第10話  幻のオアシス

 ドーリアの王都の南部に、この大陸最大のナムラ砂漠があった。

 ナムラ砂漠には、幾つかのオアシスがある。

 砂漠の中央に、ほとんど人に知られていないオアシスがあった。


 砂嵐がひどくて、存在を気が付かれていないのだ。


 アドリアンの契約精霊の風の奥方は、この世の創世の時より生きていた。

 この奥方のおかげで、マークウェルたちは、取り合えず安息の地を見つけた。


「さて、ここなら話して良いぜ、火竜ちゃん」


 ブリジットは、コクンと頷いた。


「そもそもなんだけど、お父さんとお母さんは?」


 アドリアンがブリジットに視線を合わせて、座って言った。


『ブリ、シラナイノ、キガツイタラ、マゾクノ、ス二イタ』


 アドリアンは、フッと息をついた。


「風の奥方、どう思う?」


 アドリアンは、頭上の色っぽい透き通った奥方に意見を求めた。


 <そうですわね、いにしえの時代でしたら、仲間も沢山いたでしょうに……何故、この時代にいるのでしょう? でも、過去の時代に送るにしても、何処のどの時代に送れば良いのか分かりませんわ>


「未来には遅れないのか?」


 <それは、無理ですわ>


 マークウェルは、黙ってアドリアンと奥方の会話を聞いていた。


「未来にか」


『ブリ、勇者サマト、イッショ、イル』


 ブリジットは、マークウェルの足に抱き着いた。


「懐かれてるな~」


 アドリアンは、微笑ましそうに見ていた。


「それより、この事態をどう乗り切るんだ?」


「パーファーが出した賞金のせいで、この時代に残るのは無理がある」


 マークウェルの問いに、アドリアンが冷静に答えた。


「過去に送るか、未来に託すかだ」


「未来に託す?」


「ああ……本当は、我が祖神がいてくれれば一番良いんだが……だから、見つけてもらえるまで隠しておくんだ」


 アドリアンの提案は、マークウェルには考え難いものだった。

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