第4話 じゃあ、手を繋ぎましょう♪


「じゃあ、装備と所持品アイテムを確認して」


 俺の言葉にしたがい、アメジストはステータス画面を確認する。

 見た目で分かってはいたが、彼女に初期装備と所持品アイテムはない。


 どうやら、チュートリアルを行わなかったようだ。

 まずは所持金で装備を整える必要がある。


「服と靴しかない……」


 しゅん――とした様子でアメジストはつぶやく。

 恐らく『旅人の服』と『皮の靴』といったところだろう。


 これは一から教えなくてはいけないようだ。


「所持金があるだろ? まずはそれで装備と回復アイテムを購入しようか……」


 このままではモンスターとの戦闘で、すぐにやられてしまう。


「分かったわ」


 とアメジスト。どうやら、自分がなにか間違えてしまったのだと思ったようだ。

 その心配はないことを伝えると、すぐに笑顔を浮かべた。


 まずは武器屋で武器を購入するのがいいだろう。

 素直なため彼女にアドバイスをするのは、そう悪い気はしなかった。


「じゃあ、手をつなぎましょう♪」


 迷子になったら困るモノね☆――と手を差し出す。

 既にパーティーを組んでいるので、その心配はない。


 けれど、俺は黙って彼女に従うことにした。

 最初は別の目的があってゲーム会社で働くことを選んだ。


 だが、今では――ゲーム関係の仕事をするのも悪くない――と思っている。

 気が向いた時には、こうやって初心者相手にゲームを教えたりもしていた。


 今、俺が使っているアバターは黒マント姿の黒髪の青年だ。

 アメジストの容姿を考えると、他人からは兄妹のように見えるのだろう。


 心做こころなしか、NPCである店員が微笑ほほえましいモノを見るような表情を浮かべている気がした。


 このゲームは現実の容姿に近い姿が自動で設定される。

 キャラメイクに時間を掛けたくなかったため、あまり変更はしていない。


 年齢や身長、髪や瞳、肌の色や体型、性別も変えられる。

 だが、顔を隠せば、身バレすることもないだろう。


 そもそも、知人は俺がこういう仕事をしているのを知っている。

 そのため、あまり隠す意味もない。


「ねぇ、クロム……次はなにをすればいいの?」


 とアメジストが質問してくる。

 武器は『ショートソード』、防具は『皮の鎧』という基本装備だ。


 回復用のポーションも二つ購入した。

 色々と説明したいことはあったけれど、


「早速、街の外に行ってモンスターと戦ってみようか?」


 俺のその言葉に、


「ええ、分かったわ!」


 と彼女は瞳をかがやかせる。待ってました☆――という反応だ。

 早速、買った武器を試してみたいのだろう。


(説明するよりも、体験してもらった方が早いか……)


 翻訳機能を使っているためか、会話のテンポがズレるのは、ご愛嬌あいきょうである。

 今日の俺は彼女の引率兼護衛ボディガードだ。


 自由度の高いゲームゆえに、この世界ではPKが可能となっている。

 ペナルティがあるため、横行はしていない。


 だが好んで、そんなプレイをする連中もいる。よって、初心者は申請すると運営側が手配したプレイヤー、もしくはAIにサポートを頼むことができた。


 雑談から、アメジストは黒髪に憧れていたようだ。

 彼女自身のキャラも黒髪にしているのは、そのためだろう。


 俺にご指名が入ったのも――黒髪キャラだったから――かもしれない。

 一緒にいて確信を持ったが、アメジストはまったくの素人のようだ。


 そんな彼女がなぜ、わざわざ地球のゲームをしようと思ったのか、分からない。

 しかし、その質問をするのは、もう少し仲良くなってからの方がいいだろう。


 俺はアメジストを連れて、街の周辺で弱いモンスターを狩ることにした。瞬間移動を行うと、手をつなぐ必要がなかったことに彼女は今更ながら気付いたようだ。


 顔を真っ赤にする。その様子を可愛らしいと思いつつ、戦闘について簡単に説明した。彼女は呑み込みが早いらしい。


「えいっ!」


 掛け声と一緒にアメジストが剣を振り降ろすと、モンスターが真っ二つになり消滅する。現実世界リアルでの運動神経がいいのだろう。それはゲームの世界にも反映された。


 経験値が手に入り、魔結晶に魔力が溜まる。

 お金は落とさないので、当面は魔結晶に溜まったポイントがお金の代わりだ。


 後は一定の確率でドロップ品が手に入るのを待つしかない。

 冒険者ギルドで依頼を受けられるようになるまでの辛抱しんぼうだ。


 それよりも、序盤は見た目が可愛いモンスターが多い。

 倒すのに抵抗があるのかも――と思っていたが大丈夫なようだ。


 遠目に見えている分には、女の子が動物とたわむれているようにしか見えない。


「モキュモキュ!」「プイプイ!」


 とデフォルメされたウサギとネズミの中間のようなモンスターと丸い球体の半透明のモンスターが彼女を囲むが、素早く切り返し、あっという間に退治してしまう。


すごいじゃないか!」


 素質があるかもね――と俺はアメジストをめる。

 初心者はれない仮想空間ではうことも多い。


 自由に動ける彼女は十分に見込みがあった。

 コミュニケーションも問題ないようだ。


 AIのように気の利いた案内ナビは俺にできない。

 そのうえ、文化の異なる宇宙人の女の子だ。


 上手く会話できるのか不安だったが、その心配は要らなかったらしい。

 そもそも、彼女のようなプレイヤーはゲームが上手くなるよりも、交流を目的としているのだろう。


 改めて――俺なんかで良かったのか?――と疑問に思ってしまった。

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