07 迷彩大作戦

 新しくゲットしたスキルは効果こそわかりやすかったけど、いままでに比べるとかなり地味なものだった。



 カラーリング・ゲート  玄関扉の色を変えることができる



「扉の色を変えられる、か……。気分を変えるのに良さそうだけど、扉は作ったばっかりだし、いま使うまでもないかな?」


 そうつぶやく僕を、ゲートはなんだかおねだりするような顔で見ている。


「色、変えたいの?」


 尋ねるとゲートは即座に頷き返してきたので、僕はゲートに向かって手をかざした。


「カラーリング・ゲート!」


 するとゲートは、まってましたとばかりに身体を七色に変えてはしゃぎはじめる。

 それは色鮮やかで見ていると楽しかったんだけど、僕もゲートもすぐに飽きてしまった。


「うーん、他にすることもなさそうだし……。あ、狩りの続きをしなきゃ」


 そういえば食糧確保の仕事をすっかり忘れてた。

 ラビッツを1匹狩れたのは大きな成果だったけど、もっとたくさんあったほうがいいだろう。

 僕は兜の緒を締めなおすような気持ちで、木刀を取る。


「よし……! 不意討ち作戦再開だ……!」


 そういって意気込んでみたものの、秘密基地のなかでいくら息を潜めていてもラビッツたちは寄ってこなかった。

 覗き穴からこっそり外の様子を伺ってんだけど、みんな玄関扉を避けるようにして、近くの草を食べたり、小川の水を飲んだりしている。


「うーん、完全に警戒されちゃってる……」


 ラビッツたちは不意討ちで仲間がやられたことを覚えているようだった。


「まずいな……。これじゃ、振り出しに戻ったのと同じじゃないか。なにか、別の手を考えないと。う~ん、玄関扉に草でも貼り付けて、偽装するとか……あ、そうだ!」


 しかし、もっといい手を閃いた。

 僕は秘密基地から出て、ゲートに話しかける。


「ゲート! まわりの草原と同じように色を変えられる?」


 するとゲートは少し考えるような素振りを見せたあと、じわじわと体表の色を変えてくれて……。


「き……消えた!?」


 いや、違う。身体の色をまわりの風景と同じにして、同化したように見せてるだけだ。

 でも、傍から見るとそこに存在していないかのようだった。


「す……すごいすごい! すごいよゲート! これならラビッツたちも気づかないよ!」


 大いに褒めると、空中にポッと赤色が浮かび上がる。

 カラーリング・ゲートのスキルのおかげで、感情表現のバリエーションも増えたようだ。


 それから僕らは、コール・ゲートのスキルで場所を移す。

 ゲートに風景と同化してもらって、息をひそめた。


 さっきまでは警戒心バリバリだったラビッツたちだったけど、いまは全く気づいてない様子で扉に近づいてくる。

 作戦は大成功。僕は初めてやったときのように、ラビッツたちが後ろを向いているスキに扉を開け、不意討ちを食らわした。


「……えいっ!」 ボカッ! 「キャインッ!?」


 2匹目のラビッツをゲット。

 しかし他のラビッツたちは逃げ去ってしまうので、一度やってしまうと場所を移してまた集まってくるのを待たないといけない。

 正直なところ効率が良いとは言えなかった。


「う~ん……。どうにかして、まとめてやっつける方法はないかな……? ……そうだ!」


 僕は頭に灯った豆電球が消えるよりも早く、秘密基地を出て森に飛び込んでいた。

 木に絡まっている頑丈そうなツタを選んで引き剥がし、即席で投網を作り上げる。


「これがあれば、効率的な狩りができるぞ……!」


 僕の狙いは大当たり。

 集まってきたラビッツめがけて網を投げ、一網打尽にしたところを網の上から叩きまくる。

 ちょっとかわいそうな気もするけど、背に腹はかえられない。


 それを2回ほど繰り返しただけで、秘密基地内にはラビッツの山ができていた。


「やった! これだけあれば、しばらく食べるのには困らないぞ! 毛皮で服も作れそうだ!」


 ここで狩りはいったん中断。

 ナイフでラビッツの血抜きをしたあと、さばいて肉と毛皮に分ける。

 動物を解体することを、この世界では『剥ぎ取り』という。

