第31話 復讐

 黄泉子との出会いを思い出している間に、黄泉子は満足するまで僕を痛めつけた。


「はぁー……はぁー……はぁー……」


 残酷な行為による興奮と、性的な高ぶりを感じさせる黄泉子の吐息が聞こえる。気づけば黄泉子は裸になっていて、こぶりな乳房が露わになっていた。全身血塗れなのは、僕としては見慣れた光景。

 そして、いつの間にかベッドの上に寝かされていて、黄泉子が僕に馬乗りになっているのも、いつものこと。おそらく僕のパーツが室内に散らばっているだろうが、それは後で処分。これもいつものことだ。


「……黄泉子さん、満足しました?」

「うん! 楽しかった!」

「それは良かったです。ちなみに、僕、何回死にました?」

「んー、わかんない!」

「でしょうね。代金は後で徴収しまーす」

「もう! こんなときにお金の話なんて!」

「商売は商売としてきっちりやるのが僕の主義……はむっ」


 お仕事後の流れもいつも通りらしい。黄泉子が唇で僕の口を塞いできた。僕の魂を吸い出そうとするかのような、乱暴で奔放なキスをしてくる。

 さっきまではぐっちゃぐっちゃとR15指定な赤い音がしていたけれど、今度はR15ではアウトに感じる桃色な水音だ。

 熱すぎるキスを終えたら、黄泉子が一度唇を離す。


「ぷあっ。あー、なんで夜謳を殺した後って、はちゃめちゃにエッチしたくなるのかな?」

「僕に訊かれてもわかりませんよー」

「ま、なんでもいいや! もう痛いことしないから、朝までたくさんわたしを愛してね!」

「学校は大丈夫なんですか?」

「休めばいいじゃん」

「大学生の学業に対する思い入れってそんなもんですか?」

「大学なんてそんな大事なこと学ぶ場所じゃないよ。たまにさぼったくらいで何ともならない。高校だってそうでしょ?」

「まぁ、そうですね」


 出会った当初はもっと真面目な人だったと記憶しているのだが、今では不真面目さを身につけてしまった。

 これを悪い傾向と思う人もいるかもしれないが、僕は、黄泉子には必要なことだったと認識している。真面目すぎる性格は、ときにささいなことで自分を責めるデメリットもある。

 適当で良いことは、適当にやってしまえばいいのだ。


「……朝まで、付き合いますよ」

「今は受け身な態度だけど、夜謳の方がむしろわたしを離してくれなくなるよねー? もう無理ー、って言っても。夜謳は聞いてくれないんだからっ」

「黄泉子さんの無理は、もっとしての意味でしょう?」

「へへー、そうかも。とにかく、壊れちゃうくらいたくさんしてね?」


 要望に応えて、僕はまず黄泉子さんの胸に手を当てる。控えめサイズだけれど、触ればその柔らかさが伝わってくる。先端をこりこりしてあげると、んんっ、と黄泉子さんが押し殺した声で喘ぐ。


「反応いいですね? 僕の解体、そんなに興奮しました?」

「んんっ。んっ。あ……っ」


 胸だけでも耽溺できるくらい、黄泉子さんは仕上がっているらしい。

 右手を下半身に伸ばしてみたら、太ももに伝うくらいに溢れていた。敏感な場所を僅かに擦るだけでも、ぴくんと大きく体が跳ねる。

 残虐な行為に興奮を覚えることは、あまり良いことではないと思う。ただ、僕に対しての行為だけで満足するなら、それは残酷な映画や漫画を楽しむのと変わらない。僕はそう認識している。

 黄泉子だって、本当に誰かを殺したり傷つけたりしたいとは思っていない。現に、僕以外を攻撃したことはない。他の誰かを傷つけてみたいと口にしたこともない。

 だから、黄泉子は大丈夫。僕がいる限り、黄泉子はこの社会に適合して生きていける。『惨劇絵師』になり、一般の人より残虐さを増しているとしても、全く問題はない。

 刺激を繰り返していくと、黄泉子がどんどん蕩けていく。次第に体を支えていることもできなくなって、黄泉子が僕に覆い被さる体勢になった。


「さんざん殺してくれた分、たっぷりお返ししてあげないといけませんね?」


 黄泉子の期待のまなざし。言葉は発しないが、僕の復讐を楽しみにしていることがわかる。

 その夜、僕は存分に復讐し、黄泉子をイかせまくった。

 僕ももちろん楽しませてもらって、長い長い夜になった。

 ……そして。

 宣言通り、夜明けまで僕たちの行為は続いた。殺されている時間には苦労もあるけれど、その後の時間は単純に楽しい。

 殺される時間がなければいいのになー、と思うこともなくはない。が、それがなければ僕たちの間に深い絆は生まれていない。これからも、僕は殺され続けないといけないのだろうな。諦めよう。

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