第10話 また、一緒の部屋で眠るのね♪


 VRMMOが発展した背景には――データ化する技術の進歩――が関係した。

 同じ人格、情報を持った存在を『コンピュータ上に作成する』という技術だ。


 宇宙人から送られてきた数多の情報。

 その解明により『人間をデジタイズ(データ化)する』ことが可能になった。


 宇宙と呼ばれる危険な空間をより安全に、より早く移動するための技術とも言える。


 クローン技術や肉体の冷凍保存は――倫理的に問題がある――とされていた。

 だが、データ化は灰色領域グレーゾーンという結論にいたる。


 それには〈時空震〉の影響を受けると――情報体になってしまう――と言う現実が大きく関係する。


 勿論もちろん――抵抗がある――という人たちもいた。

 一時期は人権屋がさわいでいたようだ。


 けれど、〈時空震〉が迫っている現状で、その技術を解明しなければ人類に生き残る手段はない。


 後はDBデータベースごと、宇宙に脱出である。まさしく、それは『箱舟』と言えた。

 人類は予言者シビュラからの神託メッセージを受け取ったようだ。


 今では『ノア計画』などと呼ばれている。

 全人類、動植物、微生物にいたるまで、記憶媒体の中に保管する計画だ。


 そして、地球が復元するその日に人類を復活させる。そんな壮大な計画を立て、実行しようとしていた。だが、一つ問題が発生する。


 人間のような知的生命体をデータ化した場合、精神を正常に保つことができなかったのだ。肉体のない状態が続くと、人はどうなるのか?


 目も見えず、耳も聞こえない。身体も動かせないような状態。

 それが続くと発狂するか、思考を停止してしまうらしい。


 結論として、データ化した人類には仮初の肉体を与える必要があった。

 そこで着目されたのが、VR技術における仮初の肉体だ。


 しかし、これも失敗に終わる。

 全裸でなにもない空間に放置されるのは、拷問でしかない。


 また、飲食の必要もなく、眠ることもできない状態が続くことになる。

 やはり、それでは正気を保てないようだ。


 人は他の個体と関わり、互いに認識することで『正常な状態を保てる』ということが実証されたことになる。


 また、適度な刺激も必要だった。

 そこでようやくVRMMOへとつながるのだが――


 人とは欲深いモノで、美味しいモノを好きなだけ、健康を気にすることなく食べられる。好みの異性を自分の好きなようにできる。


 そんな世界を与えられると、元の世界に戻った際に、日常生活が困難になるようだ。なんでも叶う仮想現実バーチャルの世界は一種の麻薬と呼べた。


 個人差にもよるが研究の結果、人間のデータ化は十日が限度とされている。

 現在のVRMMOへのフルダイブは一週間が目安とされた。


 つまりVRMMOはゲームでありながら、人類救済のための技術として日夜研究され続けているのだ――


「アメジスト、頭からキノコが生えているよ」


 バッドステータスの『キノコ状態』の初期段階だ。最初は身体からキノコが生え、能力値が下がって行くのだが、時間がつとノッコの姿になってしまう。


 どこかのタイミングで胞子を浴びたようだ。

 キノコをいで解除してやる。


「あははっ、くすぐったい♡」


 とアメジスト。予定はしていなかったが、ボス戦は楽しんでもらえたようだ。


「でも、途中で攻撃パターンが変わったのには、ちょっとあせったかな?」


 と彼女は苦笑する。『キノコ大王』はHPを3/4、2/4、1/4にするタイミングで大量の胞子をき散らした。すると周囲にノッコたちが大量に現れたのだ。


 完全に――物量でプレイヤーを追い詰めよう――という考えらしい。

 雑魚ザコの対応をしているとボスのHPが自動回復して、振り出しに戻る仕組みだ。


 仕方なく、俺が広範囲の魔法を使うことで対応する。

 お陰でドロップ品であるキノコが山のように手に入った。


 アメジストはもう持ちきれないので、俺の所属するクラン(プレイヤー同士で集まって結成するグループ)の倉庫に送っておいた。


 後で仲間たちからクレームが来そうだ。さっさと売ってしまおう。

 会社に提出するレポートも作成しなければならない。


なにかイベントが解放されたみたい……」


 とアメジスト。通知を見ると『タケノコ掘り』の依頼クエストを受けられるらしい。

 うん、めておこう。


 タケノコのモンスターも火属性の魔法に弱いのだが、ぜるのだ。

 HPの高い戦士系の仲間が必要になる。


 その説明を聞いて、アメジストも嫌そうな顔をした。

 流石さすがに疲れたのだろう。


 大量のモンスターを相手にするのにもきたようだ。

 レベルも十分に上がったので、俺たちは街へと戻ることにした。


「また、一緒の部屋で眠るのね♪」


 とアメジスト。宿屋に泊るだけ話なのだが――

 どうして、そういう言い方をするのだろうか? 


(もしかして、わざと言っているのだろうか?)


 どうやら、俺は試されているらしい。

 みょうに色っぽい声を出す時もあるし、その可能性は十分に考えられる。


 今夜は部屋を分けるべきかもしれない。

 しかし、それだとなにかあった場合、対応が遅れてしまう。


 VRMMORPGの世界では、実際にプレイヤーが眠るワケではない。

 意識はそのままで、アバターが眠りにく動作をする。


 通常はアバターが起きるまで、プレイヤーは意識を切り離す。

 早送りで見守る形になる――と言った方が近いだろうか?


 当然、寝ている間にイベントや襲撃が発生する場合もあるので、油断はできない。

 体感速度を調整できるので、この間に装備や所持品アイテム、スキルの確認などを行う。


 しかし、この様子ではまた、アメジストに揶揄からかわれそうだ。

 ゲーム内では『お湯』を用意して、お風呂に入ることだってできる。


 バスタオル一枚でうろうろされてはかなわない。

 今までの様子から、彼女は夜の方が元気になるようだ。


「キーノッコ、ノッコ、ノッコ♪」


 と無邪気に歌う彼女の後ろ姿に、俺は油断してしまいそうになる。

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