会、出場はしたけれど……優勝した覚えはないのだが?

 それにこいつ、誰だ?


 少なくとも、真面目まじめに付き合ってはいられない。

 手薄な場所を探して、この包囲網から脱出しよう。


 俺が気取けどられないように周囲をうかがっていると、


「クロム、クロム! 〈異種格闘技戦トーナメント〉とはなんでーす⁉」


 我慢できなくなったようでヴィオが口を開いた。

 俺にかつがれるのにもきたのだろう。


 スルリと俺から降りる。


「なるほど、ヴァイオレット嬢は知らないようだ……」


 まあ、無理もありませんね――とハゲ。

 だから、こいつは何様なにさまなのだろうか?


 微妙びみょうに上から目線な態度にイラッとする。そこへ、


「あ、兄さん!」


 とあかねの声がした。あおいも一緒のようだ。

 はーい、退いてね――と言って近づいてくると、


「はい、兄さんと吸血鬼の靴」


 持ってきてくれた靴を地面に置いた。

 ありがとう――礼を言って、俺たちは靴をき替える。


 代わりに上履きを戻しておいてくれるようにお願いした。

 その様子を黙って待っていた葵は、


「兄者、新しい顔」


 とサンドイッチとフルーツオレの入った袋を差し出す。

 頼んでいた昼食だ。運んできてくれた葵の頭をでながら、


「あ、すぐ食べるから、続けていいぞ」


 俺はハゲに伝える。茜と葵には、危ないので離れるように指示した。


「兄さん、ケガしないでね」「兄者、頑張って」


 と言い残し、二人は校舎へと戻って行く。

 微妙な空気の中、


「くっくっくっ――誰しも、最強の部活はどこか?」


 と学生時代に一度は考えるモノだ――ハゲは語る。そして、


「その最強の部活を決める大会が――この雪星ゆきほし学園……」


 地下運動場で行われる〈異種格闘技戦トーナメント〉だ!――と声を上げた。

 同時にこぶしにぎり、震えるハゲ。


 彼の言葉に、他の生徒たちも――うんうん――と同意した。


(ダメだ――この学園、アホしかいない……)


 ヴィオと分け合って、俺はサンドイッチを黙って頬張る。


「ルールは簡単だ。相手を殺す、人質を取るなどの常識に反する行為は即失格!」


 使用する武器はなんでも構わないが、一つのみ。

 制限時間は十分。


 その間に相手を気絶、参ったと言わせるか、相手の風船まとを破壊した場合を勝利条件とする。


 制限時間を過ぎても決着がつかない場合は次の五つの観点から仮想現実バーチャルにて、審議を行う。


 1.学園がゾンビに囲まれた際、生き延びることができるか?


 これは――学校を脱出できるか――までを審査の対象とする。

 最初に襲われるのは体育教師とすること。

 ゾンビは序盤のため、走ったり、飛行したりはしないモノとする。


(いや、それもうゾンビじゃないから……)


 2.クマと遭遇した際、生き延びることができるか?


 山で道に迷った場合を想定し、野生のヒグマと対面。

 お互いに視認した状態からのスタートとなる。

 もちろん、絞め技は有効とする。


(有効と言われても、たぶん誰もできないと思う……)


 3.学園がテロリストに襲撃された際、生き延びることができるか?


 これはクラス内のヒエラルキーによりスタート地点が異なる。

 例えば、ぼっちの場合はトイレの個室からのスタートだ。

 お調子者の場合は最初に撃たれてしまうことも想定される。


(それだと陰キャしか助からないんじゃないだろか?)


 4.無人島に漂流した場合、生き延びることができるか?


 脱出を目的とし、持っている道具は三つまでとする。

 事前に申請してもらうが、当然ながらネットは通じない。

 道具はナイフなど、持っていてもおかしくはない物とする。


(いや、ナイフを持ち歩いている時点でおかしいだろうが!)


 5.海賊王になる男の船に誘われた場合、活躍することができるか?


 なりたい種族、欲しい異能の力がある場合は、事前に申請すること。

 また、どの島で仲間になるのかは希望が叶わない場合もある。

 必殺技は必須なので、きちんと報告して欲しい。


(船に乗るのを、断る選択肢はないようだ……)


 そんな感じのことをノリノリでハゲは熱く説明した。

 ヴィオは急いでサンドイッチを詰め込み、フルーツオレでのどの奥へと流し込むと、


「面白そうでーす☆」


 と感動する。やはり、ヴィオもあっち側の人間(?)らしい。

 最強の部活と言われても、意味が分からないのだが――


 俺もサンドイッチを頬張ると、急いで飲み込む。

 そして、彼女の口の周りを拭いた。ゴミは後で捨てるため、袋にまとめておく。


「クロムは何部なにぶでーすか? 私も入りまーす☆」


 ヴィオはキラキラした瞳で質問してくる。

 答え辛いので、思わず視線をらしてしまった。俺は、


「て、天文部かな?」


 名前だけの仮入部だけど――ボソリとつぶやくように付け加える。


「Oh! 最強の部活は天文部⁉」


 予想外の回答だったのか、おどろくヴィオ。


「ロケット飛ばしたり、UFOを呼んだり……」


 見付けた星に名前付けたりできるからな――と俺は適当なことを述べる。

 前半は科学部とオカルト研究会のような気もするが、問題ないだろう。


「白々しいとぼけ方をするな!」


 と地団駄じたんだを踏み、声を上げたのはハゲだ。


「お前はすべての対戦相手をKOしたではないか!」


 そう言って、俺を指差す。その目は復讐者リベンジャーの目だ。


「『黒き死神のクロム』――貴様きさまと決着をつける」


 ハゲは俺に近づくと、ゆっくりと身構えた。

 仮想現実ゲームでの二つ名を現実世界リアルで呼ぶのは止めて欲しい。


 どうやら彼を倒さなくては、平穏な学園生活を送れそうにはないようだ。

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