第38話 人体模型

 自分が人体模型みたいになっている写真を見せられて、楽しい気分になる人はいないだろう。

 僕だってそうだ。

 けど、嬉々として僕の人体模型写真を眺めている殺雨あやめは、可愛いなと思ってしまう。

 僕、歪んでるかな? まぁ、歪んでるよね。知ってる。


「夜謳を解体するのもいいんだけど、たまには女の子も解体してみたいよね」


 横たわる僕を椅子代わりにしつつ、スマホを眺める殺雨が物騒なことを言い始めた。これは聞き捨てならないぞ?


殺雨あやめ……。僕以外を解体したらダメだよ? 生皮を剥ぐとか、内蔵を一つ一つ取り分けるとか、本当はやっちゃいけないことだからね?」

「わかってるって。言ってみただけ。夜謳だって、女子更衣室覗きたいとかも思うだけなら思うでしょ? でも、だからって実際にはしないでしょ? あたしも夜謳以外を解体なんてしないから大丈夫」

「……やっちゃいけないことでも、したいと思うまではセーフだな」

「そーそー。まぁ、『不死』スキルか、『超再生』スキルみたいなの持ってたら、交渉はするかもね。……あ、月姫華狩って、人喰い吸血鬼だったよね? もしかして、普通なら死んじゃう程度の傷でも、軽く治せたりしちゃわない?」

「……酷い怪我をしたことがないからわからないけど、華狩の解体なんてさせないよ」

「えー、残念。女の子の子宮とか卵巣とか、取り出してみたいのになぁ」

「……本当に、思うだけにしてくれよ?」

「わかってるってば。心配性だなー」


 殺雨のことも、あまり一人で放置しておくわけにはいかないんだよな。なるべくこちらからも連絡を取って会いに来よう。


「にしても、今日も楽しかった! 夜謳、付き合ってくれてありがとね!」

「有料だけどねー」

「わかってる! 五万円ね!」

「毎度ありー」

「……あたしの楽しみに付き合ってくれたお礼に、これからはご褒美タイム、だね?」


 殺雨がにぃっと不気味に微笑む。

 手にしていたナイフとスマホをその辺に放り出し、僕に覆い被さってキスをしてきた。

 僕に対してのご褒美タイムなのか、殺雨の火照った体を鎮めるクールタイムなのか。殺雨とのキスは、他の誰よりも静かな感じがある。ゆっくり、ねっとり、お互いの輪郭を確かめるような絡み合い。

 一度唇を離すと、殺雨は艶めく笑顔で尋ねてくる。


「夜謳ってさー、あたしのこと、好き?」

「うん。好きだよ」

「それって、恋なの?」

「んー、たぶん」

「そっか。あたし、夜謳とエッチするの好きなんだけど、あたしって、夜謳のことが好きなのかな?」

「それは、僕にはなんとも。恋愛感情と性欲がセットになっている人もいるし、そうじゃない人もいるし。どちらが正しいってことはなくて、どっちも人として普通のありようだと思うな」

「恋って難しいね。あたし、夜謳を好きだけど、恋してるかは今でもわからないや」

「そういうこともあるさ。恋をしないと生きていけないわけじゃないし、明確にしなければならないわけでもない」

「そだね。はぁ……夜謳を解体してるときから、ずっと濡れっぱなし。すぐに入れていい?」

「僕としては、大歓迎だよ?」


 殺雨がごそごそと下着を脱ぎ捨てる。僕と違い殺雨は服を着たままだから詳細は見えないのだが、スカートで隠れた状態で下着を脱いでいる姿もまた良き。

 そして、殺雨はフリルのついた黒い下着を僕に見せつけて、クロッチ部分のシミを指でこねる。


「舐める?」

「お、いいね。是非是非」

「バーカ。そんなことさせてあげなーい」

「ご無体な……」

「そんなに舐めたいの?」

「舐めたい!」

「あはは! 本当にバカ! でも、舐めるなら、下着より直接がいいんじゃないの?」

「それは、もちろん」

「あはっ。でも、ダメー。早く入れたいからっ」


 殺雨が僕の先端を掴む。そのまま自身の中に取り込もうとするものだから、待ったをかける。


「もう高校生なんだから、避妊はしっかりしなさい」

「えー? 今日は大丈夫な日だよ?」

「だとしても、日頃からちゃんと気をつけないと」

「むぅ。生のエッチも経験してみたいんだけどなー」

「……本気でそのつもりなら、ちゃんと知識を身につけて、対策もすること」

「はーい」


 話している間に、僕は避妊具を装着。


「ぷふっ。男の子がそれつけてるとこって、なんか笑っちゃうよね」

「そう言うなって」

「はーい。それでは、今度こそ!」


 僕にまたがった殺雨が再び先端を掴んで、自分の中に導いていく。

 うっとりと息を吐く殺雨の姿に興奮し、今日のご褒美を存分に堪能し始めた。

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