第16話 そうと決まれば、早速、駆除しましょう♡


「どうしたの? 兄さん」


 とルビー。自分の今の格好を忘れているのだろうか?

 身体をくの字にさせて、俺の顔をのぞき込む。


 思わず、胸の方に視線が行ってしまう。気付いていないワケはないと思うのだが、より胸を強調するように、腕を背中へと回す。


 髪型はサイドテールだ。現実世界リアルでは髪を短くしているためか、こちらの世界では長くしていた。


 髪飾りなどの装飾品アクセサリーも装備するので、見た目も意識しているのだろう。

 現実世界リアルでも、同様の装飾品アクセサリーが販売されている。


 また、化粧品や香水を販売している会社がスポンサーについていた。

 そのためか、ニオイにもこだわりがあり、今のような状況だと困ってしまう。


 性的な目的で見てはいけない――と思いつつも、ビキニアーマーの攻撃力はかなり高い。防具のはずなのに、おかしな話だ。


 どうしても胸やらお尻などに目が行ってしまう。


(身軽さが売りのダンサーとしては、正しい装備なんだが……)


 平常心、平常心だ――と自分に言い聞かせる。


「いや、この間はサファイアが水着姿だっただろ?」


 確認の意味を込めた俺の言葉に、サファイアは顔を真っ赤にした。

 思い出して、恥ずかしくなったのだろう。


 正直、あの時は水着に外套マントという姿だったので、トロフィーでも持っていれば、美人コンテスト優勝者みたくなっていた。


 無駄に発育がいいので、やけにエロく感じたモノだ。


「あー……」


 とルビーは視線をらす。

 まるで後ろめたいことでもあるかのようだ。


「それが恥ずかしくなって、家では距離を取っていたのか……」


 と思っただけだ――俺は答える。

 図星だったのか、サファイアは両手で顔をおおう。


「ま、まったく……こ、困った妹よね」


 とはルビー。目を合わせようとはせず、動揺しているように見える。


「へぇー、そんなことが……」


 姉妹だね♡――そう言って、アメジストは微笑ほほえんだ。


「わ、ワタシのはファッション! 姉者は痴女ちじょ……」


 サファイアは無理のある言い訳をする。


痴女ちじょひどいと思うぞ……)


 しかし、この世界で露出の高い格好をするのはネカマを除けば、そういう人種であることも多い。


(まあ、ゲームなので、羽目を外す気持ちも分からなくもないが……)


「き、着替えてくるわね!」


 ルビーはそう言うと、急いで倉庫の陰に隠れた。

 どうやら、装備を換装かんそうするようだ。


 別に一瞬なので、この場で済ませてしまえばいいような気もするが、そこは気にするらしい。内心、勿体もったいないと思いつつも、


「あの姿のままだと、家で気不味くなるから、助かったよ……」


 胸やお尻ばかり見てしまいそうだ――と俺は冗談をらす。

 後は――兄さんのエッチっ!――などと言われて終わるのかと思っていたが、


「やっぱり、さっきの格好を……」


 とルビー。いったい、なにを考えているのやら。

 素早さや魅力、魔法防御力が大幅に向上するので、間違ってはいない。


「ズルいわ!」


 と声を上げたのはアメジストで――私も水着が欲しい☆――と言い出す始末だ。

 正直、俺も水着姿には興味があるが、


「今は依頼クエストの最中だぞ」


 と告げる。するとアメジストは、


「ネズミ退治なんか、どうでもいいわ!」


 と言い出した。女子の水着姿を見る機会チャンスと比べると、確かにどうでもいい気もするが、そういうワケにも行かない。


「素人には、まだ早い……」


 兄者はワタシの水着姿だけ、覚えていればいい――とサファイア。

 確かに彼女の水着姿は暴力的でもある。


 あの胸のインパクトは忘れようにも忘れられない。

 そういった意味では現実世界リアルで葵が距離を取ってくれたのは助かった。


(意外と着痩きやせするんだなぁ……)


 そんなことを考えていたからだろうか?


「兄さん、だらしない顔してるわよ……」


 ルビーに指摘される。謝ろうとしたが――はぁ――と彼女は溜息をき、


「し、仕方がないから、あたしの水着姿で我慢しなさい!」


 と命令された。


「これは皆を守るためなんだから、仕方のないことよね……」


 うん!――などと言って一人で納得する。

 俺がヴィオや葵をおそうとでも思っているのだろうか?


 いや、男である以上『おそわない』という断言はできない。

 それ程までに三人とも魅力的だった。


「ルビーも十分可愛いんだから、あまり挑発しないでくれ」


 肩をすくめる俺に対して、反応したのはアメジストとサファイアで、


「ズルい、ズルい!」「兄者はワタシだけ、見ていればいい」


 となにやらわめき散らす。

 まるで小さい子供のようだ。


「分かったから、今度、皆で海水浴に行こうな」


 ということで納得してもらった。

 現実世界リアル仮想世界バーチャルかは決めていないが――


(まあ、いいだろう……)


 両方行くという手もある。

 一先ひとまず、この場をしのげたことに安堵あんどしよう。


「そうと決まれば、早速、駆除しましょう♡」「一匹残らず、駆除してやる!」


「「この世から!」」


 アメジストとサファイアが妙に張り切る。

 まるで母親をネズミに殺されたかのような勢いだ。


 ここはアメジストと冒険した最初の世界から百年後の時間軸。

 今回は冒険の舞台となったクロック大陸から出ることが、一つの分岐点となる。


 三つある大陸の一つに渡り、そこから、本当の冒険が始まるのだ。

 大陸を渡るためにはいくつか方法がある。


 この依頼クエストも『船乗りとのコネクションを作るためのイベント』と言ってもいい。

 商人や海賊の場合、話はもう少し簡単だ。しかし、冒険者は違う。


 出国のための許可や資格、乗船料が必要となる。

 そのため、正攻法では時間が掛かってしまう。


 基本的に冒険者は船乗りたちの依頼クエストを受けて、切っ掛けを作ることの方が近道だった。


 ただし、行先は運任せになる。意気込むアメジストとサファイアのうしろ姿すがたを見ながら、隣にいるルビーに目を向けると、


「み、水着エプロンとかなら、大丈夫かな?」


 などとつぶやいていた。

 家で、その格好をするつもりなのだろうか?


 油物の調理をする時は止めておいた方がいい――と思いつつ、三人で来たことに今更ながら、俺は若干の後悔をするのだった。


(やれやれ、先が思い遣られる……)

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