第8話 最奥


 その一家の名前を、アストラファミリア。

 この街、クレストを支配する裏の一家である。


 マフィアとしての特性を持つ彼等は、この世界の裏の支配者として名を馳せる。


 それが、ボルフの後ろに居た組織の名前。

 この街で彼等に逆らう者など居らず、そもそも名前を知る者も少ない。

 俺自身、冒険者になる前はそんな組織が存在している事すら知らなかった。


 街を守る第四騎士団はこの存在を知って居ながら黙認している。

 それは、当然第四騎士団の堕落も原因だ。

 しかし何よりも、アストラファミリアの持つ力だ。


 S級魔術師3名。

 A級魔術師12名。

 その他、B級以下魔術師2000人以上。


 ボルフは彼等にとっては末端も末端。

 ただ、この街で表向きの顔として利用されていたに過ぎない。

 この街を牛耳っているのは、事実上彼等だ。


 本来、悪が蔓延った場合に王都から救援を求める筈の貴族は既に彼等に与している。

 故に、この街の平穏は薄氷を履むが如し一瞬の物だ。


「オークロード。

 ソウルクイーン。

 ハイドラゴン。

 アークデーモン。

 デビルサウルス。

 セイントハーピー。

 アイアンワイバーン。

 大毒蛇オロチリュウ


 婆さんが、モンスターの名前を読み上げていく。

 それは、俺がこの一月で倒した魔物たちだ。

 誰も達成できる人間が居ない、かつ緊急性の無い対象。

 そんな腐った依頼は安値で取引される。


 婆さんにはそれを買い取って貰い、俺に卸して貰った。

 そして、その達成履歴を王都にある冒険者ギルド本部に送信する。

 返事を待つ事一週間。


「その討伐を認め、ハーベストをAランクギルドとして認める。

 これでアンタの目的は達成かい?」


「あぁ、やっとだ」


 Aランクはこの街では最高峰のギルドだ。

 Sランクギルドは王都に3つあるだけ。

 この街には一つも無い。


 しかし、アストラファミリアはSランクギルドに相当する戦力を持っている。


「まさか、アンタの狙いがアストラファミリアだとはね。

 あそこと関わらないのが、冒険者がこの街で生きていく方法。

 そう教えたハズだけどね」


「悪いな婆さん。

 あっちが敵対して来るんだから仕方ねぇ。

 泣き寝入りは御免だ」


「そうかい。

 だったら好きに暴れればいい。

 アタシだって生い先短い命だ。

 最後くらい、奇麗な花火が視たいモンだよ」


「見せてやるよ。

 この街がひっくり返る様を。

 このギルドが、世界一のギルドになる所を」


「期待してるよ。

 けど、まぁ無理はしなさんな」


 俺はハーベストを後にする。

 向かうはボルフから聞き出した、マフィア共の根城。


 ◆


 それは、とある酒場の地下にあった。


「あん?」


 ガラの悪そうな連中が飲み明かす酒場。

 やけに繁盛している。

 その一角には、下へ続く階段がある。


 その通路へ真っ直ぐ進んだ。


「おい坊主、ここは通行禁止だ」


 階段に入る通路に立ち入る前に、大柄な男が二人、俺の前を塞ぐ。


「お前らは……」


「あぁ? 俺らはなぁ」


「あぁ、知ってる。

 お前はゴンズ、B級冒険者で薬を若い冒険者に流すのが仕事。

 そっちはゾレア、C級冒険者で仕事は依頼人の貯蓄を探る事」


 どちらもクズだ。


「だからって訳じゃねぇけど。

 死んでくれ」


 アストラファミリアも多くの人間を殺して今の地位を築いた。

 それを壊すのに、自分の手を染めないまま奇麗に実行するなど無理のある話だ。


 所詮人は、気に入らない存在を罵る事で我欲を満たしている。


 リベリオンが火花を散らす。


 バン、バン。


 二発の銃声と同時、男たちは倒れ込む。

 狙うは心臓。

 この距離で、外しようもない。


 鮮血が舞って、同時に客たちが立ち上がる。

 俺に向けて臨戦態勢を取る。

 流石にマフィア、物怖じもしないし判断はそれなりに早い。


