逢引き

ハンバーガー屋での会議

「最近、2年の活躍すげーよな」


 鉾山高校の武道場、男子剣道部の更衣室の中。そこで、剣道部の3年たちが、着替えながら話していた。1年と2年は、今日模試の関係でいない。

 今日、正式な部活動はない。しかし、3年生たちはこれで最後のインターハイである。彼らは今日、自主稽古に励むために着替えているのだ。


「ああ、なんたって全中制覇の水戸がいるからな~」

「あと、個人で全国ベスト8に入った日野谷と黒花、織田がいるぜ」

「安海も中学んときは団体で全国出てたんだろ」

「あいつら、きつい稽古にも根を挙げずによくやってるよ」

「あいつらがいるんなら、来年のインハイも安泰だな」


 先輩たちは、そんなことを話しながら、袴に着替えている。部室の中は少し汗臭かった。



***


「まだ全員揃わねえのか?」

怜也れいやがまだ来てないな」

「あいつが時間に余裕をもってくるはずねえだろ?」

「それにしても呼び出しなんて珍しいね。しかも、バクドナルドになんて」


 ここはバクドナルド。お手頃な価格でおいしいハンバーガーが食べれると人気の店である。そこに、4人の男子高校生たちがテーブル席に座っていた。彼らは、テーブルに各々頼んだハンバーガーなどを置きながらしゃべっている。


「ごめん、お待たせ」


 そこに、もう一人の男子高校生が挨拶をする。その高校生は銀髪碧眼、色白の肌の美少年だった。宗太郎とはまた違ったタイプである。


「おう、時間ぴったりだな」

「それで、話って何? 哲司?」


 黒花くろはな怜也れいやは、宗太郎の隣の座る。宗太郎の隣には茶髪の青年、安海やすみ優人ゆうと。優人の向かいには、日野谷ひのたに陽真はるま。陽真の隣には織田おだ哲司てつじ

 彼らは鉾山高校男子剣道部の2年生である。同じ部活ということもあってか、何かとつるむことが多い。


「そうだよ、話ってなんだよ、哲司」


 そういうのは安海だ。他の3人もハンバーガーを齧りながら、哲司のほうを見る。


「ああ、お前らに相談があるんだが? 聞いてくれるか?」


 哲司は深刻な表情で他の4人の目を見る。


「聞くだけ聞く」


 ぶっきらぼうに答えるのは怜也だ。


「俺に彼女ができたって話はしたよな?」


「おう、知ってるぜ。おめでとう」


 ぱちぱちと拍手する優人と宗太郎と陽真の3人。一方、怜也は興味ないと言いたげにMサイズのコーラを飲む。


「大事にしろよ」


 拍手を終えた陽真はそう言いながらポテトをつまんだ。


「ありがとうな、お前ら。お前らも彼女作れよ」


「俺はモテないから無理」と陽真。

「僕も彼女はいいかなー」と宗太郎

「オレ、女にトラウマあるから無理」と怜也。

「俺は今そんな気分じゃねえからいいや」と優人。


 去年のバレンタインにチョコレートを大量に貰った4人の言葉である。


「……まあいい。お前らに相談ってのは俺と彼女についてだ」


「ああ、あの弓道部の女子か」


 優人は納得したようにうなずく。


「それってどんな子?」


 怜也が聞く。


「結構美人だったぜ」


「美人の彼女とか羨ましいわー」


 陽真の言葉に哲司は照れ臭そうに笑う。


「ああ、A組の桃里さんだよね。その子なら僕も知ってるよ。1年のとき同じクラスだったから」


 宗太郎はハンバーガーの包み紙を丁寧に三角形に折り畳みながら言った。


「惚気話ならオレは帰るよ」


 怜也が冷たく言い放つ。


「まあまあ怜也。聞くだけ聞こうぜ。もし惚気話ならポテトをこいつの鼻に突っ込むからさ」


 哲司を指さして、そういうのは優人だ。


「違う! 話ってのはデートについてだよ!」


 思わず哲司が叫んだ。


「デート?」


 宗太郎が繰り返す。


「そうそう。俺たち付き合って一カ月くらい経つんだけどさ……そろそろデート行くかって話になったんだよ。でも、どこに行けばいいかわかんなくてさ」


「それで俺たちに相談か?」


 陽真はポテトをむしゃむしゃと頬張りながら言った。


「お前らって女子にモテるし、何かいい場所の一つや二つ知ってんだろ? 俺、この町に来てまだ1年なんだよ」


「そういえば哲司って東京から来たんだったな」


「そんなもん、海の見える公園とかでいいじゃん。優徹町は自然が豊かだし。海沿いの商店街にはレストランもあるからそのあたりでいいんじゃない?」


 面倒くさそうにしながらも、意見を出す怜也。


「いや、ちゃんと彼女の意見も聞いたほうがいいぞ」


「もし彼女がインドア派なら映画館とかがいんじゃないか?」


「水族館も静かでいいよね」


 他の3人も意見を出す。それらを手帳にメモする哲司。こういったやりとりが10分ほど続いた。

 哲司は、ルーズリーフにデート計画を書き込む。スマホでデートスポットを検索しながらも、彼らは見事デートプランを完成させた。


「お前ら、デートの経験あるのか?」


「オレは姉ちゃんと」


「僕も同じく」


「俺は小学校のときが最後だな」


「俺はない」


 デート経験皆無の男子高校生が作り出したデート計画。

 哲司はルーズリーフを見て、なんとも言えない頼りなさを感じた。


「まあ、いい。今回のデートが成功するかはお前たちにかかっているからな」


「自分のデートの命運、勝手に握らせないでよ」


 怜也は迷惑そうに眉間にしわを寄せる。

 宗太郎はふと、周りを見る。自分たち意外にも、ぞろぞろと高校生たちが小腹を満たすためにこの店にやってきていた。


「まだ、道場空いてるよね」

「あ、俺も自主練するわ」

「俺も」

「僕も行くよ」

「俺は来週のデートに備えて早く寝るからいいわ」

「早えんだよ備えるの」


 哲司に優人がすかさず突っ込む。


「すまん、でもやっぱり用事あるからパスで」


 一同は店の前で解散すると、哲司以外の4人は体育館へ向かった。


「先輩たち、まだ稽古してるよな」

「僕たちも行こうよ」


 宗太郎を先頭に、一同は道場へと走り始めた。

 優徹町の太陽はまだ沈まない。




 

 


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る