第36話 毒蒔殺雨
暇さえあれば華狩とイチャラブして、鳳仙花さんは相変わらず僕を殺せなくて、闇咲は特に変わりなく、平穏な数日を過ごし。
ゴールデンウィークで連休中の五月の初旬。
僕は、一ヶ月ぶりくらいに
「ふぅん。夜謳がついに女の子とどーせーするんだ。へー」
きぃ、とデスクチェアの背もたれを鳴らしつつ、興味なさそうに殺雨が言った。
殺雨が一人暮らしをしている、ワンルームマンションの一室。まだ高校一年生である殺雨が過ごすには広々としていて、室内には主に各種刃物類が置かれている。一見すると武器屋のようだが、殺雨は武器を売っているわけではない。
全て、殺雨自身が使うもの。
殺雨のジョブは『解体士』で、自分で狩ったり、探索者が持ち帰ったたモンスターの解体をしたりしている。
年齢は僕の一つ下の十五歳で、高校一年生。ただ、年齢の割には見た目が特徴的。ロングの髪を紫に染め、唇にはピンクの口紅をさし、そして、漆黒を基調としたふりふりのドレスを着ている。
可愛らしい子なのだけれど、世間一般的には近寄りがたい雰囲気も醸し出している。
「同棲というか、ルームシェアというか、みたいな? 殺雨にはあまり興味のないことかもしれないけど」
僕はベッドに腰掛けて、髪をいじる殺雨の様子をうかがう。
予想通りではあるのだが、僕が他の子と一緒に暮らすことになったと伝えても、殺雨は特に関心を示さない。
殺雨との付き合いは、五ヶ月くらいになる。継続した交流はあるものの、狂歌などとは違い、僕に対して深い執着はない。念のため状況を伝えたが、必要なかったかもしれないな。
「あたしとしては、同棲でもなんでも好きにすれば? って感じかなー?」
「そっか。じゃあ、こっちはこっちで好きにやっておく。引っ越し先を探しているところなんだけど、殺雨の部屋は必要ないな」
「あたし、この部屋から引っ越すつもりないしー」
「だと思った。悪いね、つまらん話をしてしまって」
「好きにすればいいとは思うけどー、引っ越しても、夜謳はまたうちに来てくれるんだよね?」
「うん。そのつもり」
「それならいい。あたしは夜謳がどんな女の子と仲良くしてても気にしなーい」
「殺雨ならそう言うと思った。早いけど、本題は以上かな」
ここに来た一番の目的は達成した。あとはのんびり過ごすことになるかなー、と思っていると。
「あたしはさー、夜謳の恋人ではないし、夜謳といつもいちゃいちゃしたいわけじゃないし、解体のお仕事が楽しいし、夜謳の解体も快感だし、今の生活に不満はないんだよね」
「うん」
「ただねー。夜謳、大丈夫?」
「え? 何が?」
「何がって……。月姫華狩、鬼面狂歌、黄昏黄泉子。あと、もしかしたら鳳仙花鳴も、かな? 鳳仙花鳴は一般人だし、月姫華狩はまだ人格破綻してないかもしれないけど、一人だけでも抱えるのが大変そうな連中と、四六時中一緒に暮らすんでしょ? 夜謳、ちゃんと心の余裕、持てる?」
「あー……」
殺雨の心配も、あながち間違ってはいないとも思う。特に狂歌と黄泉子はかなり危うい精神を宿しているから、常に一緒にいるのは大変な面もある。
それに、毎日修羅場的な状況になるのも、心休まる場所がないかな。
「夜謳は死んでも死なないけどさー、心の死はあるわけじゃない? 夜謳が精神的に病んじゃったら、残された人たちが困っちゃうよ? あたしも含めてさ 」
「まぁ、確かに。僕は倒れられないよな」
「夜謳が一人暮らししてて、他の子と一緒に暮らそうとしてなかったのって、夜謳に一人の時間が必要だったからじゃないの? 一切の狂気から解き放たれて、フツーの男子高校生として過ごす時間がさ。それがなくなって、ちゃんとやっていける?」
「……うーん、大丈夫だよ、とは言い切れないかもな。今まで経験なかったし。少なくとも、僕は彼女たちと一対一で向き合う状況にしてきた。それが、同時に複数を相手にすることになると、大変に思うこともあるかも?」
「夜謳は程良くいい加減だし、自分で自分を追い込むタイプでもないとは思うけどさ、休む時間は必要だと思うよ? 気をつけてね?」
「そうだな。それは、気をつける」
一年程度の差とはいえ、年下である殺雨に心配をされてしまうとはね。
流れに身を任せてきたが、自分の精神的な安定はきちんと確保できるようにしないといけないな。僕が倒れてしまったら、僕を慕ってくれる子たちが良くないことになる。
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