第9話 それって、有名な『日本の文化』よね☆


「油断するなよ」


 俺の台詞セリフに、


「任せておいて☆」


 とアメジスト。その言葉を信じ、最初の内は彼女に任せていた。

 だが、流石さすがに数が多い。まずは魔法で俺のMPをアメジストへ渡す。


 俺が攻撃をしないのは、敵をアメジストに引き付けさせるためだ。

 ちなみに俺のMPは自動で回復するため問題はない。


 アメジストへと集まったところを狙って、俺の〈エナジードレイン〉で一気に敵を倒す。後に残ったのは大量のドロップ品である『キノコ』だ。


 依頼された量よりも遥かに多い。

 薬の材料としても使えるので、拾えるだけ拾うことにした。


 目的は達成したので、後は帰るだけだ。


「やっぱり、この時期は多いな……」


 俺の言葉に、


「そうだった! なにか原因があるの?」


 とアメジスト。急に生き生きとした表情になる。

 さっきまではウンザリしていた様子だったが現金なモノだ。


「『キノコタケノコ戦争ウォーズ』が勃発ぼっぱつしているんだと思う」


 大昔より日本では、よくある話だ。

 『ノッコの森』と『タッケの村』――不毛な争いが続いていた。


「それって、有名な『日本の文化』よね☆」


 興味深いわ!――とアメジストが目を輝かせる。

 どうにも『日本の文化』を誤解しているような気もするが――


(まあいっか……)


「折角だし、調査してみるか?」


 俺の問いに、彼女はコクコクと首を縦に振った。

 どうにも『日本の文化』に並々ならぬ興味があるらしい。


 俺たちは森の奥へと進んだ。

 すると――ドシンッ、ドシンッ!――と大地が揺れる。


 地震とは違う。巨大ななにかの足音だ。


「あれだな……」


 そう言った俺の視線をアメジストは追う。そして、


「あら⁉ 地球のキノコって大きいのね……」


 と興奮した。周囲の木々の高さを越えるくらいはある。

 巨大なキノコのモンスターが現れた。


「いや、ゲームだからだよ……」


 俺が返答すると、


「フフフッ♡ 分かってるわ……」


 冗談よ☆――そう言って彼女は微笑ほほえんだ。

 仲良くなったのはいいが、最近、俺を揶揄からか頻度ひんどが増えたような気がする。


「一旦、下がるよ」


 と俺は指示をした。このサイズのキノコに胞子をばら撒かれると厄介だ。

 地形を利用して動きを封じ、火属性の魔法で畳み掛けるのがいいだろう。


 俺はアメジストを抱きかかえると、地面に爆炎のトラップ魔法を設置した。

 地面に描かれた魔法陣は、俺以外には見えなくなる。


「へぇー」


 とアメジスト。感心する彼女に対し、


「そのまま、攻撃できる?」


 俺が質問すると、


「任せて☆」


 アメジストはそう言うと杖を振った。

 ボンッ!――とぜた音がしたので、巨大キノコに命中したのだろう。


 続いて、それに連鎖するように――ボンッ! ボンッ!――と爆発音が続く。

 俺が設置したトラップ魔法に引っ掛かってくれたようだ。


「どうなってる?」


 再度、走りながら聞く俺に対し、


「まだ、追ってきているわ!」


 とアメジスト。手で帽子を押さえ、杖を使って火属性の魔法を放つ。

 俺は再びトラップ魔法を設置しながら、一度、しげみの奥へと身を隠した。


 植物系は火に弱いはずだ。序盤のボスなので、それほど強くはないだろう。

 アメジストを降ろすと、


「ああ~んっ♡」


 と残念そうな声を上げる。

 俺はそれを無視すると、木の陰に隠れて様子をうかがった。


 『グレートキングノッコ』と名称が表示されている。

 キノコ大王といったところだろうか?


 俺の記憶にはないことから、新しくイベント用に追加されたモンスターなのだろう。後で会社から――レポートを提出してくれ――と言われそうだ。


(倒せない系のモンスターだと、逃げるしかないな……)


 HPを確認するとゲージが減っているため、耐久力が高いだけらしい。

 キノコ狩りの『イベント用モンスター』と言ったところだろう。


 恐らく、あのキノコを引き付けている間に――仲間がキノコ狩りを成功させる――というのが正解のようだ。


 人海戦術で対処すべき相手だが、今は二人しかいない。

 初見では対応が難しいため、『逃げる』のが前提なのだろう。


 作戦を立て、集団で挑むべき相手のようだ。


(本気を出せば、俺一人でも倒せるだろうけど……)


 正直、そこまでするメリットがない。

 あまり手の内を見せたくない――というのもある。


 よって、彼女に決めてもらうことにした。


「アメジスト、どうする?」


 逃げた方が良さそうだけれど――そんな俺の問いに対し、


「いいえ、倒しましょう! お願い、倒し方を教えて!」


 少し考え込む素振りをしたが、アメジストはすぐに、そう答える。

 まあ、彼女なら――そう言うだろうな――とは思っていた。


 当面は――俺がトラップ魔法を仕掛けつつ、アメジストが魔法で攻撃しておびせる――そんな方法で対応が可能だろう。


 問題はMPの回復だ。アイテムは使わず、俺のMPを渡すことにした。

 また、近づくと胞子を飛ばしてくるだろうから、近接戦闘はNGだ。


 盾役がいないため、骸骨戦士スケルトン・ウォリアーを二体召喚する。

 同時に火力を上げるため、カボチャのお化けジャックオーランタンも一体呼び出す。


 敵は広範囲に状態異常デバフの効果がある胞子をばら撒くのだろう。

 下手をすると全滅する可能性もあるが、コイツらなら問題ない。


 また、HPを削ると攻撃パターンが変化するはずだ。

 倒すのが無理そうなら、逃げることも選択肢に入れるよう伝えておく。


「分かったわ!」


 とアメジスト。俺たちは付かず離れず、巨大キノコを相手にする。信頼できる壁役がいないので、詠唱に時間を必要とする『強力な魔法』が使えないのはもどかしい。


 しかし、どうにか倒すことには成功する。

 勝負が拮抗きっこうするように戦力を調整したので、こんなモノだろう。


(あっさり倒しても、それはそれで面白くないからな……)


 ただ、思ったよりも時間は掛かってしまった。

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