 しかし。


 バン、バン、バン、バン、バン、バン。


 俺が引き金を引くよりも速く反撃できる物は居ない。


「なんだよこれ!」


「待ってくれ! やめてくれよ!」


 怒声は悲鳴に変わって行く。

 身体を何かに隠した臆病者だけが生き残る。

 魔法を使おうとした物は、使う前に射殺される。

 反撃と接近した物は、剣が届く範囲に近づく前に射殺される。


 吐き気を催す惨状だ。


 それでも、俺は引き金を緩めない。


 ミレイとミレイの家族を救う為だけに30人近く殺した。

 この殺人に意味はあるのか。


 あるさ、誰だって心のどこかで思ってる。

 俺の願いさえ叶えば、他人の願いなどどうでもいい。


 カチ。


 銃弾が止む。

 全て打ち尽くしたらしい。


「魔力切れかァ!?」


 酒場に居た客の一人が、好機と見たか飛び掛かって来る。


「ライトニング」


 魔法の詠唱にはある程度の集中が居る。

 魔力を高める時間も居る。

 銃を撃つだけなら、並行して術の詠唱を行える。


 俺は冒険者で、魔術師だ。


 リロードの隙は魔法で潰す。

 銃を使うからって、魔法を使わないなんて事もない。


「ガッ……!」


 飛び掛かって来た男が、体から煙を吹きながら地面に落ちた。

 その腹には雷が通って空けた穴があった。


 静かになった酒場を後にして、俺は階段を下りていく。


 俺には特技がある。

 その特技があったからBランクになれた。


 魔力に対する高い感知能力。

 故にこそ、逃げる事で勝ち残って来た。

 俺より強い相手とは戦わなかった。


 そして、銃撃戦に置いて最重要なのは索敵だ。


 敵の場所さえ分かれば、相手は殺せる。

 それが銃の性能。

 それは、俺と非常に相性が良い。


「使い魔召喚、ウィル・オ・ウィスプ」


 地下には部屋が多く存在した。


 炎の精霊を召喚し、探索範囲を広げる。

 炎の精霊は俺と視界を共有している。

 更に、多少の炎魔法が使えるので扉の鍵を溶かして部屋に入る事ができる。


 炎を使う魔術師は火力を求められる。

 つまり、攻撃力だ。

 しかし、俺にはそれは最低限しか無かった。

 子は親に似る。

 何度言われた事か。


 けれど、今はそれでいいとさえ思う。

 炎を操る術とは、つまり燃焼した状態の炎も操ると言う事だ。

 何かに火が燃え移ったとしても、それを操作すれば消化もできる。


 魔力操作の精密性に関しては、俺はそれなりに上手い。

 何せ、攻撃力が無かったからそれを磨くしか無かった。


 ボルフの時は、殴られて集中できなかったから消化は不可能だろうと諦めた。

 それに、もし親父の研究が燃えればそれを復元する事はできない。


「はぁ……」


 溜息を吐く。


「死ねぇ!」


 同時に、襲い掛かって来た男を


「うっ……!」


 撃ち抜く。


 ウィルオウィスプが最奥に少し大きな部屋を見つけた。

 鍵穴から中を覗くと、女を侍らせた如何にもという男がいる。


 アストラファミリア当主。

 アストラ・リーベルト。


 ボルフに聞いた特徴と合致する男だ。

 小太りで、剥げていて、装飾品が多い。

 何より、常に女を侍らせている好色家。


 アストラ・リーベルト以外は、女が数人。

 それと何人か男がいる。

 護衛か?


 いや、男たちの一人。

 魔力量が尋常じゃない奴がいる。

 隠さず漏らしているのは強者の余裕の表れか。

 それとも、他者への牽制か。


 間違いない。

 S級魔術師だ。


 ボルフに聞いたアストラの情報。

 毎日のように、夕方から夜はこの店で女遊びに励んでいる。

 本当だったらしいな。


 今更、S級にビビるか。

 ここまで来たのはあの男を殺すためだ。


「動くな……」


 そう言って、俺は大部屋に踏み入った。

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