第41話

「着いたぜ。俺は、このままここで待つ。日暮れまでには、戻って来てくれ。夜は荒れそうなんだ。明日の祭りのこともある」

「わかった。すまんな、行ってくる」

小さな島の縁に船を付け、漁師たちは休憩しがてら待っているようだ。

シュレイン曰く、この島は教団の本部があった本島と言われていた島の様だ。

今は当時山の頂上だった部分くらいしか、海面に出てきてはいない。

辛うじて山の上に会った塔が、倒れそうな危うさで残っているだけだった。

「これだな」

「あぁ、導きの光の塔だな。懐かしいが、随分ぼろくなってる。崩れるかもしれない、気を付けてくれ」

「光は、この塔から出てるっぽいんだよね?シュレインさん。てっぺんのアレかな?」

「そうだぜ、女神。頂上には、魔道具があって、定期的に光ってたんだ。光り方と長さで時間も分かるようになってた。主に漁で生計を立ててたからな。大事な施設だったのさ」

「しばらく待って、光るようなら決まりだな。危険がなけりゃ、それでいいだろう。調査やら何やらは、手を出さんでもいいだろうしな」

「じゃ、しばらく探索しようぜ、エリカ。ボイズは、ここで光るのを見ててくれよ」

「なんで、エリカを連れて行く必要がある」

「え?私、行きたい。一回りするだけだから、一人でもいいけど。どうせなら、ここでの暮らしとかの話も聞きたいかな」

「…ちっ。早く戻れよ」

「「はーい」」

塔の周りを一回り見て回りながら、当時の話を始めるシュレイン。

楽しいことも辛いことも、いたずらをして怒られた話まで懐かしそうに紡がれる話をエリカは聞いていた。

「あ、ここ。ちょっと待ってな?」

突然、塔の入り口の裏手あたりで足を止めたシュレインは、地面を掘りだした。

「何があるの?」

「ん?俺とマリエ様の埋めた宝箱が残ってたらいいなぁと思ってさ」

「宝箱?」

「あぁ、当時の俺たちの宝物なんて、今にしてみりゃガラクタなんだけどさ。あったら、すごいだろ?」

「一緒に掘るよ」

2人で地面を掘り返すこと暫し、小さな箱が出てきた。

表面の保存剤も剥げかけた木の箱は、力なく小さな軋んだ音を立てて開いた。

「ははは、これだよ。あぁ…懐かしい…」

「何が入ってるの?見せて」

「あぁ、全部出してみようか」

そう言って、大切にそっと取り出されたものは、カラカラに乾いた木の実と萎れて原型の無くなった花、割れてしまった陶器のかけら、小さな花が彫られた丸い木の板、そしてエリカが預かっている飾りと似たような雰囲気の葉っぱの意匠の飾り。

「これは?」

「俺がエリカに預けたのと一緒に買った片割れだな。あれ、本当は2つで1つの飾りなんだ。今持ってるかい?」

「あるよ」

花の飾りを取り出すと、シュレインはそっと今箱から出てきた飾りと添わせた。

「なるほど。花と葉っぱが揃って1つなんだ?」

「あぁ、花がマリエ様で葉っぱが俺。そう言って笑ったんだ」

「そっか。思い出の品だね」

「あぁ、まさかここで見つかると思わなかったけど。二人で分けて、片方ずつ持ってたんだ。いつの間に、ここに入れたんだろう?」

「わかんないけど、見つかってよかった。やっと揃ったんだもん」

「あのさ、エリカ」

「なんです?」

「今度は、エリカと揃いで持ってるってのはダメかな?使って欲しいんだ。俺が葉っぱで、エリカが花」

「いいんですか?私で」

「エリカに持っていてもらいたい」

「わかりました。じゃ、使わせてもらいますね。ありがとう」

シュレインの気持ちを理解してか、にっこりと微笑むエリカを見て、空を見上げるシュレインの目には、真っ青な空が映っていた。

「あ、光った!あれでしょう?」

シュレインと同じように空を見上げていたエリカの声で、どこかに飛ばしていた意識を引き戻してシュレインは笑った。

「あぁ、アレだね。行こう」

こうして、港町の不思議な光の現象は解明され、ゆっくりと港町の祭りを堪能した後で3人は王都に戻った。

報告の結果、国の研究員が後日調査に現地に赴くとのことだった。

ほんの少しだけ、自分に何か関連した依頼が来たら、おいしい魚介をまた食べれるのになと思ったエリカだった。



そしてこの親子は、上級冒険者親子として名を馳せていく。

大戦斧のボイズの名は言わずもがな、エリカもいつの間にか瞬風の乙女エリカと言う何とも大仰な二つ名を背負い、どこに行っても人に囲まれる生活を送るのであった。

その後、特級冒険者ボイズの晩年は、引退後に辺境伯家の剣術指南として再就職し領主と領地を支えて余生を過ごした。

1級冒険者エリカは薬師としても貴重な薬を開発して地位を得、国家薬師特別派遣員としてまだ見ぬ薬草や素材を探す使命を兼務しながら冒険者家業を続行。

様々な地に赴き、各地に残る遺跡の探索や凶悪な魔物との戦い、珍しい植物の植生の解明などをこなしていった。

彼女の付近には、影の様にそっと彼女を見守り支える男性の姿がチラホラと目撃されているが、彼女はそれを良しとしているようだ。

どこかの酒場で誰かに、居なくなったら寂しくなると、笑っていたと言う。

後に隣国との戦争に駆り出されるも多くの人々を救い癒し終結への糸口を見つけた功績と、他の薬師たちと共同開発した薬によって世界中に蔓延していた病の平癒に一役買ったとして、国家勲章を賜り特級冒険者へと上り詰めた。

この二人の偉業は冒険譚として、今日もどこかで寝物語にでもされているかもしれない。


                                  Fin

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冒険者協会の養い子~エリカは冒険の旅に出る~ あんとんぱんこ @anpontanko

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