第17話 ふふんっ! 男を惑わす小悪魔でーす☆


 ――現実世界〈雪星ゆきほし学園〉――

 【教室】


 今頃、仮想世界バーチャルの俺はなにをしているのだろうか?

 苦労していなければいいのだが――と現実逃避をしてみる。


 しかし、それで現状が変わるワケではなかった。今、俺の目の前では、ヴィオがクラスの女子たちに囲まれて、質問攻めにされていた。


 理由は簡単だ。転校生だからである。海上都市ギガフロートへの移住が進められる中、地上にある学園に『転校生が来る』というのは非常に珍しいことだった。


 通常は海上都市ギガフロートの学園に転校して行くのが常識である。

 また、彼女は宇宙人だ。


 基本的に、まだ人類と宇宙人との交流は、それほど盛んではない。

 経済規模が違うので、少し関わっただけでも国が混乱してしまうからだ。


 また、地球は辺境にある星で、気軽に交流するには距離がありすぎる。

 その他にも、解決すべき課題は多い。


 結局のところ、人類が彼ら宇宙人と同等の付き合いをするには科学や文明にいて、まだまだ未発達ということのようだ。


 人類はまだ、この宇宙では『よちよち歩きの赤子』ということなのだろう。

 少なくとも〈時空震〉による破滅を逃れなくてはならない。


 これは危機ピンチであると同時に機会チャンスでもある。〈時空震〉による地球崩壊を乗り越えた時、人類は初めて宇宙人かれらに認められるのだろう。


 正直――ヴィオよりおとっている――と言われるのは釈然しゃくぜんとしない。

 だが、生活圏を宇宙に移していない現状では、そう思われても仕方がないだろう。


 それよりも、学校などうの昔に卒業しているであろう年齢の彼女が――俺と同じ学年だ――ということの方が疑問である。


 どうやら、地球を救う科学力を持つ彼女を、政府はVIP待遇でむかええることにしたらしい。


 『平和の使者』という名目でむかえられたヴィオは『遣りたい放題』というワケだ。


 まあ、俺の平穏と引き換えに――地球が救われるのであれば安いモノだが――納得いかないのも事実である。


 むしろ、政府としても、俺とヴィオの結婚を推奨しているのだろう。

 財力も事乍ことながら、宇宙への橋渡し役としても期待されている。


 宇宙人が地球のVRMMORPGで遊ぶようになってから、どうにか彼らに接触しようと、きな臭い動きもあるという。


 しかし、宇宙人なら唯でもいいというワケでない。

 今や俺は――時の人――というワケだ。


(やはり、前向きに検討すべきだろう……)


 現状、ヴィオを拒否したとしても、状況は好転しない。

 それどころか、悪化する可能性の方が高かった。


 彼女との関係を断ったとしても、世間がそれをどう受け止めるのかは別問題だ。


「下手をすると茜や葵に危害が及ぶかもしないしな……」


 窓際まどぎわの自分の席で、頬杖をきながらつぶやいた俺の台詞セリフに、


「なるほど! そういうことなら任せるでーす☆」


 あ、もしもし、総理?――などと言って、いつの間にか戻ってきたヴィオ。

 早速、どこかに連絡を取っているようだ。


 もしかしなくても、総理というのは『総理大臣』のことだろうか?


(今、『国会』では本会議をやっている時間のような気がするが……)


 ヴィオが『プランWダブルの発動でーす!』などと口走る。

 はっ、ただちに!――と声が聞こえた。


「OKでーす♡」


 とヴィオ。めてめて!――と言わんばかりに俺にり寄ってくる。

 悪い予感しかしないが、いったい、なにをやらかしてくれたのだろう。


「な、なにをしたのかな?」


 クラスメイトの手前、なるべく、優しく聞いてみた。そのクラスメイトたちからは――地球の未来がかかっているんだ、分かってるよな――という圧を感じる。


(普段はバラバラのクセに、こういう時だけ協調しやがって……)


 俺は一種の苛立いらだちを覚えながらも、笑顔を取りつくろった。


「なぁーに、簡単なことでーす! クロムだけ重婚OKにしました」


 これで茜と葵も、お嫁さんでーす☆――などと言う。

 なるほど、『W』はウェディングの意味だったようだ。


(いや、そうじゃない!)


 どうにも、理解のおよばないことばかり起きている。

 これが宇宙か⁉


 まあ、明治時代は『めかけ』などがあったらしいし、問題ないのかもしれない。


(いや、問題あるから禁止になったのだろう……)


 ダメだ。考えがまとまらない。

 いつの間にかヴィオは俺のひざの上にすわっている。


 クラスの女子からは、微笑ほほえましい視線を感じる一方で、男子の方は――ねたましい!――という視線を強く感じる。


 すべてはヴィオが美少女だからだろう。


「俺にとっては悪魔にしか見えない……」


 そんな愚痴ぐちに対して、


「ふふんっ! 男を惑わす小悪魔でーす☆」


 とヴィオ。このポジティブさは見習いたいところだ。

 一方で平然としている男子もいる。


 彼女の有無が、明暗を分けているようだ。

 そんな人間のみにくさを知って、少し冷静になった俺は、


「えっと……日本の法律って、そう簡単に変えられたっけ?」


 素朴な疑問を口にした。ヴィオは――あははっ!――と笑うと、


「そんなワケないでーす☆」


 と口にする。


「だ、だよねー」


 どうやら、さっきのは聞き間違いだったようだ。

 安堵あんどする俺に対し、


「根回しが必要でーす!」


 この国の政治家は官僚の言いなりでーす♪――とヴィオ。


「後は票田となっている企業にお願いしたり、ハニートラップに引っ掛かっている議員に証拠を送ったり、日本のインフラ事業を買収したりしまーした☆」


 と楽しそうに語る。

 どうやら、俺はヴィオを見縊みくびっていたようだ。


 昔は宇宙人がUFOで戦争を仕掛けてくる作品があったが、そんなことをする必要はない。経済をもって地球は――特に日本は――侵略されてしまった。


「消費税を下げる以外は、思いのままでーす☆」


 訂正――この国はとっくに終わっている。

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