番外編 

鋒山男子剣道部のある悩み事

「なあ、俺ってモテてるんじゃね?」


 それはある放課後のひと時であった。

 ある鋒山学園高等部の剣道部1年生3人は、帰りの電車に乗っていた。

 そアナウンスとともにドアが閉まったとき、3人のうちの1人は言った。


「は?」


「だって、この間先輩たちと歩いてると、女子がやたら見てくるんだよ、俺もとうとうモテ期だな」


 照れ臭そうに胸を張る彼を見て、他の2人は溜息をついた。電車の走行音をかき消せるような大きな溜息である。


「お前、それはお前じゃなくて先輩を見てるんだ」


「おおかた、2年の先輩だろ?」


「え?」


「2年の誰だ?」


「日野谷先輩だよ、あの人と廊下で会って一緒に部活に行ったんだ。そのときに……」


「お前、よりにもよって日野谷先輩かよ」


「あの大手芸能事務所からスカウトされたっていう伝説の男じゃん」


「でも、安海先輩と一緒のときだって……」


「あのファッションセンス抜群のオシャレ系イケメンね」


「なんでも着こなすスタイリッシュな人だよな」


「でも、織田先輩と一緒にいたときも……」


「運動神経抜群な爽やかイケメンか」


「ウチの剣道部の中で一番熱血の人だな」


「水戸先輩だって……」


「あの年上にモテるカワイイ人だろ」


「最初に見たとき、女子マネかと思って1年全員テンション上がってたよな」


「着替えるとき、同じ部屋で着替えはじめて1年全員凍り付いたやつだ」


 ガクっとうなだれる少年、他の2人も少し哀れに思えてきた。

 なんせ、自分たちの1つ上の先輩は、やたらイケメンと美少年揃いなのだ。

 彼らと一緒に歩いていると、やた女子がキラキラとした目で自分たちを見てくる。

 しかし、残酷なことに彼女らは先輩を見ているのだ。

 こういった残酷な勘違いを産んでしまうことがたまにある。


「フフフ」


 うなだれていた少年が突然笑い出した。


「どうした」


「とうとうおかしくなったな」


「甘いぞ! お前ら!」


「何が?」


 突然笑い出した彼に他の2人は怪訝な顔をする。


「俺はあの黒華怜也先輩と一緒に歩いていたときも女子に見られていたんだ! 俺にモテ期が来たことは事実だ!」


「お前、あの怜也先輩かよ」


「そうだ! あの毒舌、不愛想、根暗の3拍子揃った怜也先輩だ!」


「いや、あの人も結構モテるぞ」


「不愛想だけど、なんだかんだで優しいし」


「俺もたまに部活でアドバイスもらうぞ」


「だ……だけど、あの人は……」


「おまけにロシア人とのクォーターだし」


「銀髪の美少年で性格もいいほうがなんか気持ち悪い」


「あの人結構義理堅いところあるし」


「世話になった先輩のいうことは聞くよな」


「バレンタインのお返しにロシアの高級チョコあげてぜ」


「しかも、チロルチョコあげた女子にもそれあげてたし」


「『貰ったままなのは癪だから』って言ってたよな」


「そのチロルチョコあげた女子は泣いてたぞ」


「マジか……」


「まあ、何はともあれ、お前がモテることはない!」


 少年の希望はバッサリ切り捨てられた。


 この会話はどこにでもある男子高校生のバカ話であった。


 そしてそのバカ話は彼らの家の最寄り駅に着くまで続くのであった。

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サムライ青春物語 紫飴 @Kuroamechan

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