第34話 面接
華狩に手を引かれ、少しばかり警戒心の滲む女子二人の元へ。
なお、僕のよくつるんでいる男子二人は、それをどこか恨みがましく見ていた。それは一旦無視。
机を二つ近づけて、四人で昼食を摂ることに。
「えっと、自己紹介からした方がいいのかな? 僕の名前、二人は知ってる?」
尋ねてみたら、
「それくらい知ってるよー」
おっとりと言うのは水鳥川で。
「クラスメイトの名前くらい、覚えてるに決まってるでしょ」
はきはきと言い切ったのは乙羽。
「……僕はまだ半分くらい怪しいな」
「えー? ひどーい」
「……あんた、他人に関心ないの?」
「僕は興味のあること以外に興味を持たないタイプだからなぁ」
「薄情者だー」
「クラスメイトの名前がわかるからって、偉いわけでもないけどさ。一年は一緒に過ごすんだし、修学旅行とかも一緒だし、名前くらい覚えておきなよ」
「りょーかい。あ、ちなみに二人の名前は覚えてるよ。華狩の友達その一と、その二」
「それは名前じゃないでしょ!?」
「完璧にモブキャラの呼び方じゃんか!」
「あ、違った?」
「わたしは
「あたしは
「おっと、失礼失礼。まぁ、知ってたけど」
「知ってて友達その一扱いとかひどーい」
「……次そんな呼び方したら殴るわ」
「おー怖い怖い。でも、こっちの身にもなってよ。あんまり二人と仲良くしてたら、華狩が怖いんだ。ほら、今も不満そうにしてる」
二人の視線が華狩に向く。
やや不満そうにしていた華狩は、さっと顔を赤らめて手をぱたぱたと振った。
「や、ち、違うから! 私は別に、夜謳が二人とちょっと仲良くしてるくらい、平気だから!」
「……かがりん」
「そこまでこの男を……」
やれやれ、と呆れた様子の二人。
「わかってはいたけど、かがりんって本当に黒咬君が好きなんだねー」
「……好みは人それぞれとはいえ、結構意外」
「悪いねー、僕は冴えない男で」
「そうは言ってないよー。わたしたちがあんまり知らないだけで、黒咬君には良いところがたくさんあるんだろうねー」
「かがりんは簡単になびく子じゃないから、なんかあるんだろうとは思ってる。クラスじゃ目立たないけど」
「あまり期待を大きくしないでほしいね。僕なんて大したことないんだから」
二人は納得していない様子。僕に秘められたパワーでもあると思っているのかもしれないが、ただ死なないだけの普通の人である。
「二人が付き合い始めたのって、やっぱり、かがりんが『吸血鬼』になったことと関係あるのかなー?」
学校では、華狩は『吸血鬼』になったことにしている。『人喰い』の部分は秘密だ。
「黒咬って、『超再生』スキル持ちだっけ? 黒咬の血ならいくらでも吸えちゃう感じ?」
「実のところ、華狩と仲良くなったのにジョブは無関係じゃない。
華狩は、僕の血なら遠慮なく吸い続けられる。
僕も、華狩から血を吸われることに恐怖心はない。
華狩としては、自分を一切恐れない僕のことを、何か特別な存在だと思っているのかもしれないね」
「そっかー」
「……逆に、あたしたちは、華狩を怖がってると思われてるってこと?」
二人の視線が、再び華狩に向く。
華狩は首を横に振って。
「そんなことないよ! 私、こんな体になったけど、二人なら受け入れてくれるだろうって信じてた!」
その言葉が少し嘘だということを、僕は知っている。
あるいは、ただの『吸血鬼』だったらまだ良かったのかもしれないが、『人喰い吸血鬼』である自分を、二人が受け入れてくれるとは思っていなかっただろう。
「でも、かがりんって、わたしたちに、血を吸わせてーって言ってくることはないよねー」
「うんうん。遠慮してるんだろうなって思う。血をちょっとあげるくらいいいのに」
「それは、その……」
血を吸ってしまうと、極度の興奮状態になってしまう。二人にはまだ言えない秘密、かな。
ここは、軽めに助け舟を出しておく。
「あのさ、二人は結構気軽にそう言うけど、華狩の吸血衝動って割とエグいんだよ。一度吸い始めたら、ちょっとだけで我慢するのは簡単なことじゃない。
それに……華狩は言いたがらないけど、血を吸ってるときは、かなり野性的な雰囲気になってしまう。仲のいい友達だからこそ、そういう姿ってなかなか見せられないだろ?
それに対して、僕みたいな程良い距離感にある奴は丁度良かったんだ。嫌われたって、幻滅されたって構わない。
まぁ、それでも……僕がなんかいい感じで華狩のことを受け入れたから、華狩は僕を信頼してくれるようになった……。って感じかな」
引き継ぐように、華狩は申し訳なさそうに笑って言う。
「……ごめん、二人とも。私、確かにちょっと、『吸血鬼』になった自分を二人には見せたくないって思ってる。もっと自分をコントロールできるようにならないと、二人には受け入れてもらえないって。
けどね、二人になら、ちゃんと私のことを知ってほしいし、私を受け入れてほしいとも思ってる。……私が自制できるようになって、覚悟が決まるまで、少し、待ってほしい」
水鳥川と乙羽は、華狩の真摯な言葉にゆっくりと頷いた。
良い友達だな。無闇に、信頼を強要しない。
「……二人は夜謳のことを全然知らないから、気になることもたくさんあると思う。だけどね、夜謳は本当に優しい人なの。
自分が化け物になって、すごく落ち込んでたとき、熱心に励ましてくれた。自分がいれば他の誰かを傷つけることもないから、安心して暮らせばいいって言ってくれた。私が夜謳を選んだのは、そういうところが好きだから、だよ」
華狩が赤く染まった顔ではにかむと、水鳥川と乙羽も微笑んだ。
「二人の深い信頼関係、ちょっと感じ取れたかもー」
「正直心配だったけど、黒咬は悪いやつじゃなさそうだね」
「かがりんを宜しくねー?」
「かがりんを泣かせたら……許さないよ?」
僕に向けられた二人の笑顔に凄みがある。わかりやすく脅されてるなぁ……。下手するとこの二人にも殺されそう。叩けば埃しか出ない僕には、恐ろしさしかないよ。
「……華狩のことは、ちゃんと幸せにするよ。そういう約束もした」
「あれ? もしかして、もう婚約してるのー?」
「え、それは流石に早くない?」
「いや、婚約まではしてないよ? ただ、ずっと一緒にいようって約束しただけ」
「それってほぼプロポーズだよねぇ!?」
「……気が早いな」
二人がうんうんと唸り始める。
本当に、まだ婚約とかではないのだけれど、まぁいいか。
ともあれ、二人の面接試験に、僕は一応の及第点を貰ったらしい。
その後は、探る感じはなくなり、単純に友達の彼氏として扱ってきた。
華狩と深く関わるまでは、学校で特別なイベントなんて起きなかった。あってもなくても構わないような、うすーい時間が流れていくのだと思っていた。
これからは、それも少し変わっていくのかもしれない。
そんな予感がした。
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