12 僕の秘密基地は攻撃力10倍!

 テロウスは半神、つまり神様と人間のハーフだけあって人間よりもずっとずっと強い。

 高高度からの木刀の一撃を受けても、一時的な意識不明と、頭を割られる程度ですんでいたようだ。


 テロウスは額から垂れてきた血を、ベロリと舐める。


「久々だぜ、ここまで俺様にナメたマネをしてくれたのはよぉ……! 神の血の代償は、高くつくぜぇ……!」


 僕はセイレンといっしょにテロウスに向き直る。

 セイレンは小声でしきりに僕にささやきかけていた。


「わたしが注意を引くから、そのうちに逃げて! テロウス様の狙いはわたしだから……!」


「そこのバケモノ! なにコソコソしてやがんだ! テメェもクソガキもまとめて始末してやらぁ!」


 僕は担いでいた木刀を構える。しかし、テロウスは素手のままだった。


「俺様はなぁ、ブッ殺すやつにいつも聞いてんだ……! クソガキ、テメェの戦闘レベルはいくつだ……!」


「5だ……!」


「「えっ」」


 僕はべつにへんな事を言ったつもりはなかったのに、テロウスとセイレンは目を点にしていた。


「う……うそ……? レベル5って、小さな子供と同じくらいじゃ……?」


「そうなの? あ、でもさっきリンゴを採ったときに基地レベルが9になったから、そのとき……」


「ふ……ふざけやがってぇ! 見た目だけじゃなくて、戦闘レベルまでクソガキじゃねぇか! そんなのに血を流したとあっちゃ、勇者の名折れだっ! 絶対に、ブッ殺してやるっ!」


 塔の外にいるテロウスは、塔を包み込むように両手を広げた。


「俺様の力、見せてやるっ! イン・スプロージョォォォォォォーーーーーンッ!!」


 雄叫びが迸った瞬間、僕らを囲む塔の外壁が次々と爆ぜていく。


「うわっ!?」「キャッ!?」


 四方八方から爆風、吹きつけるような噴煙、瓦礫が散弾のように飛んできて、僕はとっさにセイレンをかばった。

 テロウスは広げた両手を波のように動かして大爆笑。


「ぎゃははははは! どうだ、怖いか、恐ろしいか、思い知ったかぁ! 俺様のイン・スプロージョンはなぁ、たとえ城だって崩壊させちまうんだ! こんなボロい塔なんか一発だぜぇ! いまさら後悔しても無駄でぇ~~~っす! クソガキとバケモノ、仲良く抱きあって生き埋めになってくださぁ~~~~いっ!!」


 僕はそのからかいに応じるように、セイレンの抱き寄せた。

 セイレンは「逃げてぇ!」と半狂乱になっていたが、さらに強く抱きしめると大人しくなる。

 彼女は「絶対にありえっこない」という表情で僕を見つめていた。


「ど……どうして……!? 逃げないと、シークくんは死んじゃうんだよ……!? ひとりなら、逃げ切れるはずなのに……!? 死ぬのは、バケモノのわたしだけでいいのに……!? それなのに、どうして……!?」


「見た目や理由なんてどうだっていい。困ってる女の子を見捨てるなんて、そんなの絶対に嫌だ」


 僕はセイレンをまっすぐに見つめ返した。


「大丈夫……! 何があっても絶対に、キミを守ってみせるから……!」


 降り注ぐ瓦礫は、演劇の幕が下りるかのように色濃くなっていく。

 やがて僕らのいた場所に、塔の頂上にあった巨大な石像がズズンと落ちた。


「ぎゃははははは! 怪物セイレンをブッ殺してやったぜぇ! これで、俺様の勇者の名はますます上がるっ!」



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 丘のように積み上がった瓦礫を前に、テロウスは三日月のようにのけぞって笑っていた。


「それにしても、あのクソガキはいったいなんだったんだ!? あんなバケモノを守って死ぬなんて、面白すぎだろっ! しかも戦闘レベルがたったの5で、あんなカッコつけるなんて! ぎゃはははははっ! ぎゃーっはっはっはっはっはーーーーっ!!」


 しかしその笑いは、ある疑問によって消沈していく。


「でも、おかしい……! いくら不意討ちで、上空からの攻撃を、頭に食らったからって……! 戦闘レベル5のクソザコに気絶させられるなんて、ありえねぇ……!」


「……教えてあげようとしたのに、キミが遮るから」


 どこからともなく、聞き覚えのある声がした。

 テロウスは、まるで幽霊の声を聞いたかのように、焦ってあたりを見回す。


「なっ……!? く……クソガキ!? い、生きてやがるのか!? どこだっ!? どこにいやがる!」


「……じゃあ、どっちかだけ教えてあげる」


「なんだと!?」


「戦闘レベル5の僕が、なぜキミを気絶させられたのか……。それとも、いま僕がいる場所はどこなのか……。知りたいのはどっち?」


「ぐっ……!」


 テロウスは一瞬の逡巡を見せたあと、「この俺様を、気絶させた方法だ!」と叫び返す。

 前者を選んだ理由は単純だった。

 仮にシークが生きていると仮定した場合、いまどこにいるのかわからずに逃げられたとしても、勇者である彼ならば手勢を率いて探すことができる。

 しかしふたたび戦うようなことがあった場合、気絶させられた理由がわからないと、またやられてしまうかもしれないと思ったからだ。


 少年の声が「わかった」と告げる。


「基地レベルが9になって『ラッシュアウト・ベース』のスキルを覚えたからだよ。これはね、秘密基地から出てすぐの5秒間は、攻撃力が10倍になるんだ。だから……!」


 その声に指向性を感じ、テロウスは「ハッ!?」と後ろを振り向いた。

 するとそこには、少女を抱いたまま、木刀を振り上げる少年の姿が……!


「だから戦闘レベル5の僕でも、勇者をやっつけられるんだ……!」


 ……ボカッ!!

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追放から始める国造りサバイバル 佐藤謙羊 @Humble_Sheep

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