第5話 勿論よ☆ 問題ないわ!


「本当⁉」


 そう言って、嬉しそうに微笑ほほえむ彼女の姿に俺はドキッとしてしまう。

 その感情を隠すために、


「そろそろ、魔法の練習をしてみようか?」


 と提案した。そんな俺の言葉に――待ってました☆――とアメジストは瞳を大きくする。本来は〈時空の扉タイムゲート〉を見付けるための準備をするべきなのだろう。


 効率よく経験値を稼ぎ、無駄なくスキルを習得して行く。

 そのためにはパワーレベリングを行うのがいい。


 そして――世界崩壊へとつながる特異点――その事象を見付け出し対処する。

 だが、今は楽しんでもらうことを優先した方がよさそうだ。


 彼女にはこだわりがあるようで『不死族』という上級者向けの種族を選択していた。

 低レベルの内はいいが、レベルが上がると異形の能力が覚醒し強くなる。


 しかし『その分、行動に制限が掛かってしまう』という厄介な種族だ。

 このゲームのメインストーリーを進めると、未来へと時間軸が移動する。


 正確には――〈時空の扉タイムゲート〉を見付けてタイムスリップする――というモノだ。

 次第に二千年後の未来へと近づくことになる。


 そんなゲームの特性上、『不死族』は世界崩壊へ近づく度に――異形の姿へと変貌へんぼうする――という設定になっていた。


 早い内に『優秀な配下』や『眷属』を手に入れることができるのかが、ゲームの行く末を大きく左右する。


 更に異形の姿になると人間扱いされないため、PKをしてもペナルティが発生しない。言い換えるのなら、魔王プレイをしたい人向けのキャラだ。


(まあ、今から心配しても仕方ないか……)


 最初はとやかく言わない方がいいだろう。

 上級者向けなので――お勧めしない――ということは伝えている。


 それでも、彼女が『これでいい』と言うのであれば、これ以上、余計な口出しをすべきではない。


 取りえず、ストーリーが進むと『ヴァンパイア』や『リッチ』、『レイス』に変更するイベントが発生する。


 どれになりたいのかを決めておいた方がいいことだけは伝えておこう。


「〈ファイアボルト〉!」


 アメジストの言葉と同時に、彼女の足元に光の魔法陣が現れ、手に炎のかたまりが宿る。まだレベルが低いため、発動までは時間が掛かるようだ。


 こだわりのある人は、先に詠唱などを行う。特定の法則で詠唱を行うことで、威力が上がったり、派手な演出になったりするようだ。


 しばらくすると、アメジストの手のひらから炎弾が打ち出される。


「モッキュー!」「プイプイッ!」


 見事にモンスターを焼き殺した。

 こんな場所でMPを消費するのは勿体もったいないが、これも練習だ。


「その調子だよ、魔法関連のスキルを習得していない内は……」


 自分で狙いを付ける必要があるからね――と言って俺は拍手を送った。

 魔法を使った回数で熟練度も上がる。


 地道に回数をこなすのが、今後のためでもあった。

 一方でアメジストは納得が行かなかったのか、


「もう少し練習するね!」


 と言い出す。俺は――MPの残量に気を付けて――とだけ忠告した。

 やる気があるのはいいことだ。逆に素人というのがプラスに働いている。


 彼女の職業ジョブは自由度の高い『冒険者』だ。

 基本的にギルドで依頼クエストを受けて、世界を冒険しなければならない。


 今は冒険者(ビギナー)のため、昇格試験に合格する必要があった。

 この分なら、一回で確実に合格できるだろう。


 試験に合格することで、冒険者(ノービス)となる。

 冒険者(ノービス)となれば『自由に依頼クエストを受けられる』というシステムだ。


 因みにビギナー、ノービス、ミドル、エキスパート、マスターの順に昇格できる。

 最初の試験はレベル10が目安だ。


 また同時にメインクラスを修得することができるようになる。

 この分なら、すぐにそのための素材集めに行けるだろう。


 本来はチュートリアルを攻略することで、冒険者(ノービス)になれる。

 しかし、彼女はチュートリアルを拒否してしまった。


 それというのも、チュートリアルではメインクラスを『ファイター』、『スカウト』、『メイジ』、『ヒーラー』の四つの中からしか選択できないからだ。


 どうやら、彼女は俺と同じ『ネクロマンサー』になりたいらしい。

 そういう情報だけは、ちゃっかり持っているようだ。


 ネクロマンサーはレア職ではあるが特別、強いワケではない。

 ただ、今回は俺が上位の職業であるため、弟子として設定することができる。


 その場合、能力値の上がり方は通常よりも期待できるだろう。

 しかし、問題となるのは素材集めだ。


 『ネクロノミコン』というアイテムを手に入れる必要があるのだが、これが面倒である。勿論もちろん、俺が持っているモノを渡してもいい。


 だが、苦労した方がキャラに愛着もくだろう。

 彼女も、それを望んでいるようだ。


 俺を指名した理由も――ネクロマンサーだから――というのが理由の一つかもしれない。というワケで、実戦による経験を積みつつ、レベル上げだ。


 本来は街にある冒険者ギルドの訓練場でレベルを上げることも可能だった。

 しかし、その場合、時間が掛かってしまう。


 安全面を考慮しているため、単純作業でもあった。

 彼女は筋がいいので、それではきてしまうだろう。


 しばらく様子を見ていたが、彼女はすでに剣と魔法を組み合わせて戦っている。

 このエリアの敵には、すっかりれてしまったらしい。


 予定よりもレベルは低いが、素材集めに出掛けても問題なさそうだ。


「アンデッドのいるエリアに行くけど、準備はいい?」


 敵は気持ち悪いけど――俺がたずねると、


勿論もちろんよ☆ 問題ないわ!」


 とアメジストは答える。どうやら、スプラッター系は平気らしい。

 リアルさがVRMMOの長所であり、短所でもある。


 内心では苦笑しつつ、俺は彼女の言葉を信じることにした。

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