第15話 お手伝い
「僕に反対する理由はないよ。最近は鳳仙花さんが毎日夜這いに来るけど、それも今夜は控えて貰おう」
ここ一週間、僕は月姫の経過観察に付き合い、闇咲の家に寝泊まりしている。鳳仙花さんは僕の護衛と称して同じく闇咲の家に寝泊まりしていて、毎晩同じ部屋で寝ている。
鳳仙花さんはやたらと僕を誘ってくるけれど、僕はどうにかこうにかやりすごしている。……最近、ちょっとトイレにこもる時間が長くなったかもなぁ。
そういえば、僕が月姫と暮らし始めたら、狂歌たちはどういう反応するのかな? 事前の相談もなく勝手にて決めちゃったけど、怒られるかな? 何度か殺されはしそうだ。
さておき。
「……それじゃあ、黒咬君、今夜から宜しくね?」
「うん。宜しく。……あ、お仕事の話が半端だったね。ま、それは後でもいっか。部屋の見学はこの辺にして、軽くデートでもしてみる? 月姫さん、しばらくは軟禁状態だったんでしょ?」
「……デートっていうのはどうかと思うけど、ちょっとお出かけはしたいかな」
「じゃあ、そうしよう。どこか行きたいところはある?」
「えっと……」
「カフェ、レストラン、ショッピング、遊園地、動物園、水族館、映画、美術館、スポーツ施設……」
「ショッピング、行きたいかも」
「じゃあ、そうしよう。あ、先に血、飲んでおく? 人混みに行く前には、吸血欲は満たしておきたいでしょ?」
「そ、それはそうだけど……」
月姫、僕は視線を逸らしてもじもじ。
血を吸うと、興奮してしまうんだもんね。ここはとぼけてみせよう。
「ん? 何か問題ある?」
「むぅ……。わかってたけど、黒咬君って意地悪だよね! 血を吸ったらどうなるか、わかってるくせに!」
「はて……。そういえば、いつもすぐに部屋にこもっちゃうけど、一人で何をしているんだい?」
「それ、セクハラ! 仕方ないでしょ! そういう体質になっちゃったんだから!」
あまりからかっても本当に変態っぽいので、この辺で引いておく。
「月姫さんは何も悪くないよ。わかってる。僕を
「アレって何よ!?」
「途中から、右手が下半身に伸びてたよね」
「んな!? い、意識あるの!? 出血多量で目が死んでるじゃない!?」
「ぎりぎり生と死の境って感じ? 夢見心地だけど、ああなんかごそごそしてるなぁってのはわかる」
「……そ、そんなっ」
月姫の顔が羞恥で真っ赤に染まる。顔を両手で隠しているが、赤い耳は隠せていない。色々と諦めもついているようだけど、まだ羞恥心は残っているようだ。
「……もうお嫁に行けない……」
「僕が貰うから安心して?」
「浮気する人は嫌!」
「逆に、浮気しなかったら僕でもいいわけ?」
「え? あ、そ、それは……その……」
ふむ。
動揺する様子を見るに、月姫の中で僕はかなり好感度が高いようだ。嫉妬を滲ませる発言もしていたし、僕のことを好きなのかもしれない。明確な恋心ではなくても、それに近いものはありそうだ。
けど、僕は月姫の言う通り浮気性だし、恋人になることはないのかもな。
「……黒咬君は、私をどう思ってるの? 私のために痛みに耐えてくれるのは、ただの優しさ?」
「僕はそう優しいだけの人でもないよ。ドライな部分もある。困っている人全員を助けるわけでもない。
僕が月姫さんのために体を張るのは、月姫さんのことが好きだから。恋愛的な意味は……二十パーセントくらいだけど」
「……二十パーセントでも、恋愛的な意味が含まれてるの?」
「うん。月姫さんと恋人になれたいいなとは思う。でも、僕は浮気性だからねぇ。誰か一人に恋愛感情を抱いていたとして、他の人に恋愛感情を抱かないなんてこともない。僕はそういうサイテーな男だよ」
「本当に、サイテーだよ……」
「僕のハーレムの一員に加わりたくなったらいつでも言ってよ」
「……それは嫌だよ」
「そ。じゃ、友達でいよう」
「……むぅ」
煮え切らない返事。
月姫としても、自分の気持ちと折り合いがつけられていないのかな。
「とりあえず、血をどうぞ」
