最終話  勇者サマ、好き!!

『ブリ、ドコカ、イクノ!?』


 マークウェルや、後から来た魔法使いが精霊達と渋い顔をしてブリジットの事を見ている。

 ブリジットも不安になってきた。


「ブリジット、聞いてくれ。俺たちはお前をこれ以上守ってやれない。

 このオアシスの外に出れば、冒険者や悪い魔法使いたちに捕まれば、心臓を盗られて、また人形にされてしまうんだ」


『ソレ、イヤ!!』


「嫌だよな!?でも、俺達でも他の荒くれ冒険者や、教育を受けて無いはぐれ魔法使いからお前を守るだけのために、同士討ちも出来ないんだ。

 お前が人間なら、一緒に過去に行って暮らしても良かったが、お前は竜だ。

 俺には、お前が成人する時までの寿命は無いだろう」


 ブリジットの目から、大きな涙がこぼれた。


『ブリ、ドウ、スレバ、イイノ、?』


「このからくり箱の中へ入って、寝ててくれないかな?」


 アドリアンが、空のからくり箱をブリジットに見せた。


『ユウシャサマ、ニハ、モウ、アエナイ、ノ、?』


 マークウェルは、頷いた。


 ポロポロと涙を流すブリジット。


 SSSランクの冒険者のカラクリ箱には、魔法がかかっている。

 冒険が長期にわたる場合に備えて、時間が止まるような細工もされているのだ。


 アドリアンが、ブリジットの身体くらいにからくり箱を大きくした。


「だが、未来で必ず会えるはずだ!」


 マークウェルの言葉に安心して、ブリジットは自分から箱へ入った。


「出来れば、この世の何処かいると言う、我らの神に見つけてもらえると良いな」


 アドリアンの言葉は、ブリジットには、訳が分からなかった。だが、頷いた。


 やがて、ふたを閉めようとすると、ひょっこりブリジットが顔を出してきた。


「どうしたんだ?」


 優しく声をかけるマークウェル。


『勇者サマ、心臓ヲ、戻シテクレテ、アリガトウ、ダイスキ!!』


 ここのオアシスは、砂嵐で人が来ることも稀だ。

 今は、ブリジットが話しても大丈夫なように、風の奥方が結界を作ってくれていた。


 最後の大好きには、炎が大量に飛び出ていた。


「俺も好きだよ」


 マークウェルがそう言うと、ブリジットは、満足そうに箱の中へ入って行った。


 マークウェルとアドリアンは、オアシスの泉の近くに、深く穴を掘りそこへからくり箱を埋めた。


 そうして、1つの国が滅び、そこが新たな国となったが、砂嵐がオアシスを襲った。

 誰も、そこにオアシスがあったことなど忘れられた時代___




 ♦



「どうしたの!?ティラン」


「あっちに、何かあります。」


 薄茶色の緩いウエーブ髪と茶水晶の瞳を持つ女の子が、銀髪銀色の瞳の男の子を茶化している。


「それより、ここは……。 噂の砂嵐で滅んだオアシスの国じゃあ……」


「この辺りが、泉で神殿の跡地みたいね」


「エリサ!手伝ってください。何か埋まってます!!」


「どうしたの?また、変よ?」


「強い気を感じる!!早く!!」


 少年に促されて少女は、木の棒を持って来た。

 それである程度まで、掘り進んだら古臭いカラクリ箱が出て来たのだ。

 少女には、それがカラクリ箱だと分かる由も無かった。




(完)

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火竜のブリジットちゃんは、勇者サマにコクりたい 円香 @erisax

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