06 新しい友達

 いままでとちょっと違うレベルアップの告知に、僕は首をかしげる。


「ウサギを倒したから戦闘レベルが上がるのはわかるけど、基地レベルまでアップするなんて……」


 半信半疑でステータスウインドウを操作し、レベルを確認してみると、



 戦闘レベル2

 製作レベル9999

 基地レベル4



 たしかに戦闘と基地、どちらも1レベルずつあがっていた。


「基地レベルって、戦闘レベルと連動してるのかな? それとも、秘密基地を使って不意討ちに成功したから基地レベルがあがったのかな?」


 しかも基地レベルがあがったことで、秘密基地内はさらに広くなっていて、一人暮らしにはじゅうぶん過ぎるスペースになっていた。

 そして僕は、部屋の奥で鈍く光るものを目にする。


「……あ! 斧だ! 手斧が埋まってる!」


 さっそく取り出してみると、それは柄のところに宝石がはめ込まれた手斧だった。

 ナイフよりも大ぶりだけど、ナイフと同じようにちっちゃくできるスグレモノ。

 切れ味もきっとすごいに違いない。


「新しい工具はあとで試すとして、次は増えたスキルを確認してみよう」



 リビング・ゲート  玄関扉と意思疎通ができるようになる



「扉と意思疎通……? これは、いままで以上に不可思議なスキルだな……?」


 僕に新しく覚醒した『秘密基地』は、こうやって効果を確認してもよくわからないスキルばっかりだ。

 でも試すことが大好きな僕にとっては、この謎めいた感じが逆にワクワクする。


「よし、試しに使ってみよう。……リビング・ゲートっ!」


 すぐそばに玄関扉があったので、手をかざして宣言。

 すると玄関扉はスキルを受け止めたかのように、カタカタと震えだした。


「動いて……る……? いや、なんの動力もないのに扉が動くはずがない。あ、もしかして地震かな?」


 僕のつぶやきに反応したみたいに、玄関扉がいきなり動き出す。

 上半身といっていいんだろうか、一枚板の上のほうをまるでイヤイヤをするみたいによじらせている。

 玄関扉は流木でできているので固いはずなのに、まるでゴムみたいな柔軟さだった。


「うわっ!? なっ……!? なに!? キミ、本当に動けるの!?」


 玄関扉はこくこく頷くように、板の上のほうを何度も下げる。

 完全に、僕の言葉を理解しているみたいだった。


「す、すごい……! まさに、生きている門リビング・ゲートだ……!」


 魔法で動く生物というのはたしかに存在する。

 でもそれらは高等で難易度の高い魔法で作られており、身体の構造も時計仕掛けなんて比べものにならないほどに複雑なんだ。


「それなのに、ただの流木でできた扉が、生きてるみたいに動くなんて……!?」


 長いこと職人をやってきていろんな物を見てきたけど、こんなのは初めてだ。

 僕はすっかり好奇心を刺激され、扉にいろいろ質問してみた。

 それでいろいろわかったんだけど、玄関扉は喋れないし、その場から動くこともできない。

 でも、イエスやノーでの受け答えはかなり的確で、僕は無口な人間と話しているような錯覚に陥る。

 それはとても楽しくて、僕はひとりぼっちになったと思ったのに、思わぬ同居人ができたような気分だった。


「キミの名前はなんていうの? ……名前はないの? なら僕が付けてあげる! 『ゲート』でどうかな!?」


 そのまんまな気もしたけど、ゲートは嬉しそうに何度も頷き返してくれた。

 ここまで喜んでくれると、なんだかこっちまで嬉しくなってくる。


「よーし! せっかくだから、もっといい扉に作り替えてあげる! 外しても、死んじゃったりしないよね?」


 返事はイエスだったので、僕は冒険者ごっこを一時中断。

 本職に戻り、さっき手に入れたばかりの手斧を実体化させる。


「ちょっと待っててね!」


 ゲートに一声掛けたあと秘密基地を飛び出し、近くの森に入った。

 玄関扉にするのに良さげな木がないか探す。

 森の奥まで行くとラビッツノに襲われた時に大変なので、すぐ逃げられるような浅めのところで探し回っていると、


「あっ、ルクミの木だ! ウォルナッ材は建材にピッタリなんだよね!」


 リスや鳥が住んでないルクミの木を選び、手斧をあてがう。

 しかし、はたと思い直す。


「こんな小さな手斧で、木を切るのは無謀かな……切り倒すとしたら何日もかかるかも。でもまあ、試すくらいは……」


 せっかくだからと、あてがった手斧をひと振りする。

 すると、


 ……すかぁぁぁーーーーーーーーーーーんっ!!


 まるで薪割りのような軽快な音とともに、ルクミの木は真っ二つになる。

 唖然とする僕の目の前で、メキメキと傾いて倒れていった。


「な……なに……これ……!? 一発で切り倒すなんて……!?」


 でもまあ、想像してたよりずっと早く簡単に材料が手に入ったからよしとしよう。

 もう秘密基地の時点でわけがわからないことだらけだから、驚くのはそこそこにしないと身体がもたない。


「さて、次はこれを秘密基地のそばまで運んで……」


 しかし、倒した木は僕の身長の10倍はある大きな木。

 そのままじゃ運べそうもないので、手斧でさらに小分けする。


「これでも運ぶのは大変だな……そうだ!」


 せっかくだからと、僕はクラフトを開始。

 その場で樹皮を剥がして木材を作り、即席で木製の荷車を作り上げる。

 なんだか気分が乗ってきたので、ついでに玄関扉も作ってしまった。


 僕は他にはなんの取り柄もないけど、クラフトだけは得意なんだ。

 ずっとひとりで秘密基地を作っていたから、このくらいの作業なら30分もかからない。


 できあがった真新しい扉と、あまった木材を荷車に積んで、秘密基地へと戻った。


「おまたせー! ゲート、新しい扉だよ!」


 新しい玄関扉は高級木材のひとつ、ウォルナッ材製。

 ツヤのあるこげ茶色で、強度も耐候性も高く、軽量で手触りもいい。

 なにより、上品で優雅な美しさがある。


「……そういえば、ノーブル兄さんもウォルナッ材を好んでよく使ってたな……」


 さらに機能も満載。

 動かせるところを多くすれば、ゲートの感情表現がさらに豊かになると思っていろいろ付けてみたんだ。

 眉毛のような小さなひさし、目玉のような覗き窓、鼻のようなノッカー。口のような郵便受け。


 玄関扉を付けかえてみると、僕の狙いはうまくいった。

 そこには、まるで門番のようにりりしい表情のゲートがいたんだ……!


「うわぁ……! かっこいい! すごくかっこいいよ、ゲート! 」


 僕はうれしくなって、ゲートのまわりをぴょんぴょん飛び跳ねて喜ぶ。

 するとゲートは、キリッとしていたひさしの眉を八の字に、キリリと結んで郵便受けの口を緩めていた。

 それはどこからどう見ても『照れ笑い』。


 僕に、新しい友達ができた。



 『基地レベルがアップ! 新しいスキルを習得しました!』

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