僕が左腕を差し出すと、月姫は少し迷った後に首を横に振る。
「あ、いらない?」
「ううん。……私、こっちから吸う方が好きなの」
月姫が僕に一歩接近。僕に抱きつきながら……首筋に、尖った犬歯を突き立てた。
首から血が抜ける感覚。じゅるじゅると淫らな音を立て、月姫が僕から溢れるものを吸い上げていく。
皮膚に穴が空くのはごく普通に痛い。だけど、月姫の柔らかな体と触れ合い、欲情した息づかいを間近に感じるのは、悪くないと思ってしまう。
しばし血を抜かれたところで、月姫が唇を離す。
最後にぺろりと傷口を舐めると、出血が止まる。吸血鬼には、自身の犬歯で傷つけた部分を癒す力があるらしい。
「はぁ……はぁ……はぁ……んんっ」
月姫が僕の体を抱きしめて、ふるふると悶えている。
「しばらく外に出ていようか?」
「……もう、いいよ。黒咬君には隠したってしょうがないもん。今隠したって、どうせ一緒に暮らし始めたら全部見られちゃう」
「……そう」
「もういいから……手伝ってよ」
「手伝う?」
大胆な発言。関わり始めてまだ一週間なのに、随分と気を許すのが早い。
これ、人喰い吸血鬼になった影響かな。喰った相手に好感を抱くとか?
「……恋人同士じゃないから、一つになりたいわけじゃないの。私を抱きしめながら、指で、してほしい」
「……いいよ。じゃあ、ちょっとベッドに行こうか」
「うん」
月姫と共にベッドに横になる。
正面から抱き合う形になって、僕は右手を月姫の下半身に伸ばした。
今日、月姫は淡い青のワンピースを着ている。裾を引きずり上げて、濡れた下着に手を当てた。月姫の体がぴくりと跳ねる。
「いつもこんな感じ?」
「……余計なこと言わないで。意地悪」
「ごめん」
抱きしめているから月姫の表情はわからない。たぶん、すごく恥ずかしがっているのだろうな。
「下着、下ろすよ」
「うん……」
月姫に腰を浮かせてもらって、少し下着を下ろす。
見えないけど、月姫の大事な部分は露出した状態。
改めて触れると、さわさわと柔らかな陰毛が手のひらに当たる。
指先は、月姫の柔らかで繊細な部分へ。
月姫は体を強ばらせるけれど、拒絶の意志は見えない。
そのまま、指先をゆっくりと動かす。
「はぁ……っ」
心地良さそうな吐息。
時間が経つと、次第に呼吸も荒くなる。
僕を抱きしめる力も強くなる。
……そして、三十分ほどが過ぎて。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
月姫が、弛緩した体でゆっくりと呼吸をする。
吐息は熱いが、欲情はだいぶ納まったようだ。
「……気持ち良かった?」
「訊くな、バカっ」
「ごめん、僕、意地悪だから」
「ふん……。あーあ……恋人でもない人に、触られちゃった……」
「恋人じゃないけど、もう恋人を越えた関係じゃない?」
「ある意味そうなのかもね……。黒咬君、私と一生一緒にいてくれるんだよね?」
「うん。一緒にいるよ」
「私がおばあちゃんになっても?」
「当然」
「そっか。黒咬君は、私から離れても生きていける。でも、私は黒咬君がいないと生きていけない。黒咬君が私から離れたくなったら、責任取って、私を殺してからにしてね?」
「僕は月姫さんから離れないから、当然殺しもしない」
「……ありがと」
月姫が僕の首元に顔を埋める。
この一週間で月姫がどういう心境の変化を経験してきたのかは、僕にはわからない。急に心を許し始めたようにも感じるが、一緒に過ごす日常の中で、僕の知らないうちに色々なことを考えたのだろう。
とにかく、僕がすべきことは……月姫を大事にして、幸せにしてやること、かな。
そして、生きていて良かったと思ってもらうのだ。
「月姫さん、今、幸せ?」
「……ちょっと」
「そう。十分だ」
月姫の返事に満足して、僕はその華奢な体をぎゅっと抱きしめた。
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