第40話

少しのんびりと、途中途中の街で依頼を受けながら王都まで戻るころには、2級昇格試験を受けるための条件が揃い、お土産と途中で狩った魔物の魔核、獣の肉や素材、摘んできた薬草と作成した薬で親子二人分の空間庫もパツンパツンになっていた。

全て終わって、やっと落ち着けるのだと感慨深く冒険者協会の入り口を入ると、懐かしく優しい顔が出迎えてくれる。

「ミザ姉!ルー姉!ただいまー!」

2人の笑顔に向かって飛び込むと、2種類の優しい匂いがエリカを包み込んでいた。

「「おかえり」」

「お、帰ってきたな。エリカ、ボイズ」

「おぉ、戻ったぞ。マスル、エリカの昇格試験受け付けろ。2級な」

「ん?この前3級に上がったばかりだろう?もうなのか?」

「途中で受けれる奴は全部受けてきた。のんびり帰ってきたからな。ハインケルも世話になったな」

「いえいえ。エリカは優秀ですから、楽しかったですよ。私も人に教えると言う貴重な体験をさせていただきました」

「ハインケルさんの教え方は、すごく分かり易いの。ありがとうございました」

「確かに、教師みたいだったな」

周りにいた冒険者たちも巻き込んで、エリカの昇格の話と長く居なかった分の出来事などが飛び交い、お土産も渡し終えて家に戻ったのは夜中に迫る時間だった。

「疲れた…みんなが色々食べさせてくれるし、お腹パンパンだよ…お風呂に入るのも、億劫だね」

「あぁ、俺もしこたま飲んだな。久々で、まわる…」

「明日は、ルー姉とミザ姉とお出かけしてくるからね」

「あー、新しいパン屋だったか?」

「うん。店内で食べれるみたいだから、お昼食べてくる。おっとぉは、マスルさんの所でしょ?」

「あぁ、そうだった。あいつの所に行くんだった」

「忘れないようにね。なんか、久々に別で動くから新鮮だね」

「…そうやって、親離れしてくんだな…」

「泣かないでよ?」

「泣かねぇよ!」

「試験まで少しあるから、日帰りできる依頼は一人で行こうかな。エドが居れば、多少の距離は何とかなるし。どう?」

「おっとぉは、寂しい…が、冒険者としては、独り立ちしないとな。わかった。明日化は、別々な。でも、人数が居るやつは一番最初におっとぉに言えよ?」

「わかってるよ。心配性と寂しがりは、きっと治らないんだろうね」

「治す気は、無い!」

「威張って言うことじゃ無い。さ、お風呂入って寝るよ」

「あぁ、先に入ってこい」

「はーい」

エリカは、軽い足取りで居間を出ていく。

それを見送るボイズは、何とも言えない複雑な親心を映したような顔をしていた。


エリカは程なく2級冒険者へと昇格し、単独行動が増えた。

その中で何度かシュレインと会う機会はあったが、いつもなんだかんだと理由を付けて預かりものを返せないでいる。

返そうとするのを諦めて、大事に持っていればいいかと思い直し、小さな飾りは今も大切に仕舞われている。

討伐依頼ではボイズ以外の冒険者との行動も増えて、父との連携に慣れ過ぎた自分に落ち込んだりもした。

突っ込んでいくのも好きだが支援することも好きだと改めて気づいてからは、誰かと行動するときは支援役を買って出ている。

エドは更に大きくなり、ドズと並んでも見劣りしない。

自慢の相棒だが、人間の男も馬形の獣や魔獣のメスも引き寄せてしまうモテっぷりに少々辟易しているエリカだった。

因みに、エラとドズの間には、更に1頭メスの子供が生まれおり、ハインケルは楽しそうに世話をしている。


なんだかんだと時間が経ち、経験は蓄積し、エリカは1級冒険者へと昇格していた。

「さ、ついに約束の海だね!おっとぉ、早く行こう!」

「お前ねぇ、調査依頼だってこと忘れんなよ?ただの物見遊山じゃねぇぞ?」

「わかってるよ、でも、二人で依頼を受けるのも久々だし、海だし、少しだけ楽しんでもいいでしょう?」

「いくつになっても、お前は…」

「いくつになっても、私は私です」

「ったく…」

しょうがないなと思ってはいても、自分も嬉しいことに変わりなく少し浮ついている気持ちを宥める努力が必要なボイズである。

そこは、ボイズとエリカの母マリエが出会った町だった。

奇しくも時は祭りの前日、当時のことをぽつぽつと懐かしみながら話すうちに町を仕切る長の家へと到着した。

依頼内容は、最近海から現れると言う不思議な光の調査。

話を聞いても、いつの間にか海が光っていて、やがて光が頭上を通り過ぎていくとしかわからなかった。

しょうがなく、光の発生源である海へと向かうと、海岸沿いには見知った顔があった。

「お前も居たのか、シュレイン」

「おっと、お二人さんが来たのか」

「海に行くときの約束してたから探してたんですよ?シュレインさん」

「そりゃ…ごめんなぁ。覚えててくれて嬉しいよ」

「で?何かわかったのか?」

「あぁ、多分、な。沖のずっと向こうに津波に飲まれた島がある。まるっと一日ここで見てたが、あっちから光が射して、しばらくすると反対側へ向かって消えていく。別に、特に悪さはないよ。ただの光だ」

「発生源は?」

「多分、教団の施設だろうな。導きの光の塔ってのが昔建ってたんだ。光を定期的に発して、船が迷わず帰って来れるように目印になってた。それだと思う。何かの拍子に、浮き上がってきたのかもしれないな」

「ふむ、確かめに行けそうなのか?」

「船が出りゃな」

早速、船が出せるかの交渉に向かい、何人かの漁師の協力を得て船を向かわせた。

「船に乗るのは初めてだよ。こんなに大きいものなんだね。エドとドズが乗ってもびくともしないなんて」

「そりゃ、大量に魚を積んで港に戻るんだ、これくらいなら訳ないさ。あんたは、冒険者なんだろう?渡し舟くらいは、乗ったことあるんじゃないのかい?」

「そりゃあるけど、海だし、渡し舟は船ってより魔獣だもん。全然違うよ」

「はは、ま、そりゃそうか」

「エリカ、はしゃいで落ちるなよ?」

「落ちても、さすがに助けられないぜ?大人しくしててくれ、俺の女神…」

「はいはい。お目付け役が増えちゃったかな…」

「おい、ボイズ、俺の女神から可愛げが薄まってるぞ?どうゆうことだ?」

「あのなぁ、あいつももう1級冒険者だぞ?いつまでもお嬢さんな訳ねぇだろうが」

「…可愛いままでいて欲しい…」

「そりゃ、俺だって思ってるよ…」

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