 剥ぎ取りもクラフトのための採取行動の一環で、たまにやっていたのでお手の物だった。

 あとは、ゲートを作るときに採取しておいたオークウッドの余りを使って干物用の台を作り、秘密基地の外に肉を干す。


「よし……! 食糧確保の作業、終了っと……!」


 汗を拭って空を見上げると、もうすぐお昼だった。

 今日は朝から未知なることがいっぱいで、僕はもう大満足。


「こんなにいい汗をかいたのは、久しぶりかも……! 外での作業って、こんなに楽しかったんだ……!」


 でも、ひとつだけ不満があった。


「……たくさんラビッツを倒したのに、戦闘レベルが上がらない……。もっと強いのをやっつけないとダメなのかなぁ……?」


 この草原にいる獣で、ラビッツノより狩るのが難しいのはスプリンタートルだろう。

 近づくとすぐに逃げられちゃうんだけど、それが弾丸みたいに速くてまったく追いつけないんだ。


「でも、不意討ち作戦だったら狩れるかも。……よし、次のミッションは、スプリンタートルの剥ぎ取りだ!」


 僕はさっそく、スプリンタートルがよくいる小川の川べりにいく。

 スプリンタートルたちは散弾銃から撃ち放たれた弾のようにどこかへ行ってしまったけど、そこにコール・ゲートで秘密基地を呼んで隠れた。


 しばらく待つと、スプリンタートルたちが戻ってきて、甲羅干しを再開する。

 僕は頃合いを見計らって扉を開けると、その一団に向かって投網を投げつけた。


 一網打尽にできたところは、ラビッツのときと同じ。でもそこからはぜんぜん違った。

 スプリンタートルは逃げ足だけでなくパワーも散弾銃の弾丸なみで、ツタの網を引きちぎって逃げていく。

 1匹だけ逃げ遅れたのがいたので甲羅を木刀で叩いたんだけど、まるで鉄みたいに固く、いくら殴ってもぜんぜん怯まなかった。


 結局……ぜんぶ逃げられたうえに、投網はボロボロ。

 でも、僕ががぜんやる気になる。


「叩くことができたのは大きな進歩だ! 次こそはやっつけてやるぞ! もっといい手を考えなきゃ!」


 クラフトには困難が付きものだ。僕はかならずそれらを乗り越えてきたので、うまくいかないと逆にワクワクするようになっていた。

 たぶんだけど、手強いモンスターに出くわした冒険者もこんな気分なのかもしれない。

 今回は狩りだから、余計にそう思えてくる。


「あの、素早くてパワフルなのカメを捕まえて……さらに、あの固い甲羅をなんとかする方法が……きっとあるはず……!」


 秘密基地の中をうろついて考えていると、ふとゲートと目が合い、そして閃いた。


「そ、そうだ……! ゲート、また僕に力を貸して!」


 新作戦はこうだ。

 さっきと同じで、川べりでゲートに保護色になってもらって、スプリンタートルたちが近くに来るのを待ち伏せる。


 そして、タイミングを見計らって……!


「ばぁーーーーーっ!!」


 僕が秘密基地の中から大声を出すと同時に、真っ赤になったゲートが姿を現わす。

 鬼瓦みたいな怖い顔すれば、あとは……!


 ころりんっ……!


 スプリンタートルたちはびっくりして、ひっくり返ってしまった。

 起き上がれなくなって、じたばたともがいている。


「か……覚悟ぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーっ!!」


 僕は玄関扉を勢いよく開けて飛び出し、すでに構えていた木刀の二刀流で、モグラ叩きのように叩きまくる。

 そして睨んでいたとおり、スプリンタートルは甲羅は無敵の硬さを誇っていたけど、おなかは柔らかかった。


 「えいやっ!」 ボカボカッ! 「「キュッ!?」」

 「このこの!」 ポカポカッ! 「「ピャッ!?」」

 「どうだっ!」 ボコボコッ! 「「ミギュ!?」」


 あっという間に6匹をやっつけて、変則的ながらも一網打尽に成功する。



 『戦闘レベルがアップ! 基地レベルがアップ! 新しいスキルを習得しました!』

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