第6話 これが私の新フォームよ!


 VRMMORPG〈ロストプラネット・サーガ〉。

 このゲームにけるプレイヤー同士の共通の目的――


 それは『二千年後に世界が滅ぶ謎を解明する』というモノだ。

 かつて日本で流行った家庭向けファンタジーゲームの内容と一緒である。


 では、それがどうして宇宙人にも人気があるのか?

 この広い宇宙。当然、彼らの姿形は様々だった。


 そのため『カメを踏んで倒す』『色をそろえてスライムを消す』などのゲームは――異星人に対する差別だ、虐待ぎゃくたいだ――とさわぐ団体がいるらしい。


 くして、宇宙のゲーム文化はすたれてしまった。

 星間交流というのは非常にデリケートなようだ。


 だが、それで『ゲームをしたい』という欲求をおさえられるモノではない。

 なんとか面白いゲームをプレイしよう!――と画策する。


 その抜け道として――過去の地球のゲームで、現地人が作っている――という建前が必要だった。新しく作る場合は問題だが、昔からある物なら仕方がない。


 それが地球の文化であるのなら保護しなければいけない――という理論のようだ。

 バカバカしいが、それがまかり通ってしまっている。


 しかし、地球人にとっては有難ありがたい状況だ。

 宇宙人の数は億ではない。兆という単位である。


 現在、地球はゲームバブルの真っ只中というワケだ。

 地球崩壊の知らせと共に、宇宙人によってもたらされた技術。


 どういうワケか、日本人はそれをゲームに転用する。

 それが他国と日本の運命を大きく分けることとなった。


 VRMMOの世界が現実以上のモノとなったワケだ。かつての日本人は世界の救済よりも、ゲームやアニメ、ロボットに夢中だったらしい。


 日本には捨てられた世代があった。日本政府は彼らを救済することはしなかったのだ。それどころか消費税を上げ、年金の支給開始年齢を引き上げた。


 だからこそ、彼らは未来に絶望し、趣味に走るしかなかった。

 しかし、それは思わぬ事態を引き起こす。


 『日本のゲームは宇宙一』現象である。

 多くの宇宙人たちが地球の――日本のゲーム――に注目したのだ。


 今やSNSのフォロワー数は一兆人の時代である。

 未開の惑星ほし『地球』。その文化を守るため、ゲームを作ることを許可された。


 何様なにさまのつもりだ?――という話だが、それほどまでに宇宙の人権問題はきびしかったのだ。


 星間戦争など始まれば、被害は想像を絶する。

 一度、始まってしまえば月日は優に百年を超えるだろう。


 しかし、それを警戒し、取り締まり続けるワケにも行かない。

 ガス抜きは必要だ。だからこそ、人々に娯楽を与える意味もあった。


「見て、クロム! これが私のニューフォームよ!」


 アメジストはそう言って、俺の前でクルリと回り、嬉しそうに微笑ほほえむ。

 彼女は無事、『ネクロマンサー』へとクラスチェンジすることができた。


 正直、まだレベルが低いため、その姿は『魔法使い』の基本的な初期装備と変らない。しかし、彼女の笑顔を見ることができただけでも、十分と言える。


 斬り落としても、ってくるゾンビの腕。

 身体からこぼれ落ちても、紫の体液と異臭をき続ける臓器。


 これだから、VRMMOのアンデッドは嫌なのだ。


(まあ、ネクロマンサーの台詞セリフではないか……)


「ああ、似合っているよ……」


 可愛い――と俺は答える。

 漆黒の長い髪に桃色ピンクを基調とした外套マント


 つばの広いとんがり帽子もセットでそろえたようだ。

 持っている杖は初心者用の杖だが、性能はかなりいい。


 運営側が初心者のために用意しているアイテムの一つで、冒険者ギルドの昇格試験で手に入れることができる。


 基本クラスである『ファイター』、『スカウト』、『メイジ』、『ヒーラー』向けの装備やアイテムが用意されていて、試験合格の際、選ぶことが可能となっていた。


 魔法使い系の場合、序盤はこの杖で問題なく冒険が進められるだろう。

 また、独特のデザインのため、使っていると愛着がくようだ。


 大きくハートを取り入れたファンシーなデザイン。

 中堅どころとなってもカスタマイズして、使用しているプレイヤーもいる。


(どう見ても、子供の玩具おもちゃなんだが……)


 明らかに女児向けアニメで使用されているような形状をしていた。

 恐らく、女性プレイヤーに対し、配慮しているのだろう。


(女性が来ないコミュニティは長持ちしないからな……)


 コミュニティ的にもそうなのだが、女性の数により、広告収入も限られてしまう。

 つまるところ、男ばかりではスポンサーが付かないのだ。


(エロ関連のスポンサーは別だけれど……)


 それだと、余計に女性プレイヤーが離れていってしまう。

 お金を回すうえでも、買い物をしてくれる女性の存在は必要不可欠だ。


 また、女性プレイヤーが少ない場合、サークルクラッシャーのような『オタサーの姫』が現れて、コミュニティが崩壊する恐れもある。


 そして、放って置くとネカマが量産される。

 果たして、そんなゲームを誰がするのだろうか?


 くして――女性プレイヤーの獲得が命運を分ける――それがVRMMOなのだ。


(まあ、女性プレイヤーが増えたら増えたで、別の問題も発生するけど……)

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