デートの終わり

「まさか、玲奈が元ヤンなんて……」


 哲司が落ち込んだように言った。

 ここはハンバーガーショップだ。彼らはここでデートの反省会という名の集まりをやっている。


「中学時代、東京でブイブイ言わせてた不良だったとは」と陽真

「それも西東京を制したチームの女王だったなんて」と怜也

「女王……」と宗太郎

「まあ、デートは上手くいったみたいで良かったじゃねえか」


 優人が慰めるように言った。


「はあ……」

「かっこよかったぜ」

「さすが男の中の男だな」

「『鉄人』と呼ばれた男は違うねー」


 彼女の思いもしない過去を知ってショックを隠せない哲司。


「なあ怜也。お前って『悪童』って呼ばれてたんだろ? 彼女について何も知らなかったのか?」

「それは剣道界での異名だから。知るわけないじゃん」

「さすがの『鉄人』もこのショックには耐えられないか」


 陽真が冷静に分析する。


「にしても俺らの異名って中二くさいな」


 優人がうんざりした表情だ。


「怜也が『悪童』、哲司が『鉄人』、陽真が『王子様』、宗太郎が『魔術師』、そして俺が『プリンス』だな」

「『韋駄天』だから」

「しかも陽真とカブってるし」


 怜也と宗太郎からツッコミを受ける優人


「そういえば……」


 陽真の言葉に一同が振り向く。


「明日……合宿について発表されるらしいな」

「ああ、他校との合同合宿か。 この間先輩が言ってたな」

「それなんだが、女子と合同でやるらしいぞ」

「は?」


 陽真からのカミングアウトに一同は目を見開く。


「こういうのは男子どうしでやるんじゃないの?」

「それが……よく分からないんだ」

「どういうこと?」

「関西の女子校との合同合宿が行われるらしい」

「それって去年は無かったよね」

「一緒にやってほしいって麻美ちゃんが向こうに頼まれたんだって」


 麻美とは鉾田高校剣道部の顧問である。若い見た目とは裏腹に鋒山学園の剣道部を引っ張る名将である。


「その高校の名前は?」


 宗太郎は落ち着いた声で言った。


「豹宮女子高校」

「それって」

「かなり有名な進学校だね」

「お嬢様学校じゃねえか?」


 豹宮女子高校は関西にある女子校だ。かなりのお嬢様学校として有名な高校である。


「俺らも選ばれるかもな」

「宗太郎は確実だろうな。スタメンだったし」

「宗太郎と哲司は確実だね」

「怜也と陽真も補欠だからワンチャンあるかもな」

「女子高か……」

「ちょっと楽しみだな」


 優人はどこか期待したような表情だ。しかし、


「今年の合宿は地獄になりそうだね」

「なんだよ、怜也」

「この前先輩から聞いたんだけど、豹宮女子高校の剣道部って最近急成長してるらしいよ」

「お遊びの合宿ってわけじゃないだろうな」


 陽真の言葉に優人は溜息を吐く。


「お前らなあ! 男子高校生だろ! もっとはしゃげよ! 女子校と合宿なんて人生でそうそうないぞ!」

「優人……お前は強豪剣道部の部員という自覚を持て」


 陽真がツッコむ。


「ふん!」


 優人は頼んでいたポテトを頬張る。


「まあ分からないことだらけだけど……新しい友達できるといいな」

「宗太郎、オレは合宿キャンセルしたい」

「それは無理、諦めてよ怜也」

「まあ、まだ参加できると決まったわけじゃねえし、重く考えても仕方ねえな」


「そういえば哲司……この間のデート以来彼女とはどうだ?」

「ああ、なんとかうまくやってるよ」

「それは良かった」


 陽真は微笑むとアップルパイを頬張る。彼の大好物だ。


「じゃあ今日は哲司のデート成功を祝して……」


「かんぱーい!」


 各々が注文したドリンクを掲げた。乾杯の音頭はハンバーガーショップにかなり大きく響いた。


***


「はーい、今日の練習はここまで!」


 豹宮女子高校の道場で若い女の声がに響き渡る。今、一同は掛かり稽古と呼ばれる稽古に取り組んでいる。


「ふう、きっつー!」


「お疲れー」


 女は面を取る。すると、金色の髪が道場の明かりをキラキラと反射する。目の色も空のように青く、異国の血を感じさせる。


「それじゃ、片付けよっかー」


「私はもう少し練習していきます」


 金髪の少女の言葉に隣の部員、水野は驚いたように目を見開いた。


「良くやるねえ」


「今度、彼との合宿があるさかい、気引き締めていかんと」


「確か、鋒山学園高校だっけ」


「ええ」


「あそこの剣道部ってイケメンと美少年ぞろいらしいよね、楽しみ~」


「先輩、本音ダダ漏れやで」


 金髪の女は苦笑する。


「だってアタシらって女子校だし、イケメンと美少年が来るなんて嬉しすぎるよ」


「水戸宗太郎って子には手を出さんといてください」


「あっ、それってこの間言ってた子? すごい美少年なんだって?」


「ええ」


「そうなんだ~ 楽しみだな~」


「でも気をつけたほうがええで、あの子はバケモンやからなあ」


 金髪の少女はそういうと窓の外を見た。


 汗の匂いが漂う道場に爽やかな風が吹く。


「会うのが楽しみやなあ、宗ちゃん」


 金髪の少女はうっとりとした表情でつぶやいた。


 






 

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