04 秘密基地からのプレゼント

 秘密基地がまたしてもレベルアップしたので、さっそく増えたスキルを確認する。



 リフォーム・インテリア 秘密基地内のレイアウトを変える



「おっ、リフォーム!? すごく良さそうなスキルだ!」


 あらためて秘密基地に入ってみる。室内は凸型だったけど、奥行きがさらに広がっていた。

 建っている角度もまともになったので、それはもうワンルームと呼んでいいほどの空間になっている。

 僕は部屋の真ん中に立ち、手をかざした。


「リフォーム・インテリア!」


 すると、まわりの白い壁や床が、水の中にあるみたいに揺らぎだした。

 おそるおそる壁に触ってみると、なんだか柔らかい。


 引っ張ってみると、ぐにっと伸びてきて一枚の壁ができあがる。


「なるほど、こうやって好きな形にリフォームできるのか! ってことは……!」


 壁を押したら部屋をさらに広げられるんじゃないかと思ったんだけど、そうすると押したところの壁は奥行きとなって広がってくれるんだけど、そのぶん両隣の壁や天井が迫ってくる。

 どうやらレベルごとに部屋の容積に上限があるようで、それ以上には広がらないようだ。


「レベルが上がれば容積は大きくなるようだし、ひとりで暮すだけの広さはすでに確保されてる。リフォームは後々、必要になったときにでもすればいっか」


 サバイバル生活において、夜露をしのぐというのは大きな課題のひとつだ。

 それがあっさり解決して気が抜けてしまったのか、お腹からすごい音がして部屋じゅうに鳴り響いた。


「そういえばずっと仕事してたから、昨日からなにも食べてなかったんだ……。なにか食べるものは……? って、こんなところにあるわけないか」


 ひとり突っ込みをしながらあたりを見回していると、奥の壁になにかが埋まっているのに気づく。

 近づいてみると、それはなんと、


「……パンと……スープポット……? なんでこんなところに……?」


 トレイに載ったパンとスープポットが、まるでレストランのショーウインドウに飾られてるみたいにそこにあった。


「でも、こんな質素なメニューを置いてあるレストランなんてどこにも……いや、そんなことはどうでもいい」


 とりあえず、取り出してみよう。

 普通だったら壁を破壊しないといけないんだけど、リフォーム・インテリアがあるから簡単だった。


 壁を押し、落ちかけたトレイを片手で受け止める。

 取りだしてみてわかったんだけど、パンはライ麦パンだった。

 指で触れてみると、ごわごわしてて固い。


「でも、食品サンプルじゃなくて本物みたいだ……こっちのスープはどうかな?」


 スープポットのふたを開けてみると、


 ……ふわっ……。


 とあたたかい湯気がたちのぼり、懐かしい匂いが僕を包み込んだ。


「これは……オニオングラタンスープ……!? 僕の大好物だったやつだ!」


 壁の中にあった食べ物なんて本当は警戒しなくちゃいけないんだけど、僕は無意識のうちにライ麦パンを手に取っていた。

 そして、そうするのが当たり前であるかのように、パンをスープに浸してから、ひと口。


「お……おいしい……!」


 身体じゅうに染み渡るような味わいだった。

 心の底から熱いものがこみあげてきて、目頭からあふれ、頬を伝って落ちていくのを感じる。

 僕の生まれたレッドベース家は職人の一族だったけど、他の職人の家に比べてすごく貧乏だった。

 白いパンなんて誕生日にしか出てこなかったし、マカロニの入ったグラタンなんて食べたこともなかった。

 僕が引き取られたブルーシュライン家では、ライ麦パンもオニオングラタンスープも下賤の食べ物とされていた。

 出てくる料理はどれも豪華で、すごくおいしかったけど……。


「でも……この、スープに浸さないと食べられないほどの、カチカチのパン……! かさ増しのために、パンが入ってるこのスープ……! これこそが、僕にとってのふるさとの味……!」


 僕は夢中になってパンとスープを貪った。

 食べ終えた頃はすっかり満たされていて、幸せな気持ちでいっぱいになる。


「はぁ……サバイバルを始めたばっかりで、こんなに満足のいく食事ができるとは思わなかった……。あ、しまった……ライ麦パンは保存が効くから、非常食として少し残しておけばよかった……」


 でもまあ、おいしかったからいっか。

 少し休んだら、これからの食べ物を探さないと……。


 サバイバル生活において、住居と同じくらい問題なのは食糧と水。

 水は近くに小川があるから問題ないとして、食料を確保するのは大変なはずだ。


「あ、その前に道具も必要か。せめてナイフの一本でもあれば、だいぶ違……ん?」


 お腹をさすりながら何気なく視線をやった先、そこにはパンとスープ以上に信じられないものがあった。


「な……ナイフぅぅぅーーーーーーーーーーーーっ!?」


 なんと、壁にナイフが埋まっていた。

 僕は蜃気楼に手を伸ばすような気持ちで壁を押し、ナイフを取る。

 それは柄に宝石がはめ込まれたナイフで、長いこと職人をやってきた僕にはひと目でわかった。


「これ……工具のナイフだ……! それも、すごい業物の……!」


 高級なナイフや斧、金槌やノミなどは『モンスター用』と『クラフト用』のふたつに分けられる。

 なぜかというと魔法が掛けられていて、それぞれに特化した効果があるからだ。


 たとえばナイフの場合だと、モンスター用はモンスターに対してより多くのダメージが与えられる。

 しかし工具として使おうとすると、普通のナイフに比べて切れ味が落ちてしまうんだ。


 なんにしても、いいものが手に入った。

 嬉々として作業着のポケットにしまおうとして、鞘がないことに気づく。


「うーん、剥き身のままだと不便だな。でもまあ、贅沢は……」


 そうつぶやくと、ナイフはまるで僕の意志を汲み取ったかのように縮んでいき、マッチ棒くらいのサイズになった。

 しかも刃に触っても安全なように、キラキラした樹脂みたいなので全体がコーティングされている。

 よく見たらそれは、柄にはめ込まれていた宝石が大きくなったものだった。

 それはもはや工具というよりもアクセサリーみたいな美しさだったんだけど、僕は見とれる以上に焦ってしまう。


「えっ……えええっ!? ち、ちっちゃくなっちゃった!? どうやったら元に戻せるんだろう!? えっと……大きくなれっ!」


 ダメ元で命じてみたらコーティングの宝石が縮み、逆に中にあったがナイフが膨らんでいく。

 立場を逆転させるように、元のサイズに戻ってくれた。


「す……すごい……! リーチを長くするためにちょっと伸びる剣はあるけど、ここまで変わるナイフは初めて見た!」


 それは僕が秘密基地からもらった、はじめての工具となった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る